シャッターが押せない写真部員と人前で歌えない合唱部員

komarinet

卒業(脚本)

シャッターが押せない写真部員と人前で歌えない合唱部員

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〇学校の廊下
吾妻 陽大(あずま ようた)「あと1か月で卒業か」
吾妻 陽大(あずま ようた)「高校、楽しかったなぁ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「歌? こんな時間に?」

〇教室の教壇
吾妻 陽大(あずま ようた)(一体誰が・・・)
吾妻 陽大(あずま ようた)「えっ!」

〇桜並木
茂森 愛華(しげもり あいか)「♪ 仰げば尊し 我が師の恩」
茂森 愛華(しげもり あいか)「♪ 教(おしえ)の庭にも はやいくとせ」
吾妻 陽大(あずま ようた)(嘘だろ・・・)
吾妻 陽大(あずま ようた)(卒業の桜並木が見える!)
茂森 愛華(しげもり あいか)「えっ!」

〇教室の教壇
茂森 愛華(しげもり あいか)「誰っ!」
吾妻 陽大(あずま ようた)「あっ、ごめん!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「吾妻くん!?」
茂森 愛華(しげもり あいか)「もう。びっくりするじゃない」
吾妻 陽大(あずま ようた)「驚かすつもりは無かったんだ」
茂森 愛華(しげもり あいか)「声かけるのはいいとしても なんで写真とるかなぁ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「写真!? あ、本当だ!」
吾妻 陽大(あずま ようた)「何でだ?」
茂森 愛華(しげもり あいか)「何でって。 こっちが聞きたいわよ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「本当にごめん!」

〇空
茂森 愛華「ふーん。写真部、ねぇ」

〇教室の教壇
吾妻 陽大(あずま ようた)「まあ、一度もコンテストに 通ったことのない落ちこぼれだけど」
茂森 愛華(しげもり あいか)「コンテストなんていいじゃない 自分の好きな写真撮れるんでしょ?」
吾妻 陽大(あずま ようた)「いや、実はプレッシャーに超弱くて」
吾妻 陽大(あずま ようた)「撮りたい画が見えたとき、 上手くシャッターを押せないんだよ」
茂森 愛華(しげもり あいか)「・・・」
吾妻 陽大(あずま ようた)「どうかした?」
茂森 愛華(しげもり あいか)「驚いた。 まさか私と同じような人がいるなんて」

〇音楽室
茂森 愛華「私もさ、あがり症で」
茂森 愛華「ソロパートがくると 声、でなくなっちゃうんだ」

〇教室の教壇
茂森 愛華(しげもり あいか)「卒業式でソロ、歌えたら いい思い出になったのにな」
吾妻 陽大(あずま ようた)「なあ」
茂森 愛華(しげもり あいか)「何?」
吾妻 陽大(あずま ようた)「このまま卒業するの、悔しくないか?」
茂森 愛華(しげもり あいか)「悔しい・・・悔しいよ! めちゃくちゃ悔しい」
吾妻 陽大(あずま ようた)「提案がある」
吾妻 陽大(あずま ようた)「俺、卒業フォトコンテスト 歌ってる茂森の写真で挑戦したい!!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「ええ────────っ!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「ど、どうして私を撮るのよ!」
吾妻 陽大(あずま ようた)「初めてなんだ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「さっき、歌ってる茂森を見て 俺、知らないうちにシャッターをきってた」
吾妻 陽大(あずま ようた)「それで確信した。俺のシャッター下手の 突破口は茂森にあると!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「で、でも私、一人だと歌えない」
吾妻 陽大(あずま ようた)「諦めるなよ! 被写体になって、あがり症を直すんだ!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「そ、そんなの吾妻くんの勝手な・・・」
吾妻 陽大(あずま ようた)「悔しくないのかぁぁぁ!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「悔しいです!」
吾妻 陽大(あずま ようた)「よし、決まりだな」
茂森 愛華(しげもり あいか)「しまった」

