読切(脚本)
〇カウンター席
カフェ言霊には不思議な力で、悩みを解決してくれるという店主がいる。
客の中には、そんな噂を信じて訪れる者もいた。
琴原珠音「ありがとうございましたー」
佐伯音夢「よし! 客が居なくなった、これでサボれる」
琴原珠音「こら 堂々と言わない」
佐伯音夢「はうんっ 珠音さんの怒った声もちゅき」
琴原珠音「はぁ」
琴原珠音(押しに負けてここで働いてもらうことになったけど、無理にでも押し返すべきだったかな)
そうしていると、カフェのドアが開いて誰か入ってくる。
琴原珠音「いらっしゃいませ」
佐藤茜「あっあの、ここで悩みの相談をしてもらえるって」
琴原珠音「え? あっ悩み相談・・・・・・」
琴原珠音(そういうサービスはやらないって言っておいたのに きっと音夢が私の声を聞きたくて広めたんだ もうっ)
佐藤茜「・・・・・・ダメですか?」
琴原珠音「あ、いや・・・・・・大丈夫だよ」
佐伯音夢「よし狙い通りっ」
佐藤茜「?」
佐藤茜「相談というのはこの暗号で・・・・・・メッセージで来たんですけど」
佐伯音夢「暗号?」
佐藤茜「はい」
琴原珠音「スマホ、見せてもらっていいかな?」
珠音は茜からスマホを受け取って、メッセージを眺める。
音夢は身を乗り出して、スマホを覗き込んだ。
佐伯音夢「3↑2←4→*←3↑ 何だこりゃ?」
琴原珠音「この差出人の子・・・・・・蛍? 知り合いかな? もしかして知らない人?」
佐藤茜「いえ、幼馴染のバカ男子です こんなメッセージ送ってくるなんて、馬鹿にしてるんです」
琴原珠音「ふふっ」
佐藤茜「?」
佐伯音夢「珠音さんどうしたんです?」
琴原珠音「いえ、暗号が解けたよ」
「え?」
佐藤茜「わ、わかったんですね」
茜はなぜだか、落ち着きがない表情を見せる。
珠音がスマホを返した。
琴原珠音「暗号はわかったけど、私がそれの答えを伝える必要はなさそう。 そうでしょ?」
佐藤茜「?!」
佐伯音夢「え? どういう事です?」
琴原珠音「茜さんは暗号が解けてるんでしょ? でも恥ずかしくて、認めたくなくて、私に別の答えを期待して相談した」
佐伯音夢「そうなの? 茜ちゃん」
佐藤茜「・・・・・・」
茜はしばらく沈黙したあと、小さく頷く。
佐伯音夢「よくわからない どういう」
琴原珠音「これまでの態度とか、これからの態度とか、色々戸惑ってしまったんだよね」
佐藤茜「・・・・・・はい」
少し微笑んだあと珠音の体が仄かに光る。言霊を使うときの現象だった。
琴原珠音「大丈夫だよ 君の気持ちを素直に言えば 態度なんてあとからついてくるから」
佐伯音夢「ひゃうんっ 言霊モードの珠音さんの声最高」
琴原珠音「・・・・・・アレは気にしないで」
佐藤茜「は、はい」
琴原珠音「さぁ蛍くんに返事をしてあげて」
佐藤茜「・・・・・・はい!」
決意した表情になった茜は、走って店を出ていった。
佐伯音夢「それで、どういうことです?」
琴原珠音「ちょっとだけ、背中を押してあげただけだよ」
佐伯音夢「あっそれはなんとなくわかったんですけど、暗号とか、その他諸々」
琴原珠音「あぁ、暗号は簡単だよ フリック入力の・・・・・・なんて言ったらいいのかな 入力順を書いた物かな」
佐伯音夢「フリック入力の入力順?」
琴原珠音「フリック入力で数字盤と文字盤を見比べてみて」
音夢は自分のスマホを見る。
佐伯音夢「あっ」
琴原珠音「3↑2←4→*←3↑ この暗号の数字の所を矢印の方向にフリックする」
琴原珠音「スマホによって違うかもしれないから少し強引な暗号だけど 答えは「好きです」かな」
佐伯音夢「あぁ高校生が出しそうなクイズみたい」
琴原珠音「そうだね メッセージに宿った言霊からは、好きだけど恥ずかしいから、伝わらなくても良いかなっていうのが読み取れた」
琴原珠音「茜さんの言葉に宿った言霊では意味の分からない暗号という言葉は嘘で バカ男子という言葉に、蛍くんを好きという気持ちがあった」
佐伯音夢「あぁ両想いですか それで大丈夫って言霊で背中を押したんですね」
琴原珠音「そういう事、謎解きってほどじゃないかな」
佐伯音夢「いえ充分謎解きです 暗号とか一瞬で解いちゃうなんて」
琴原珠音「暗号は、あんな感じのが少し前に流行らなかったかな?」
佐伯音夢「うーん、あったような気がしなくもない」
琴原珠音「というより、音夢 前に言ったでしょ 変なサービス広めないでって」
佐伯音夢「そ、そうでしたか?」
琴原珠音「あんまり勝手なことしたら、言霊で記憶消して放り出すよ?」
佐伯音夢「そ、それだけはご勘弁をぉぉぉ」
そうして、カフェ言霊の一日は過ぎていく。
「バカ男子」という言葉に「好き」という気持ちがあったって・・ほのぼのしました。言葉に宿る言霊は使い手や使い方によっては善にも悪にもなりそう。答えをそのまま伝えるんじゃなくて相談者自身が答えを見つけるように導く珠音のやり方は素敵ですね。
なるほど、しばらく自分でも謎解き頑張ってみましたが全然解けませんでした笑
私にこんな暗号も送ってきたら暫く返信がないことでしょう…。
カフェで悩み相談っていう設定がありそうでなさそうな感じでとても興味深いです。家族や友達に相談できないことを、カフェという緩い雰囲気の空間で誰かに話せるって魅力的です。