時計がわからない(脚本)
〇教室の外
僕は時計がわからない
時計の針をじっと見ている
時計を見ていつも泣いている
時間がわからないから。
〇教室
10分前だとか、
3分後だとか、
何時半だとか、
何時ちょうどだとか。
〇時計
算数の時間
先生「わかるまで時計を見とけ!」
じっと見て、
わからなくて涙が出て。
涙が出て、
視界が滲んで
なお見えなくて。
〇モヤモヤ
時間がわからない僕は
どれだけその時計を
見ていたかもわからなくて。
〇教室
時間がわからない僕は
どれだけその時計を
見ていたかもわからなくて。
〇学校の昇降口
夕焼けが教室を
黄色く染めて、
それは赤くなり、
やがて暗くなって、
時計は見えなくなって。
それでも僕は
じっとそれを見ていた。
〇教室
だんだん空間が
ぼんやりとしてきた。
どこにいるのかも
よくわからなくなってきた。
〇教室
「僕」という視点も
なんだか曖昧になってきた。
どこでもない、
そして、
誰でもなくなってきた。
〇教室
どこでもない、
そして、
誰でもなくなってきた。
何かを観測している視点自体が
あやふやで、
〇高い屋上
ふわふわと浮かんでいるような、
溶けているような、
〇土手
全てを見渡せているようで、
逆にそこには何もないような
〇モヤモヤ
不思議な感覚にいた。
〇時計
いや、
いた、ということすらもよくわからない。
僕はどこにもいない、
ようにも思える。
〇テクスチャ3
しかし、
突如として
眩しい光を感じて、
不安と安心の
感情がどこかに流れてきた。
〇幻想空間
一体、
ここはどこだろう?
やがて、
あたたかいものに包まれるようにして、
その感情はひとつのところに
落ち着いたようだった。
〇病院の廊下
それは
不安定に浮遊していたものが、
確かなところに繋がれたようで、
そのことで
その存在は落ち着くことができた。
〇教室
そして、
その存在は
時計を見ている少年に
声をかけてきた。
赤ん坊「そうして僕はそこにいるよ」
視点は、
その存在とその少年と繋がった。
〇時計
僕「ああ、そうだ」
僕「僕だ」
僕「生まれたばかりの僕だ」
〇幻想空間
僕が生まれた時のその存在と、
今の僕と繋がった。
〇時計
時間は同時に存在しながらも、
まるでそれが過ぎているように、
時計の針が進んでいるように、
世界は見せている。
それが、
僕という存在がこの世界で混乱しないための
仕組みだった。
〇黒
それが、
僕という存在がこの世界で混乱しないための
仕組みだった。
僕はいない。
僕は時間というルールの世界の中で、
存在するだけの点にすぎない。
〇時計
時計がわからない。
時間はもともと存在しないからだ。
僕は
そのことを知っていて、
時計がわからない。
混乱していたのは、
僕でもあり、
その僕の様子を見た世界の方だった。
〇テクスチャ3
光が遠のいていく。
繋がれていた確かな感覚が
あやふやになってきている。
不確かで
溶け出していくよう。
〇黒
その存在が、
時計を見ている少年にそっと言った。
「そうして僕はそこにいるよ」
僕(ああそうか、年老いた僕だ)
〇教室の外
僕は時計がわからない
時計の針をじっと見ている
時計を見ていつも泣いていた。
時間がわからないから。
〇散らばる写真
だけど、
全てが同時に存在している。
〇教室
だから、
時計は僕にとって意味がない。
〇水中
だって、
生まれてから死ぬまでの僕は
全て同時に存在するから。
どこかの点を僕というなら、
それは僕じゃない。
ただ、時計を見ている僕ら
という一部でしかない。
〇雲の上
ただ、時計を見ている僕ら
という一部でしかない。
もう僕は
時計を見て泣くことはない。
〇地球
僕は、
僕らは
それら全てなんだから。
〇黒
おわり
時計の意味とは?を考えさせてくれる作品でした。
平たく言えば「時の流れを観測するもの」なんでしょうが、人にとっては意味のないものなのかもしれません。
文章の入った写真集のようで、面白く読ませていただきました。自分の概念の真相に気づいた彼を他の人がどう思ったかという方向には行かず、彼の話だけで終わったのが芯が通っていてよかったです。混乱しないための仕組みに気づくと混乱しちゃいますね笑 ふとした拍子に点の位置がずれてしまったら?と考えてハラハラしました。色々想像できて面白かったです。
すべての言葉が何か呪文のように感じました。その世界観に引き込まれました。今を掛け算するか割り算するかは人それぞれなのに、実際私達は時計というものに支配されているのかもしれませんね。私も時計がわからなくなりたいです!