〇黒

〇本棚のある部屋
吾妻 陽大(あずま ようた)「・・・もう10分か。 あっという間だな」
吾妻 陽大(あずま ようた)「10分だけ過去に戻れるカメラ、か」
吾妻 陽大(あずま ようた)「まさかあの露天商が言ってたこと 本当だったとはな」

〇ビルの裏
怪しげな女「そのカメラを使って 現像した写真を撮ってみな」
怪しげな女「10分だけ、面白い体験が出来るよ。 ふふふ」

〇本棚のある部屋
吾妻 陽大(あずま ようた)(本当に過去へ行っているのか)
吾妻 陽大(あずま ようた)(記憶を再生しているだけなのか それはわからない)
吾妻 陽大(あずま ようた)「だけど・・・」
吾妻 陽大(あずま ようた)(茂森・・・)

〇音楽室
  あの日から茂森と俺は
  卒業式まで何度も練習した
  けど、彼女は結局、
  一人で歌えるようにはならなかった
  そして卒業式の前日・・・

〇センター街
  茂森は死んだ
  あがり症を治すため、
  路上で練習していたところを
  通り魔に刺されたのだ

〇本棚のある部屋
吾妻 陽大(あずま ようた)(茂森と練習中に撮った写真が 手元に何枚かある)
吾妻 陽大(あずま ようた)(もし練習が上手くいっていたら 彼女は・・・)
吾妻 陽大(あずま ようた)(死ななくて良かったかもしれない!)

〇寂れた雑居ビル

〇本屋
吾妻 陽大(あずま ようた)「『あがり症を治す100の方法』 『これで緊張とサヨナラ!決定版』」
吾妻 陽大(あずま ようた)「この辺りが良さそうだな」

〇音楽室
吾妻 陽大(あの時僕らは何もわからないまま ただただ試行錯誤を繰り返していた)

〇本棚のある部屋
吾妻 陽大(あずま ようた)(今の俺には沢山の時間がある)
吾妻 陽大(あずま ようた)(本も、インターネットもある)
吾妻 陽大(あずま ようた)(練習中に撮った写真で 今も手元にあるのが7枚・・・か)
吾妻 陽大(あずま ようた)(よし!)
吾妻 陽大(あずま ようた)(この7回の練習で 茂森のあがり症を治してみせる!)

〇音楽室
吾妻 陽大(あずま ようた)「茂森! いるか!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「吾妻くん!?」
茂森 愛華(しげもり あいか)「凄い剣幕だけど、どうしたの?」
吾妻 陽大(あずま ようた)「ストレッチだ! あがり症にはストレッチがいいらしいぞ!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「あ、そうなの?」
吾妻 陽大(あずま ようた)「本で見てきたんだ! 腕貸せ。 こうやって・・・」
茂森 愛華(しげもり あいか)「あっ、えっと! あのっ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「時間がない、行くぞ。まずは・・・」
茂森 愛華(しげもり あいか)「ちょ、ちょっと!」

〇音楽室
吾妻 陽大(あずま ようた)「茂森、聞いてくれ 爆音BGMこそが緊張を解く鍵だ!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「いやそれ怒られるやつ」

〇センター街
吾妻 陽大(あずま ようた)「目隠しをして歌ってみるんだ!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「大丈夫? 変な人に思われない?」

〇施設のトイレ
吾妻 陽大(あずま ようた)「鏡の前で歌ってくれ!」
茂森 愛華(しげもり あいか)「吾妻くん! ここ、男子トイレ!」

〇ホール
  そして合唱部の卒業公演──
同級生「──」
吾妻 陽大(あずま ようた)(茂森はソロになれなかったか・・・)
吾妻 陽大(あずま ようた)(だとしたら多分未来は変わらない)
吾妻 陽大(あずま ようた)(じゃあもう一度最初からだ!)

