C.何も買わない(脚本)
〇ペットショップの店内
私は・・・
愛依「すいません、じっくり考えたいんで今日は・・・」
やはり新しい家族を迎え入れるには、もっと時間を使って考えたい
店長「そうですね、急いで決める事でもございませんので、ユックリとお考え下さい」
愛依「もし決断した場合はまた来ますので、その時は宜しくお願いします」
店長「はい、お待ちしております」
こうして私は、手ぶらで帰宅する事になった
〇満車の地下駐車場
マンションに戻った私は、駐車場に車を止めエントランスへ向かう
〇マンションのエントランス
久々に長時間外出して疲れた、今日は早く寝よう・・・
そんな事を考えていると・・・
愛依「げっ・・・」
見覚えのある人影に、思わず顔をしかめる
エントランス前に居たのは・・・
樹「愛依!」
愛依「樹・・・」
樹「こんな時間に出掛けるなんて珍しいな?」
愛依「何か用?」
私は笑顔で駆け寄る樹を軽くあしらう
樹「そんな連れない事を言うなよ・・・」
愛依「もうアナタとは連れでも何でもないでしょ」
樹は元彼、もう一月も前に別れている
樹「そ、それはそうだけど・・・」
愛依「で、もう一度聞くけど何の用?言っとくけど部屋には上げないからね」
樹「いや、久しぶりに食事でもどうかなって・・・」
愛依「お断りします」
樹「そう言うなよ~」
愛依「じゃあね」
樹「ま、待ってくれ!頼む!おごるから!何でも食べて良いから!」
愛依「・・・ふぅ」
無視しても良いんだけど、家まで来ている事を考えるともう一度しっかり話した方が良いかもしれない・・・
愛依「仕方ない・・・」
〇ファミリーレストランの店内
樹「ファミレスで良かったのか?もっとオシャレなレストランとかバーとか・・・」
愛依「バーって・・・食事すっ飛ばして酔わせようってつもり?」
樹「ち、違う違う!そんなつもりないって!」
女が何でも「オシャレ」に食いつくと思うなよ?
愛依「っで?三度目だけど何の用?本当に食事だけ誘いに来たって訳じゃないんでしょ?」
樹「・・・」
樹「俺達さ・・・もう一度やり直せないか?」
愛依「無理」
樹「即答しないでくれよ・・・」
愛依「何度も言ったよね?私、浮気だけは絶対に許せないって」
愛依「仕事がどうとか趣味がどうとか一切口を挟まない、だけど浮気したら即刻別れるって」
樹「うぅ・・・ゴメン・・・」
愛依「誤らなくて良いよ、もう他人なんだから」
樹「もう二度と浮気はしない!金を貸してくれとも言わない!勝手に部屋の合鍵を作ったりしない!」
樹「だからもう一度だけチャンスをくれ!頼む!」
愛依「・・・あのさ、別れる前に何度も話し合ったでしょ?」
愛依「このまま我慢して付き合っても、私は樹の事を信じられない」
愛依「相手を信じられない状態で付き合っても、絶対に上手く行かないって」
私が恋人に求める最大の要素が『信頼』だ
そりゃ、ルックスとか性格だって大切な要素だけど、大前提として信頼できない相手と付き合うつもりはない
同じ理由で修羅場になった両親を見ているから
なじり合う両親の姿も、私の存在を理由に二人が再構築した事も、元に戻りきれていない家庭も、全部嫌だった・・・
自分が大人になったら、あんな家庭には絶対にしたくない・・・そう決意していたから・・・
愛依「だから、無理・・・」
樹「うぅ・・・」
樹が俯いてしまった
樹も私の性格は知ってる
絶対に折れないことは良くわかっているだろう
樹「どうしたら、また信頼して貰えるかな?」
愛依「それがわかってたら、別れてないよ・・・」
私にだって情はあるんだから・・・
愛依「・・・帰るね」
結局、私は料理を注文する事なく席を立った
〇整頓された部屋
それから私は、相変わらずの生活を送っていた
毎日仕事に追われ、在宅ながら忙しい日々
アレから樹が現れることもなく、連絡もない
何時しか復縁を迫られた事すら忘れかけていた、そんなある日・・・
・・・「・・・で発見された樹さんは・・・」
テレビから流れた聞き覚えのある名前に、私は反射的に振り返った
〇テレビスタジオ
アナウンサー「・・・樹さんは数日間無断欠勤が続いており、会社の同僚が自宅を訪ねた所、遺体で発見されました」
アナウンサー「なお、死因は頸動脈を切断されての失血性ショック死と見られており・・・」
〇整頓された部屋
愛依「樹が・・・死?」
最初は聞き間違いかと思った
しかしモニターに映し出された現場のマンションで、それが聞き間違いでない事を知った
愛依「何・・・何があったの?」
事態が呑み込めず呆然とする中、不意にインターホンが鳴った
インターホンのカメラを確認すると、モニターには一人の男性の姿が映っている
それは見覚えのない男性だった
刑事「すいません、私こういう者なんですが・・・」
男性はモニターに向けて警察手帳を見せてきた
刑事「突然お尋ねして申し訳ございません、樹さんの事をご存知でしょうか?」
唐突な質問に、僅かながら戸惑う
愛依「はい、知り合いですけど・・・」
刑事「樹さんについて、少しお話をお伺いしたいのですが」
愛依「はぁ・・・」
一瞬で思考を巡らし、合点がいった
いや、考えれば当然の事だろう
私は彼の元カノなんだから・・・
刑事「あの・・・いかがでしょうか?」
愛依「あ、はい・・・えっと・・・」
普通に考えれば素直に話すべきだろう
でもなぜだろう、嫌な予感がする・・・何だか似たようなシチュエーションを聞いた事があるような・・・
私は・・・
D.ごまかして断る
E.ドアを開けて話をする