エピソード29(脚本)
〇西洋の市場
エルルは腕相撲勝負に挑戦することになった。
エルルと腕相撲チャンピオンのあまりの体格差に、なんだなんだとギャラリーが集まってくる。
ギャラリー「ゲ、ありゃ勝てるわけないよ」
ギャラリー「よく挑戦したなあ」
チャンピオンの男はニヤニヤと笑う。
チャンピオンの男「嬢ちゃん本気か? 怪我してもしらねえぞ?」
エルルはギャラリーと男の言葉を聞いても、変わらずニコニコと笑ったままだ。
大きな樽(たる)の上に肘をついて、両者が手をガッチリと握り合う。
ニル「頑張って、エルル」
エルル「はいっ!」
両者が向き合ったのを確認して、花柄シャツの男はふたりの拳の上に手を置いた。
花柄シャツの男「それじゃ、始めるぞ。レディー・・・」
花柄シャツの男「ファイトッ!」
花柄シャツの男の手が挙がる。
一瞬で決着がつくかと思われたが、力が均衡した状態のまま保たれた。
ギャラリーたちはその様子を見てふたりに野次を飛ばす。
ギャラリー「はっ、優しいねえ」
ギャラリー「本気出せー!」
周りの誰もが、チャンピオンがエルルに手加減をしていると思っていた。
・・・ニルとアイリを除いて。
ニル「・・・アイリ」
アイリ「・・・遊んでるわね、あの子」
ふたりが肩をすくめる一方、腕相撲をしているエルルは相も変わらず笑顔だ。
しかし、チャンピオンの男にさきほどまでの余裕の表情はない。
チャンピオンの男「・・・グッ・・・」
チャンピオンの男(なんだこの力・・・!?)
男が全力を出しても、エルルの腕は微動だにしなかった。
エルル「・・・これが本気ですか? なら、こっちからいきますよっ!」
チャンピオンの男「!?」
エルルは握った拳の形を少し変え、それから腕にぐっと力を入れる。
チャンピオンの男「えっ」
男が気付いたときには、その身体はぶわりと宙に浮いていた。
エルルの腕は樽についたままだ。
そのまま一気に決着がついた。
チャンピオンの腕が樽の上に強く叩きつけられる。
それとともに樽は粉砕され、男の身体が地面に叩きつけられた。
ギャラリー「・・・・・・」
周囲にいたギャラリーたちも呆気に取られて言葉を失う。
花柄シャツの男も、目の前のまさかの光景に呆然としている。
エルル「私はニルさんを馬鹿にする人は許しません!」
エルルは元チャンピオンの男に背を向けて、ニルとアイリに向かってVサインを決めた。
ニルとアイリは少し唖然(あぜん)とながらも、「エルルを怒らせるのはやめておこう」と心に決めたのであった。
ギャラリー「いいぞー姉ちゃん!」
ギャラリー「ナイスファイトー!」
男たちは素直に負けを認めて、とほほ・・・と肩を落とした。
エルルは約束通り賞金を受け取って、ニルとアイリのもとへ戻ってくる。
ニル「お疲れ様、すごかったよ」
エルル「えへへ・・・」
アイリ「さすが、フリューゲルスを打ち上げるだけあるわ」
エルル「まあ、あれはおじいちゃんの鍛えた武器の力を借りてますけどね」
エルル「さすがに私だけじゃあそこまでの力は出せません」
エルルは照れたように笑っている。
アイリ「なるほどね」
アイリ「でも、それでも十分すごいんだけど・・・」
エルル「?」
アイリ「じゃあ、そろそろギルド前の広場に向かいましょうか」
アイリの言葉にニルはきょとんとする。
ニル「なにかあるの?」
アイリ「メルザイア教の神聖な儀式よ。 説明するより見たほうが早いわ」
エルル「このお祭りのメインイベントですよ!」
〇西洋の城
ギルド前の広場には、驚くほどの人数が集結していた。
広場に入りきらないほどの賑わいだが、上級以上のコレクターには同伴者も一緒に座れる席が用意されているようだ。
3人は人を掻き分けて、その席に座らせてもらうことにした。
儀式が始まるまでの待ち時間、ニルは周りを眺めていた。
祀(まつ)るように設置されたのは、とてつもなく大きい丸い玉だ。
直結5メートルほどもあるこの玉は翡翠(ひすい)色に輝いていた。
その玉の周りには、独特な礼装に身を包んだ女性たちが控えていた。
ニル「あれって・・・コアだよね?」
アイリ「そうよ」
ニル「あれがコアってことは、本体はとてつもない大きさのギアーズだね・・・」
アイリ「私もそこまで詳しいことは知らないけど・・・」
ううむ、と首を捻るふたりにエルルは説明する。
エルル「あれはメルザイアスのコアです」
エルル「伝説では、1匹のメルザイアスがこの地で力尽き、そのパーツを使ってこのメルザムが作られたと言われています」
ニル「メルザイアス?」
エルル「はいっ。もう少ししたら分かりますよ」
そう言ってエルルが微笑むと、民衆の騒(ざわ)めきがひときわ大きくなった。
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