大佐、ズンドコ節を踊る(脚本)
〇寂れた村
ザッザッザ・・・
〇秘密基地のモニタールーム
インモ・ラル大佐「・・・」
インモ・ラル大佐「戦場を行進する少女の隊列・・・・・・」
インモ・ラル大佐「まるで海を泳ぐ小魚の群れのようだ」
インモ・ラル大佐「そう思わんかね?」
「・・・」
インモ・ラル大佐「ね?」
研究員A「・・・・・・・・・?」
海鳴玲子「まったく同感です、ラル大佐」
海鳴玲子「戦場は何が起きるか分からない」
海鳴玲子「次の瞬間には、鯨に呑み込まれるかもしれない」
海鳴玲子「漁師の網が投げ込まれるかもしれない」
海鳴玲子「命の危うさと儚さは、戦場も大海も同じです」
インモ・ラル大佐「そうそう!」
インモ・ラル大佐「それが言いたかったんだよ〜」
インモ・ラル大佐「要するにだね」
インモ・ラル大佐「炸裂弾とかレーザーとか赤外線センサーとか」
インモ・ラル大佐「そういうのがバチバチ飛び交ってる、非常に危ない場所を」
インモ・ラル大佐「10才かそこらの小さな女の子が、」
インモ・ラル大佐「いかにも頼りなく、ふらふらとさまよっている・・・」
インモ・ラル大佐「そんな姿を見ていると」
インモ・ラル大佐「興奮して仕方がない!」
インモ・ラル大佐「今も、ああ、」
インモ・ラル大佐「血流が集中していくのを感じる・・・」
インモ・ラル大佐「ちょっと前屈みになるね」
インモ・ラル大佐「よっこいしょ」
研究員A(なんだコイツ・・・・・・)
海鳴玲子「ところで大佐、」
海鳴玲子「本日はどのようなご用件で」
インモ・ラル大佐「なに、特に用事があったわけではない」
インモ・ラル大佐「ただ、君のこしらえた、可愛い子供たちが」
インモ・ラル大佐「荒野を駆け抜け、敵の大型兵器を蹂躙する様を見に来たのだよ」
海鳴玲子「机に山積みの書類を放置して・・・ですか?」
インモ・ラル大佐「あっはっは! 言われてしまったな」
インモ・ラル大佐「デスクワークはストレスが溜まる一方でね」
インモ・ラル大佐「こうして定期的に発散しないと・・・」
研究員A「アッ!!」
研究員A「所長!」
海鳴玲子「分かってる」
海鳴玲子「指令を送っているところよ」
インモ・ラル大佐「なになに? どうしたの?」
〇寂れた村
ザッザッザッ
ピタッ
ボンバ「・・・」
MFG「・・・ターゲット発見」
〇秘密基地のモニタールーム
インモ・ラル大佐「あれは・・・同盟軍の人型兵器だな」
インモ・ラル大佐「見慣れない外観をしているが」
研究員A「あれは自爆型です!」
インモ・ラル大佐「なに?」
研究員A「所長っ! 退避命令を!」
海鳴玲子「送ってるわ」
海鳴玲子「けど、届いてない・・・電波障害が発生してるようね」
研究員A「周波数帯を変更します!」
海鳴玲子「もう間に合わないわ」
その瞬間、モニター映像が爆炎に覆われた。
「・・・!」
モニター室に走る緊張。
煙が晴れていく。
画面に現れたのは、
薙ぎ倒された木々、
柱だけ残した家屋の残骸と、
そして、バラバラに飛び散った、
ロボットの部品。
海鳴玲子「・・・」
インモ・ラル大佐「・・・」
研究員A「・・・」
海鳴玲子「機動性もコンビネーションも、広範囲の爆撃には敵わない」
海鳴玲子「電波障害といい、向こうもやるわね」
研究員A「うっうっ」
研究員A「こんなこと・・・!」
インモ・ラル大佐「うっ!」
インモ・ラル大佐「ふう・・・」
海鳴玲子「・・・」
インモ・ラル大佐「海鳴所長」
海鳴玲子「はい」
インモ・ラル大佐「君の作ったオモチャには大変満足した」
インモ・ラル大佐「予算を拡充しておくから、存分に使いなさい」
インモ・ラル大佐「今ので減った個体を補充するためにもね」
海鳴玲子「ありがとうございます」
インモ・ラル大佐「・・・なんだ、君は」
インモ・ラル大佐「泣いているのか?」
研究員A「い、いけませんか?」
研究員A「大事に作ったロボットが無惨に破壊されたんです」
研究員A「悲しくて当然でしょう!」
海鳴玲子「研究員A・・・」
インモ・ラル大佐「私の部下が言っていたよ」
インモ・ラル大佐「指揮官をやっていて最も苦痛なのは、」
