エピソード30(脚本)
〇西洋の城
メルザイアスの光の筋から降りてくる、白銀の物体のシルエットがぼんやりと見えてきた。
近づくにつれてなにが降りてきているのか理解した人々は、悲鳴とともにコアから遠ざかるように逃げ出す。
ギラノスよりも、フリューゲラスよりも巨大なギアーズの姿に皆が戦慄した。
民衆はパニック状態に陥り、広場は混乱を極めている。
そのときニルの右腕が強い光を放ち始めた。
エルル「ニルさん、その腕・・・」
ニル「・・・!」
ニルはエルルの声で自分の腕の異常さに気づき、慌てて右腕を押さえる。
いつの間にか、辺りには一部のコレクターを除いて人がいなくなっていた。
ざわめきが消えつつある中で、アイリは目を見開きながらつぶやく。
アイリ「そんな・・・あれは・・・!」
〇西洋の円卓会議
議長は広場から少し離れた塔の上部から、光の中を降りてくるギアーズをまじまじと見つめていた。
議長「白光(びゃっこう)闇に喰われし時、其の者雷鳴を纏(まと)い天より降り立つ」
議長「其の名“天飆(びょう)”——ガルバニアス」
この世界に古くから伝わる神話の一部をそらんじる議長に、長老たちがざわつく。
議長「・・・静まれ」
ぴたりと皆の声が止み、議長は鋭く彼女へ命令を下す。
議長「エミリアよ」
エミリア「はっ!」
そう言い残し、エミリアが姿を消す。
残された評議長と長老たちは、光の筋をじっと見つめていた。
議長「・・・調(しらべ)が崩れるか・・・」
〇西洋の城
白銀のギアーズ……ガルバニアスはゆっくりと地上に降り立つ。
ガルバニアスを中心に、地面に衝撃が響いた。
ガルバニアスは黙ったまま、その場に残った人間を見つめている。
上空を覆っていたメルザイアスは、何事もなかったかのようにそのまま去って行った。
〇西洋の城
メルザムに元の明るさが戻る。
エルル「ニルさんどうします!?」
ニル「・・・わからない。 おそらくあれは・・・ネームドだ」
ニル「それも、今まで出会ったことのない力を感じる」
3人が警戒していると、ガルバニアスの背後からなにかが飛び降りた。
ニル「!?」
音も立てずに着地したそれは、中性的な見た目の青年だ。
ニル(・・・人間?)
微動だにしないガルバニアスを置いて、謎の青年はニルたちがいる方へと歩いてくる。
ふと、ニルは隣にいるアイリが小刻みに震えていることに気づいた。
アイリは穴が開くほど、じっと青年を見つめている。
ニル「アイリ、どう——」
突如、アイリの目に激昂の色が映し出された。
アイリは素早いスピードで駆け出す。
跳び上がり抜刀すると、その青年に向かって勢いよく切りかかった。
青年は特に構えるそぶりもなく、のんきにあくびをしている。
キンッ、と辺りに金属音が響いた。
アイリが気づくと、青年は2本の指で双剣の刃を止めていた。
アイリ「!!」
青年が軽く指を動かすと、アイリの身体が後方へとものすごいスピードで飛ばされる。
ニル「アイリ!!」
エルル「アイリさん!!」
アイリは空中で体勢を立て直し、地面にしっかりと着地する。
殺意の目で睨むアイリに、青年は肩をすくめた。
???「君に用はないよ」
青年とアイリのやり取りを見ていたニルは、ぎゅっと拳を握り小さく呟く。
ニル「・・・ごめん」
そう言って、ニルは逃げるようにその場を離れた。
エルル「ニ、ニルさん!?」
混乱しっぱなしのエルルは、ニルの背中に向かって叫んだ。
しかし、ニルは振り返らずに全速力で駆け抜けて行った。
青年はしばらくアイリを見つめていたが、すぐに興味を失って目をそらした。
それから、辺りに聞こえるように話し始めた。
???「この街で一番強いヤツをここに呼んで。 3分待ってあげるよ」
エミリア「私だ」
エミリアは広場に残った者たちの視線を集めながら、青年へと近づく。
エミリア「道場破りにしてはずいぶんと不躾(ぶしつけ)だな」
青年は、エミリアに面倒臭そうな表情で視線を送った。
エミリアは一瞬ガルバニアスを警戒するように見る。
しかし、動く気配がないことを察してすぐに青年に向き直った。
エミリア「私の名はエミリア・グレイス・ブッシュバウム」
???「ふうん・・・そう」
エミリア「お前の名前は」
???「・・・・・・」
エミリア「・・・名乗らぬか。ならば・・・」
エミリアは肩をぐっと構える。
槍の周りの大気が、蜃気楼(しんきろう)のように歪み始めた。
エミリア「察して参る!!」
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