機械人形に藍染めて

毬田祐

マフギ、夜泣きする(脚本)

機械人形に藍染めて

毬田祐

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〇玄関内
  ガチャ
海鳴玲子「・・・」
マフギ「玲子」
海鳴玲子「ただいま」
マフギ「ただいま?」
海鳴玲子「ただいま、と言われたら、おかえり、と返すの」
海鳴玲子「合言葉よ」
マフギ「あいことば・・・」
マフギ「おかえり!」
海鳴玲子「それでいいのよ」
海鳴玲子「MFG-6・・・」
海鳴玲子「いや、マフギ」
マフギ「まふぎ?」
海鳴玲子「あなたの新しい名前よ」
海鳴玲子「MFGから一音ずつ取って、マフギ」
海鳴玲子「3秒で考えたにしてはいい名前でしょ」
マフギ「マフギ・・・名前」
マフギ「ただいま、おかえり、あいことば」
海鳴玲子「やれやれ・・・」

〇豪華なリビングダイニング
海鳴玲子「なに・・・これは」
海鳴玲子「どうしてこんなに物が散らかってるの?」
マフギ「マフギが散らかした」
海鳴玲子「どうして?」
マフギ「調査した」
海鳴玲子「調査・・・」
マフギ「調査はマフギの仕事」
海鳴玲子「そうね」
海鳴玲子「戦場で見慣れないものを発見したら、それが何か調べる・・・」
海鳴玲子「メインプログラムされている自律行動の一つだわ」
海鳴玲子「でも、ここは戦場じゃない」
マフギ「戦場じゃない?」
海鳴玲子「そう」
海鳴玲子「わたしの自宅」
海鳴玲子「だから、調査する必要はないし」
海鳴玲子「散らかしたら片付けないといけない」
海鳴玲子「分かる?」
マフギ「マフギは片付けるやり方をしらない」
海鳴玲子「元にあった場所に戻せばいいのよ」
マフギ「・・・」
海鳴玲子「・・・分かったわ、一緒にやりましょう」
海鳴玲子(仕事終わりで疲れてるんだけど)

〇豪華なリビングダイニング
海鳴玲子「だいぶ片付いたわね」
マフギ「かたづく、理解した」
海鳴玲子「なんか物が減ってる気がするんだけど・・・」
海鳴玲子「ここに置いてあったファイルはどこにやった?」
マフギ「食べた」
海鳴玲子「たべっ・・・」
マフギ「マフギは有機物をなんでも燃焼できる」
海鳴玲子「・・・」
海鳴玲子「重要機密書類だったんだけど・・・」
マフギ「マフギは有機物をなんでもエネルギーにできる」
海鳴玲子「それは今聞いたのよ」
海鳴玲子「まあ・・・」
海鳴玲子「予測できなかったわたしが悪いわね」
海鳴玲子「なんかどうでもよくなってきた、ご飯にしよ」
マフギ「ごはん」
海鳴玲子「マフギも食べる?」
マフギ「マフギはいま、エネルギーが足りている状態」
海鳴玲子「あっそ」
  カチャカチャ
海鳴玲子(・・・)
海鳴玲子(わたしがやらなければならないのは)
海鳴玲子(マフギがどうして戦えなくなったのか、その原因を究明すること)
海鳴玲子(今のマフギの状態が、同盟軍の策略によるものだとすれば)
海鳴玲子(このまま放置することは、国家の安全保障に関わる・・・!)
海鳴玲子(しかし、具体的にどうしたらいいのか)
海鳴玲子(ウイルススキャンは何も検知しなかった・・・)
海鳴玲子(ウイルスじゃないなら、プログラムの不調?)
海鳴玲子(自律行動を司るAIの部分が、暴走している?)
海鳴玲子(そもそも、12体いるMFGの中で、なぜこの個体だけが?)
海鳴玲子(謎は尽きない・・・今は様子を見るしか・・・)
マフギ「・・・」
  じー、と食事を見つめるマフギ。
マフギ「ひょいっ ぱく」
海鳴玲子「あ」
海鳴玲子「取っておいた油淋鶏・・・」
マフギ「ムシャムシャ」

〇白いバスルーム
  プシュッ
  シャワーから水が噴き出る。
マフギ「ひゃっ・・・!」
海鳴玲子「ジッとしてなさい」
マフギ「水が熱い」
海鳴玲子「なに、冷水がよかった?」
海鳴玲子「防水防腐加工なんだから、なんてことないでしょ」
マフギ「・・・」
  ゴシゴシ
マフギ「柔らかい」
海鳴玲子「そうね」
海鳴玲子「スポンジに洗剤をつけて擦ってるから、当然ね」
海鳴玲子「前、失礼」
マフギ「!」
マフギ「・・・」
マフギ「玲子の身体」
マフギ「温かい」
海鳴玲子「・・・」
海鳴玲子「あなたの身体もね」
マフギ「燃焼機関とプロセッサー」
海鳴玲子「わたしのは心臓」
  ザー・・・
  シャワーで洗い流す。
海鳴玲子「さて」
海鳴玲子「煤まみれのスーツは綺麗になった」
海鳴玲子「地肌も洗うから、そのスーツ、脱ぎなさい」
マフギ「スーツ」
マフギ「マフギ、脱ぎ方を知らない」
海鳴玲子「・・・」
マフギ「くふ」
マフギ「くすぐったい!」
海鳴玲子「こら、ジッとしてなさいってば!」

