ウェンデッタの旅路

野良

【第一章 旅人】(脚本)

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〇黒
  ”北方の宮廷魔術師”を名乗る、旅人の少女がいた。
  リヒト・アインザムカイト。
  
  それが少女の名だった。
  故郷を失い、
  家族を失い、
  居場所を失い、
  行くべき道は闇に包まれ──
  それでも彼女は、全てを取り戻すために進み続ける。
  その先にあるものは、幸福か、それとも──

〇走る列車
  【第一章 旅人】
  ふと視界に入った外の景色に、本から視線を外し、窓の外を見る。
  小さな町が近づいてきている。
  それを見て、私は向かいに座って眠る彼の肩を揺さぶった。
リヒト「シュレム・・・・・・シュレム。起きてください」
  彼はぴくりと眉を動かし、重そうな瞼を上げて伸びをした。
リヒト「そろそろ着きますよ」
シュレム「んあ・・・・・・? あぁ、そうか」
  彼は返事をすると、そのまま目を閉じて再び眠り始めた。
シュレム「・・・・・・Zzz」
リヒト「・・・・・・」
  苛立ちを覚えて頬をつねると、彼は弾かれたように飛び起きた。
シュレム「いひゃいいひゃい!何すんだ!」
リヒト「もうすぐ着くと言ったでしょう?」
  ため息を吐いてそう答えると、彼は頬を擦りながら横目で私を見た
シュレム「いったあぁ・・・・・・。 お前、もう少し優しく起こせないの?」
リヒト「あなたが起きないからですよ」
  シュレムは不満げにむすっとする。
  そんな彼に呆れていると、アナウンスが入った。
  まもなく、ルーベリーの町でございます。お降りの方は、お忘れものの無いよう──
  その声に、私は荷物をまとめ始める。
  再び眠り始めるシュレムに彼の荷物を投げつけ、私はまた窓の外を見た。
  列車が、駅に近づく。

〇ヨーロッパの街並み
  ──ルーベリーの町
  駅を出ると、のどかな町並みが飛び込んできた。
  ──ここは西の大陸にあるルーベリーという小さな町。
  この町へは、町長に訊きたいことがあってやって来たのだ。
  ルーベリーの町長は、この世界──『エルデア大陸』の歴史に詳しいと聞く。
  もしかしたら、あれの有力な手がかりを得られるかもしれない。
シュレム「町長の家は、町の中心にある赤い屋根の家だってよ」
リヒト「ええ、分かりました」
  シュレムと共に、中心部の赤い屋根の家へと向かう。この町はそう広くはないらしく、辿り着くのにさほど時間はかからなかった。

〇ヨーロッパの街並み
リヒト「──ここですね」
リヒト「シュレム、失礼の無いようにしてくださいよ」
シュレム「お前こそ、勘づかれるようなこと言うなよ?」
リヒト「分かっています」
  ドアの前に立ち、ノックする。
町長「はい」
  数秒の後家から出てきたのは、初老の男性だった。優しげな雰囲気のある人だ。
町長「おやおや・・・・・・どちら様でしょうか?」
リヒト「初めまして。私は北方の旅人、リヒトと申します」
リヒト「こちらは友人のシュレム」
リヒト「あなたが町長さんでしょうか?」
町長「ええ、そうです。私に何かご用事ですか?」
  私は短く説明した。
リヒト「国の命により、あるものを探して旅をしているのです」
リヒト「あなたは歴史に詳しいと聞きました。ぜひお話を聞かせてはいただけませんか?」
  私の言葉に町長はきょとんとして、その後照れたように微笑んだ。
町長「いやはや、詳しいという程ではありませんが・・・・・・」
町長「しかし、私でお役に立てるならぜひお話しましょう。どうぞ、上がってください」
リヒト「ありがとうございます」
  後ろのシュレムを振り返ると、彼は嬉しそうに頷いた。

〇おしゃれな居間
  ──町長宅
  ──家の中に入り、テーブルにつく。
  町長はお茶を出してくれた後、口を開いた。
町長「さて・・・・・・リヒトさん、シュレムさん」
町長「あなたたちは何を探しているのでしょうか?」
  私はお茶を一口飲み、彼の問いに答えた。
リヒト「──”魔石時計”、というものをご存知ですか?」
町長「ま、せき・・・・・・?」
  その単語に、町長は腕を組んで唸った。
町長「すみません、聞いたことがないものでして・・・・・・」
町長「あなたたちは知っているのでしょうか。教えていただけますか?」
リヒト「ええ、もちろんです」
  記憶を頼りに説明する。
リヒト「・・・・・・あれは、かつて北方にあった国の国宝だったそうです」
リヒト「今は、その国はありませんが・・・・・・」
シュレム「・・・・・・」
町長「北方・・・・・・今はない国・・・・・・」
町長「・・・・・・すみません。歴史は得意なのですが、地理には弱くて」
リヒト「いいえ、お気になさらず」
リヒト「きっと今は、ほとんどの人が覚えていない国ですから」
リヒト「・・・・・・魔石時計は、この世界のどこかに隠されている。私はそれを探しているのです」
  そう告げると町長はしばらく考え込んでいたが、
町長「そうだ!」
  思いついたようにそう言って、席を立った。
町長「少し待っていてください」
リヒト「・・・・・・? はい」
  町長は奥の部屋へと消えていき、数分後に何かを持って戻ってきた。
  それは古びた本で、表紙にはかすれた文字で題名が記してある。
シュレム「・・・・・・それは?」
  シュレムが訊くと、町長はやや興奮気味に説明した。
町長「私が持っている歴史書の原本ですよ」
町長「かなり古いものなので、お役に立つかもしれません。どうぞ、お持ちください」
リヒト「よろしいのですか?」
町長「ええ、私はもう何度も読みましたから」
  町長は私たちの顔を見回し、それに──と続けた。
町長「それに、若い人たちに歴史を知ってもらえるなんて、喜ばしいことではありませんか」
  笑ってそう言う彼に、私は微笑む。
リヒト「・・・・・・そうですね、ありがとうございます」
  私はもらった本をトランクにしまい、町長に頭を下げた

