ヴィシュカニャ(脚本)
〇大きな木のある校舎
〇学校脇の道
荒巻なな「みかり! おっはよ」
首藤みかり「おはよう、なな」
荒巻なな「ねぇ、数学の宿題なんだけど、 どうしても解けない問題があって」
荒巻なな「しかもそれ、 今日アタシが当たるやつなんだよ~!」
首藤みかり「じゃあ、私のノート写す?」
荒巻なな「助かる! さすがみかり!」
首藤みかり「ふふ」
???「首藤みかりー!」
首藤みかり「!」
荒巻なな「うわ、日下部大輝。 今日も来た・・・」
日下部大輝「首藤みかり!」
首藤みかり「おはよう、日下部君」
日下部大輝「おはよう!」
日下部大輝「こんなところで会えるなんて 運命だな!」
首藤みかり「ふふ」
荒巻なな「いや、普通に登校時間だし。 同じ学校だし」
荒巻なな「運命とか大袈裟すぎんだろ」
日下部大輝「首藤みかり!」
首藤みかり「はい」
日下部大輝「今日も美しい!」
首藤みかり「ありがとう」
日下部大輝「好きだ!」
首藤みかり「ふふ」
日下部大輝「俺と付き合ってください!」
首藤みかり「ごめんなさい」
日下部大輝「ぐはぁっ」
日下部大輝「今日もダメかぁ!」
首藤みかり「ふふ」
日下部大輝「だが俺は諦めない! 気が向いたらOKしてください!」
日下部大輝「そんじゃ!」
荒巻なな「まったくあいつは、懲りずに毎朝毎朝」
首藤みかり「楽しい人ね」
荒巻なな「新学期始まって以来、ずっとあれだよね? いい加減ウザくない?」
首藤みかり「そんなことないよ」
荒巻なな「ふぅん?」
荒巻なな「まぁ、あぁ見えて成績優秀、 文武両道、見た目も悪くないし、 ついでに市長の息子」
荒巻なな「女子の間でも人気あったのに、 みかりへの好き好きアピールが露骨すぎて みんな引いちゃった残念イケメン」
首藤みかり「ななも日下部君に興味ある?」
荒巻なな「アタシはパス!」
首藤みかり「そう」
荒巻なな「アンタはどうなの、みかり?」
荒巻なな「アタシの目には、アンタが日下部に 悪い印象持ってないように見えるけど」
首藤みかり「そうね、結構好きよ」
荒巻なな「じゃあ、なんで断っちゃうの?」
首藤みかり「・・・・・・」
首藤みかり「私が彼に相応しくないから」
荒巻なな「ん? なんか言った?」
首藤みかり「ううん、なんでも」
〇昔ながらの一軒家
〇古めかしい和室
首藤みかり「ただいま戻りました」
首藤百之進「おかえり、みかり」
首藤百之進「・・・仕事だ」
首藤みかり「・・・・・・」
首藤みかり「お相手は?」
首藤百之進「粟森良治、政治家だ。 そしてこれが・・・」
首藤百之進「やつの好みのタイプだ」
・無邪気
・幼げ
・天真爛漫
首藤みかり「・・・・・・」
首藤百之進「粟森を中心とした議員のパーティーが 三日後に行われる」
首藤百之進「そこへ余興として入り込む手はずと なっている」
首藤百之進「やれるな、みかり」
首藤みかり「はい、お任せください」
〇セルリアンタワー東急ホテル
〇ホテルのレストラン
議員「粟森先生、 先日はありがとうございました」
議員「先生にお力添えいただき、助かりました」
粟森良治「ははは、君たちに期待しているよ」
「ありがとうございます!」
粟森良治「うん?」
粟森良治「あれは?」
議員「余興に呼ばれた子ですよ」
議員「ご当地アイドルってやつですかね。 誰のコネでもぐりこんだのやら」
首藤みかり「ありがとうございました!」
粟森良治「ほぅ・・・」
粟森良治「あの子を後で私の部屋まで」
議員「承知いたしました」
日下部大輝「ん?」
日下部大輝「あれは、首藤みかり?」
日下部大輝「・・・なわけないか。 なんであいつと思ったんだろう」
〇セルリアンタワー東急ホテル
〇高層階の部屋(段ボール無し)
首藤みかり「わわー、豪華なお部屋! これがスイートルームなんですね」
首藤みかり「私、生まれて初めて見ました!」
首藤みかり「こんなお部屋に宿泊されてるなんて、 粟森先生ってすごいんですね!」