インモ・ラル大佐「戦死した兵士の親に、そのことを伝えるときだそうだ」
インモ・ラル大佐「そしてこうも言っていた」
インモ・ラル大佐「ロボットが戦うようになってから、遺族の家を訪問する回数が減ったとね」
研究員A「・・・!」
インモ・ラル大佐「したがって、君が悲しむ必要はない」
インモ・ラル大佐「だからその涙を引っ込めたまえ」
研究員A「無理です」
研究員A「理屈ではそうかもしれませんが」
研究員A「悲しいものは悲しいんです!」
インモ・ラル大佐「分からないな」
インモ・ラル大佐「兵士を一人作るには、少なくとも20年かかる」
インモ・ラル大佐「しかし機械なら、材料と設計図があればすぐだ」
インモ・ラル大佐「壊れたならまた作り直せばいいだろう?」
研究員A「そうじゃないんです!」
研究員A「ものには・・・作った人の心が宿るんです!」
研究員A「あなたには分からないかもしれませんが!」
海鳴玲子「そこまでよ、研究員A・・・」
インモ・ラル大佐「はっはっは!」
インモ・ラル大佐「いいな、君は」
インモ・ラル大佐「精神が溌剌としている」
インモ・ラル大佐「見たところ体格も理想的だ」
インモ・ラル大佐「君、家族はご存命かね?」
研究員A「え? はあ」
インモ・ラル大佐「お住まいは」
研究員A「タウン2ですが・・・」
インモ・ラル大佐「ふむ・・・ちょうどいい」
海鳴玲子「大佐──」
インモ・ラル大佐「ずんずんずんずんずんずんどこ♪」
インモ・ラル大佐「ずんずんずんずんずんずんどこ♪」
研究員A「・・・!?」
インモ・ラル大佐「汽車の窓から手を握り」
インモ・ラル大佐「送ってくれた人よりも♪」
研究員A「・・・???」
インモ・ラル大佐「ホームの陰で泣いていた」
インモ・ラル大佐「可愛いあの娘が忘られぬ♪」
海鳴玲子「あ、それ!」
研究員A「!?」
「ずんずんずんずんずんずんどこ♪」
「ずんずんずんずんずんずんどこ♪」
インモ・ラル大佐「また悪戯をしおって・・・!」
インモ・ラル大佐「今日という今日は許さんぞ」
インモ・ラル大佐「あのクソガキイイイイイ!!」
喜色満面で、罵りの言葉を吐きつつ、
ズンドコ節を踊りながらドアの向こうに消えていくラル大佐。
海鳴玲子「ふう」
研究員A「所長・・・」
研究員A「あれは・・・一体」
海鳴玲子「まあ、色々あるのよ、大佐にも」
海鳴玲子「生体機械研究部のミスクレイジーにお礼言っておくことね」
研究員A「はあ・・・」
海鳴玲子「危ないところだったのよ」
海鳴玲子「もう少しで、"肉人形"にさせられるところだったんだから」
研究員A「肉人形?」
海鳴玲子「それはさておき」
海鳴玲子「上への言葉遣いには気をつけることね」
研究員A「・・・」
研究員A「所長は・・・悔しくないんですか」
研究員A「あんなこと言われて」
海鳴玲子「全然」
海鳴玲子「大佐の言ってることは全く合理的で正しいわ」
海鳴玲子「変態趣味はいい加減にしてほしいけど」
研究員A「だって! 僕ら・・・」
研究員A「あの子たちが、だった一行のソースコードだった頃から、知ってるんですよ」
研究員A「プログラミング、部品作成、加工、組み立て、テストプレイ・・・」
研究員A「どこかで間違いが起きれば、一からやり直し」
研究員A「一つ一つの工程を繰り返して、ようやく出来上がってるんですよ」
海鳴玲子「愚問ね」
海鳴玲子「その感情が、戦場においてどれほどの役に立つかしら」
海鳴玲子「わたしたちはただ、優秀な破壊機械を作るだけよ」
研究員A「所長は・・・」
研究員A「人の心を置いてきたんですか」
海鳴玲子「そうよ」
海鳴玲子「戦場に愛はいらないもの」
海鳴玲子「必要なのは、研ぎ澄まされた憎しみだけ」
研究員A「・・・」
研究員A「ところで」
研究員A「あの子は元気ですか?」
研究員A「所長が家に持ち帰った、」
研究員A「あの問題児は」
海鳴玲子「ああ・・・」
海鳴玲子「すこぶる元気よ」
海鳴玲子「腹立つほどにね・・・」
〇豪華なリビングダイニング
マフギ「・・・」
マフギ「ムシャムシャ」