〇ヨーロッパの街並み
  去り際、町長がこう言った。
町長「そうだ」
町長「先ほど北方と仰っていましたが・・・・・・あなたたちは北の方から来たんですか?」
シュレム「ああ」
町長「そうですか・・・・・・随分と遠くからいらっしゃったんですね」
  彼はそれを聞いた後、ものものしい顔をした。
町長「気をつけてください。ここ最近、物騒なことが多いですから」
リヒト「・・・・・・はい。ご忠告、感謝いたします」
  忠告をしっかりと胸に刻む。
  町長に見送られながら、私たちはその場をあとにした。

〇レトロ喫茶
  ──酒場
  お腹が空いたというシュレムの要望を呑み、私たちは町の喫茶店に入った。
  私はまだ空腹ではないので、時間潰しに町長にもらった本を開く。
  ところどころページが破れてはいるが、読めないということはない。
  食事をとるシュレムを尻目に、私は歴史書を読み始めた。
  『エルデア大陸は、かつては一つの大陸だった。しかし五千年前に天災が起こり、大陸は四つに分断された。』
  『人々は四つの大陸を四方位に分け、それぞれの地に三つずつ国を作った。』
  『各大陸で有名な国は、西方は“マリアミーグ王国”、東は“サクラ王国”、南方は“ユフィレーネ王国”。』
  『北方は“クロスタ王国”と“ジェノ帝国”が並んでいる。この各大陸の有名な国を、“四大国”と呼ぶ。』
  『只、北方に関しては未だどちらが四大国か決まっていない。また、四大国の基準は』
リヒト「・・・・・・」
  そこまで読み終えて、ページをとばす。
  こんなことはとうの昔に知っている。私が求めているのはこの情報ではない。
  次々とページを読みとばしていき、私は一つのページで手を止めた。各国について書いてあるページだ。
  『──クロスタ王国』
  『北方に位置する大国であり、また、エルデア大陸で最も魔法に優れた国である。』
  『建国から現在まで平和と平等を掲げた国であり、そのためか国内には多くの種族が暮らしている。』
  『国宝は膨大な魔力のこもった秘宝、“魔石時計”。』
  『その所在は国王にしか分からず、代々王位を受け継いだ者だけが在処を知ることができる。』
リヒト((・・・・・・なら、あの人は))
リヒト((あの人は知っていたのか))
  だが、今となってはもう知るよしもない。クロスタはもう、この大陸には存在しないのだから。
  あの国は私が12歳の頃に滅びてしまった。他国から襲撃を受けたのだ。
  襲撃してきたその国は、力に溺れていた。
  クロスタは魔法に優れた国で、力も当然強かった。
  だが国内に内通者がいて、その者の裏切りによって陥落してしまったのだ。
  クロスタの地はその後襲撃国の領地となり、元々暮らしていた人々は、襲撃国の貴族や王族から差別を受けた。
  奴らは、力を欲していた。国宝である魔石時計の話を聞きつけ、クロスタを襲ったのだ。
リヒト((・・・・・・何としても、魔石時計は回収しなければ))
  あれが奴らの手に渡ってしまったら、大変なことになる。それは何としても避けなければならない。
「おい」
リヒト「っ!」
  シュレムの声にハッとする。無意識に顔がこわばっていたようだ。
シュレム「・・・・・・あんまり詰め込みすぎるなよ」
リヒト「あ・・・・・・はい。すみません」
  注文しておいてくれたのか、シュレムがコーヒーを私に差し出す。
  それを受け取って一口飲むと、少しだけ気分が落ち着いた。
リヒト「・・・・・・ふぅ・・・・・・」
シュレム「ったく・・・・・・。で?これからどうするんだ?」
リヒト「そうですね・・・・・・今の時刻は?」
  そう言うと、シュレムは腕時計に目をやる。
シュレム「・・・・・・15時27分ってとこかな」
リヒト「わかりました」
リヒト「・・・・・・ここから西の方に、大きな図書館のある街があったはずです。そこでこの歴史書と一緒に、もう少し調べましょう」
シュレム「ああ、わかった」
  今日のところはルーベリーの宿に泊まることにし、明日の朝出発することになった。

コメント

  • 男女コンビの旅物語は波乱万丈の予感がします。リヒトとシュレムはどういういう間柄なのか、魔石時計とはどんな威力を持つものなのか等々、いろいろ気になるポイントがありました。

  • この二人はお互いが足りない部分を持ってそうで、いいパートナーなんだなぁと感じました!
    続きがとても気になりますし、大分長編になっても最後まで読みたいと思いました!

  • 彼女の旅の相棒は少し頼りない気がしましたが、きっとこの先重要な役目をこなしてくれるのでしょうね。彼女の取り換えすべきものが全て彼女の元へ返ってくることを願っています。

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