スナイパーと桜

3ピースりょう

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〇低層ビルの屋上
  このところ、
  コロさなければならない奴が
  増えていた。
  このところ、
  コロさなければならない奴が
  増えていた。
  「コロす」と言っても、
  思想転換薬を
  ぶちこむことだが、
  フミカは、
  これを仕込んだライフルで
  長距離から狙撃する
  スナイパーだ。
  最近は特にコロしの依頼が
  多く、フミカはイライラした。
フミカ「まったく。いい加減にしろよな」

〇古い大学
  フミカは、
  スナイパー大学校を
  最年少首席卒業。
  その後、
  世界で数人と言われる
  新世界政府公認
  スナイパーとなる。

〇国際会議場
  10年前、
  新世界政府の政策により
  ──────
  世界の安全を脅かす
  「キレイゴト思想」を持つ
  人物には、
  ──────
  思想転換薬による
  「コロし」を認める
  法案が可決。
  思想を転換されることにより、
  人が持つキレイゴトが抹殺される。
  「キレイゴト」は
  なんの役にも立たない
  人類にとって害悪とされた。
  政府の政策により、
  思想転換薬の摂取は義務化されたが、
  ──────
  それを逃れた者や、
  覚醒した者たちによって、
  キレイゴトは密かに生き残っていた。

〇低層ビルの屋上
フミカ「絶滅危惧種が。とっとと消えちまえ!」
フミカ「・・・ まあ、そうなると私の仕事が なくなってしまうか」
フミカ「それにしても、 最近は出動が多すぎるんだよ!」

〇朝日
フミカ「昨日は、 【夕焼けで涙を浮かべる】 という頭のイかれた連中に 銃弾をぶち込んだところだし、」

〇散らかった部屋
フミカ「一昨日は、 【鳥肌が立つ詩を書く詩人】に、 3発もお見舞いした」

〇低層ビルの屋上
フミカ「今日も、 【観賞用の花を所有する】という くその役にも立たない 社会のゴミがターゲット」
  十数年前まで、
  そんなことが
  「美しい」とかいう言葉で
  語られていたなんて
  
  フミカは信じられなかった。
フミカ「くだらない」

〇繁華な通り
  雑居ビルの屋上から、
  ターゲットを待つ。
  
  ターゲットは少年らしい。
  観賞用の花の苗木が
  密かに移送されると聞いている。
  覗き込んだスコープに
  それらしき人物が
  現れた。
  ターゲットの少年だ。
  手に苗木らしきものを
  持っている。

〇低層ビルの屋上
  確認のため、
  苗木に照準を合わせる。
フミカ「・・・オッケー キレイゴト物証を確認! あれは間違いなく、 観賞用だな・・・」
フミカ「ったく。 観賞用の花だなんて、 一体何の意味があるんだ」
フミカ「さぁ、観念し・・・ろ・・・よ、と」
  フミカが、
  ライフルの照準を改めて
  少年のこめかみに合わせようとした、
  その時
  少年の手に持つ苗木に
  見覚えのある花があることに
  気づいた。
  それは、
  桜の花を咲かせた枝だった。
フミカ「・・・桜!?」
フミカ「桜・・・桜・・・」
フミカ「・・・・・・」
  フミカはトリガーにかけた指を
  静かにゆっくり離した。

〇桜並木
「・・・さくら ・・・桜・・・桜」

〇桜並木
男「ほら、桜が満開だよ」
少女「うわーーー ほんとだぁ!!すごーーーい」
男「桜っていうんだよ。 覚えておきなさい。 きっともう間も無く見れなくなるだろうから」
少女「え? どうして?? こんなにキレイに立派に咲いてるのに」
男「そうだね・・・ でも、忘れないように、 桜をしっかり見ておきなさい」
少女「うん! フミカは忘れないよ! こんなに立派でキレイなんだもん!」
男「大切なことなんだ。 これは大切なことなんだよ。 忘れないように、 忘れないように、 見ておこうな」

〇桜並木
「・・・そっか そうだった・・・ 私、忘れてた」
「・・・大切なこと そう・・・ 桜・・・ 大切なこと・・・」
フミカ「どうしてなの? 私、泣いてる!? 悲しい・・・の!? でも、あたたかい・・・」
少女「キレイだね・・・ 立派だねぇ」
男「大切なことだよ・・・ 本当は誰にも奪えない 大切なことだよ」
フミカ「あ・・・ おと・・・おとうさ・・・」
  フミカの胸の奥から
  あたたかい感情が
  蘇ってきた。
  それは、
  懐かしくて、
  優しくて、
  繊細で、
  あたたかい。
  まるで、
  それは鍵のかけられた牢に
  閉じ込められていたようだった。
  そのあたたかいものは、
  胸の奥から、
  じわりじわりと全身にひろがり
  ──────
  ついには、
  
  頬から
  そのあたたかいものが
  溢れ出てきたようだった。
フミカ「ありがとう・・・小さなわたし」
フミカ「ありがとう・・・ おとうさん・・・」

〇森の中
  フミカはスナイパーを
  引退した。
  
  そして、
  人知れず田舎に越し、
  ──────
  今はすっかり伐採され
  なくなってしまった桜の木を
  
  少年と育てることにした。
少年「フミカ、桜を見たことあるの? すごい!!」
フミカ「あるよー ・・・忘れてたけどね! 立派だよー キレイだよー」
少年「見たい!! 絶対見たい!!」
フミカ「見ような! 絶対見ような!!」
  フミカは、
  
  すっかり伐採され
  なくなってしまった桜の木を
  少年と育てることにした。
  フミカは、
  スナイパーとして
  育てられる前に
  
  思想転換薬を
  投与されていたようだ。
  桜の花は
  フミカの中に眠る
  「キレイゴト」を蘇らせた。

〇桜の見える丘
  一年に一度咲かせる
  その花の色は、
  ──────
  忘れていた今はなき故郷の色。
  フミカにとって、
  大切なキレイゴトだった。

〇桜並木

〇黒
  おわり

コメント

  • いまの時代はミニマリストがはやり、必要のないものを買わなくなり、現実的に暮らすがゆえに、こういった気持ちの余裕だったり、感動も削ぎ落とされている気がします。キレイゴトは人生には必要のないものかもしれないけれど、彩りのある人生を送るための重要なエッセンスなのではないのでしょうか。桜もしかり。

  • 知らず知らずのうちに思い出や大切な物を忘れているなぁと…。
    社会の渦に巻かれて…自然災害やウイルスばかりに目が行く今だからこそ、大切な何かを思い出さなければと思いました!

  • キレイゴトを抹殺すると聞いてドキッとしましたが、要するに実務的でない、余暇的なことを意味するのですね。てっきり建前をペラペラ述べている人が殺されるのかと思い、はじめはぎくりとしました。そうしたらほんとうにきれいなもの、鑑賞対象のものを不要と判断するとのことだったのですね。きれいなものを見たり触れたりして、過去の記憶や温かい気持ちが蘇るのは、わかる気がします。桜の偉大なパワーを思い知らされました。

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