首藤みかり「呼んでくださってありがとうございます!」
首藤みかり「ふわぁ、夜景きれい・・・」
粟森良治「ははは、君は実に楽しそうに笑うね。 いい笑顔だ」
首藤みかり「ありがとうございます!」
粟森良治「さ、こちらへ来なさい」
首藤みかり「はい」
粟森良治「私の膝の上に座りなさい」
首藤みかり「ふぇ?」
粟森良治「ここに呼ばれた意味、分かってるね?」
首藤みかり「呼ばれた、意味・・・って、」
首藤みかり「えぇっ!?」
首藤みかり「ひょっとして、そう言う意味、 だったんでしょうか?」
首藤みかり「粟森先生が、わ、私なんかに!?」
粟森良治「なんか、なんていうんじゃない。 君は可愛いよ」
首藤みかり「あ・・・、ありがとう、ございます!」
粟森良治「キスしてもいいかな?」
首藤みかり「ど、どうぞ・・・っ」
粟森良治「ははは、そんなに口を キュッと閉じるんじゃない」
粟森良治「力を抜いて、私にすべてを任せるんだ」
首藤みかり「は、はいぃ・・・」
粟森良治(実に初々しい。 やはりこれくらいの年齢が一番いい)
首藤みかり「んぅ・・・」
粟森良治(昂る。 これほど胸が高鳴るのは、久しぶりだ)
粟森良治(鼓動がこんなに早く・・・)
粟森良治(うっ!?)
粟森良治「ぷはっ!」
粟森良治「な、なんだこれは・・・!? 胸が苦しい・・・!」
首藤みかり「・・・・・・」
首藤みかり「ふふ」
粟森良治「貴様、何をした!?」
首藤みかり「キス、ですよ」
粟森良治「あぐぁ・・・っ! 体が、焼ける・・・っ!」
粟森良治「あぁっ!」
首藤みかり「ヴィシュカニャをご存じ?」
粟森良治「!?」
首藤みかり「赤ん坊の時から日常的に毒に触れさせ、 乙女となる頃にはその全身が 毒の塊となる暗殺兵器」
粟森良治「まさか、貴様・・・!」
首藤みかり「──キスは特に効果てきめん」
首藤みかり「とある国の 伝承の中の存在と思われているけど、 今もなお製造されているんです」
首藤みかり「その一人が私」
粟森良治「くるしっ、息が・・・っ! だ、誰か・・・!」
首藤みかり「私のキスはお気に召しました?」
粟森良治「カハッ・・・」
首藤みかり「・・・・・・」
首藤みかり「何人ものいたいけな少女を 毒牙にかけた下衆に相応しい最期ね」
〇大きな木のある校舎
〇学校脇の道
日下部大輝「首藤みかりー!」
荒巻なな「また来た」
首藤みかり「おはよう、日下部君」
日下部大輝「今日も最高に可愛い!」
首藤みかり「ありがとう」
日下部大輝「君の声は天使の歌声にも勝る!」
首藤みかり「嬉しい」
日下部大輝「好きだ!」
首藤みかり「ふふ」
日下部大輝「付き合ってください!」
首藤みかり「ごめんなさい」
日下部大輝「ぐはっ!」
日下部大輝「今日もだめかぁ・・・」
首藤みかり「・・・・・・」
日下部大輝「また明日出直します!」
首藤みかり「楽しみにしてる」
荒巻なな「みかり、趣味悪いよ」
荒巻なな「日下部のこと気に入ってるなら、 受け入れてあげればいいのに」
首藤みかり「・・・・・・」
首藤みかり「日下部君はまっすぐで正直で、 穢れのない太陽のような人」
荒巻なな「高評価じゃん!」
首藤みかり「だからこそ、 彼にはきれいな世界を生きてほしいの」
首藤みかり「・・・私なんかに関わらずに」
荒巻なな「? どういう意味?」
首藤みかり「・・・・・・」
〇黒背景
首藤みかり(私は、 汚れたキスしか知らないから・・・)
Visha Kanya ──完──
ヴィシュカニャという言葉を知りませんでした💦
好きな人とキスができないなんて!
切なすぎますね…😢
何気ない日常からテイストが変わって裏の顔。パパ活、愛欲方向に行くのかなと思いきや勧善懲悪、最後にまたいつもの日常に戻るといった構成に、「読ませるなぁ」と思いました。
演出の落差を勉強させていただきました。コメディタッチのパートが、ただのコメディではない妙技に感嘆しました。思春期の男子にプラトニックを求めるのは酷かもしれませんが、応援したくなった自分がおります。