〇本棚のある部屋
  俺は何度も何度も
  茂森と練習を繰り返した

〇空
  何度も・・・

〇空
  何度も・・・

〇空
  そうして、何年・・・いや
  何十年が経過した

〇音楽室
吾妻 陽大(あずま ようた)「茂森・・・いるか! 今日は・・・」
茂森 愛華(しげもり あいか)「吾妻くん?」
吾妻 陽大(あずま ようた)「今日はお別れを言いに来た」
吾妻 陽大(あずま ようた)「何を言ってるかわかんねーと思うが・・・」

〇男の子の一人部屋
吾妻 陽大(あずま ようた)「現実の俺は、もう76歳でな」

〇岩山の崖
吾妻 陽大(あずま ようた)「先日、山で足を滑らせてしまった」

〇病院の診察室
  幸い命に別状はなかったんだが
  首の骨を痛めてしまってね

〇音楽室
吾妻 陽大(あずま ようた)「現実の俺は 指の力が殆ど入らないんだ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「今回は看護師さんに無理言って 一緒にシャッターを押してもらった」
吾妻 陽大(あずま ようた)「すまない、茂森」
吾妻 陽大(あずま ようた)「君に思いっきり歌って欲しかった」

〇桜並木
吾妻 陽大(あずま ようた)「君の歌を、沢山の人に聞いてほしかった」

〇音楽室
吾妻 陽大(あずま ようた)「じゃあな。元気で」
茂森 愛華(しげもり あいか)「・・・」
茂森 愛華(しげもり あいか)「10677回」
茂森 愛華(しげもり あいか)「吾妻くん、これ、何の回数かわかる?」
茂森 愛華(しげもり あいか)「君が私と練習した回数だよ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「茂森?」
茂森 愛華(しげもり あいか)「ルールだったんだよ」
茂森 愛華(しげもり あいか)「言ったら会えなくなるから ずっと言えなかった」
茂森 愛華(しげもり あいか)「ずっと吾妻くんにありがとうって」
茂森 愛華(しげもり あいか)「勇気をくれてありがとうって言いたかった」
茂森 愛華(しげもり あいか)「でも・・・ひくっ 言ったらもう会えなくなるから」
吾妻 陽大(あずま ようた)「茂森・・・」
吾妻 陽大(あずま ようた)「そうか、そうだったんだな」
茂森 愛華(しげもり あいか)「だからね、私 本当はもう歌えるんだよ」
吾妻 陽大(あずま ようた)「俺たちのこれまでは 無駄じゃなかったんだな」
茂森 愛華(しげもり あいか)「うん。無駄じゃなかった」
吾妻 陽大(あずま ようた)「聞かせてくれるか? 茂森の歌」
茂森 愛華(しげもり あいか)「うん。歌うよ。 私達の・・・卒業の歌を」

〇音楽室
茂森 愛華(しげもり あいか)「♪ 仰げば尊し 我が師の恩」

〇桜並木
茂森 愛華(しげもり あいか)「♪ 教(おしえ)の庭にも はやいくとせ」
茂森 愛華(しげもり あいか)「♪ 思えばいととし この年月」
茂森 愛華(しげもり あいか)「♪ 今こそわかれめ いざさらば」

〇白
茂森 愛華(しげもり あいか)「ありがとう・・・吾妻くん」

〇白

〇シックなリビング
吾妻 陽大(あずま ようた)「はっ・・・」
吾妻 陽大(あずま ようた)「なんだ、夢か」
???「あなたー早く行かないと 個展の挨拶、遅れちゃうよー」
吾妻 陽大(あずま ようた)「ああ、ごめん。すぐ行くよ!」
吾妻 陽大(あずま ようた)「愛華」

コメント

  • どうなるんだろう…とハラハラしてからの、最高のハッピーエンド、素敵です! お幸せに。

  • すっごく感動しましたー!!!!!!!(´;ω;`)

    涙出ました・・・!!!!!

    素敵なお話ありがとうございました!!!!!

  • 心にグッとくるいい作品でした…
    面白かったです!

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