〇豪華なリビングダイニング
  ブオオオン
  玲子がドライヤーでマフギの髪を乾かしている。
海鳴玲子「その服、サイズぴったりでよかったわね」
マフギ「生地が柔らかい」
海鳴玲子「布繊維だから」
マフギ「伸縮しない」
マフギ「すぐに破れそう」
海鳴玲子「その心配は不要よ」
海鳴玲子「うちで暴れたりしない限りは・・・」
マフギ「スーツは?」
海鳴玲子「今、乾かしてるから、朝まで我慢しなさい」
マフギ「・・・」
  カチッ
  玲子、ドライヤーを切る。
マフギ「花の匂いがする」
海鳴玲子「シャンプーの香りね・・・」
海鳴玲子「マフギ」
マフギ「ん?」
海鳴玲子「質問してもいいかしら」
マフギ「・・・」
海鳴玲子「20xx年10月30日、時刻14:30ごろ、作戦番号P-ヨンマル中、」
海鳴玲子「MFG-6に何があったのか」
海鳴玲子「分かる範囲でいいから、教えて」
マフギ「・・・」
マフギ「対象の記憶はデータ領域から削除されている」
マフギ「したがってその質問には答えられない」
海鳴玲子「・・・」
海鳴玲子「・・・こんなに驚いたのはいつぶりかしら」
海鳴玲子「わたしはね、」
海鳴玲子「対象時刻の記録映像が、」
海鳴玲子「あなたのデータ領域に残っていることを、しっかりと確認しているの」
海鳴玲子「そのうえで、聞いたのよ」
海鳴玲子「何か知ってるか? って」
海鳴玲子「あなたがなんて答えるか知りたくて・・・」
海鳴玲子「ねえ」
海鳴玲子「どうして、嘘をついたの?」
マフギ「・・・」
マフギ「・・・分からない」
海鳴玲子「分からないじゃないでしょ」
海鳴玲子「自分のことなのよ?」
マフギ「思い出したくない」
海鳴玲子「思い出したくない?」
海鳴玲子「思い出せない、じゃなくて?」
マフギ「・・・」
海鳴玲子「ふー」
  バシッ!!!
  玲子の手が走り、マフギの右頬をひっぱたいた。
海鳴玲子「あなたは自分をなんだと思ってるの?」
海鳴玲子「自立型戦闘用ロボットなのよ」
海鳴玲子「あなたの役目は戦うことなの」
海鳴玲子「温かい部屋でご飯を食べることじゃないの!!!!」
海鳴玲子「あなたが熱いシャワーを浴びて、髪をとかしてもらってる間にもね」
海鳴玲子「あなたの仲間たちは、戦場で煤だらけになって、大型兵器と戦ってるのよ」
海鳴玲子「彼らに対して、恥ずかしいと思わないの?」
マフギ「・・・」
海鳴玲子「もういいわ」
海鳴玲子「明日、朝一番であなたをスクラップ場に持っていくから」
海鳴玲子「プレス機で粉々にしてもらって」
海鳴玲子「溶鉱炉で溶かして」
海鳴玲子「残った素材を、仲間たちを助けるために使う」
海鳴玲子「自分の役目を果たせない子は要らない」
海鳴玲子「それじゃ、お休みなさい」
マフギ「・・・」

〇豪華なリビングダイニング
  カチカチカチ・・・
海鳴玲子「・・・」
  うっ うう・・・
  ぐす・・・ひっく・・・
海鳴玲子「・・・?」
海鳴玲子「泣き声?」
海鳴玲子「・・・」
  玲子、布団から起き出し、ソファに向かう。
マフギ「うう・・・ひっく・・・」
海鳴玲子「マフギ」
海鳴玲子「泣いてるの?」
マフギ「敵を・・・見つけて・・・壊す・・・」
マフギ「嫌だ・・・」
マフギ「嫌だよ・・・」
マフギ「嫌だああああああああああ」
マフギ「あーーーーーーーーー」
マフギ「あーーーーーーーーー」
マフギ「いたいよーーーーーーーー」
マフギ「こわいよーーーーーーーーー」
マフギ「あーーーーーーーーーー」
マフギ「あがっ・・・ごぼっ」
  喉を詰まらせ、ゲホゲホとむせるマフギ。
海鳴玲子「・・・」
  玲子の手が、ふらふらとマフギに近づき、
  決めあぐねるように宙をさまよい、
  おそるおそる、マフギの肩に触れ、
  自分の胸に引き寄せた。
  マフギの泣き声は、より激しさを増す。
マフギ「あーーーーーーーーーーー」
マフギ「あーーーーーーーーーーー」
海鳴玲子「・・・」
マフギ「あーーーーーーーーーーーー」
海鳴玲子「・・・」

〇駐車車両
  翌朝。
海鳴玲子「マフギ」
海鳴玲子「用意はできた?」
マフギ「うん」
海鳴玲子「それじゃ、乗って」
  バン、と車のドアが閉まる。
  エンジンがかかる音。
  玲子とマフギを乗せた車が、駐車場を後にする。

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