第ニ話『夜の闇と眷属』(脚本)
〇屋上の隅
千晶「・・・」
加賀美明日香(だ、誰なの、この人は!?・・・一体どこから現れて・・・)
奥田晶緒「・・・!!て、てめぇ・・・!」
奥田晶緒「なんでここにいる!幽閉されてたんじゃねぇのかよ!?」
千晶「・・・なんでもいいでしょ。あなたはここで死ぬんだし」
奥田晶緒「!?くっ・・・」
謎の青年の鋭い爪が、晶緒さんに容赦なく襲いかかる。
加賀美明日香「きゃっ!?」
加賀美明日香(な、何ですのこれは・・・この光景は、現実なの・・・!?)
加賀美明日香「!!そうだ、今のうちに彼を・・・!」
久能祐樹「・・・・・・ぅ・・・」
加賀美明日香「久能!どうかしっかりして・・・!」
倒れている久能の頭を膝に乗せ、私は必死に彼に対して呼びかける。
彼の首筋には痛々しく大きな二つの穴が空いており、その穴から血液が流れ落ちた跡が残っていた。
加賀美明日香(この跡は一体・・・!?もう出血はしていないようだけど・・・)
久能祐樹「かが・・・み・・・逃げ・・・」
加賀美明日香「!喋らないで。これから病院に運びますわ」
奥田晶緒「──あら、そんなの事しても無意味よ」
加賀美明日香「!?いやぁあああっ!!」
晶緒さんの攻撃はターゲットを変え、私へと突然襲いかかってくる。
彼女の鋭い爪は私の左袖の服を切り裂いた。
たまたま反射的に避ける事ができたから服だけで済んだものの、あんな鋭い爪で引っ掻かれば肉など簡単に裂くことが出来るだろう
奥田晶緒「あら、上手に避けたわね。・・・邪魔な貴女はさっさと殺すべきだったわ」
晶緒さんはにこやかに微笑み、恐怖でその場から動けなくなった私へとどんどん近付いてくる
加賀美明日香「・・・ッ!」
千晶「ねぇ、貴女の相手はこっちだって言ってるでしょう?」
謎の青年はそう言うと、自らの腕を鋭い爪でほんの少し切り裂き、地面へと数滴血を落とした。
青年が落とした血液はそのままみるみるうちに地面に大きく広がっていき、信じられない事に次第に血液は立体的な虎へと変幻した。
奥田晶緒「なっ・・・!?これは、血変幻術・・・!?」
虎へと変幻した血液は、そのまま晶緒さんに襲い掛かる。
奥田晶緒「!!!」
奥田晶緒「・・・そう。ただの出来損無いじゃなかったようね」
間一髪、血液で出来た虎の攻撃を避けた晶緒さんは笑顔でそう言うと、私の方を再び見た
奥田晶緒「・・・運がいいわね。貴女を殺すのはまた今度にしてあげる」
加賀美明日香「晶・・・緒・・・さん・・・」
奥田晶緒「ごきげんよう」
そう言って晶緒さんはそのまま屋上の手すりをひょいと飛び越えてそこから飛び降りてしまった
加賀美明日香「!?こ、ここ18階・・・!!」
千晶「・・・クソッ!!待て!!」
謎の青年は屋上の手すりにすぐさま近寄り、悔しそうに舌打ちをする
加賀美明日香「あ、あの・・・」
警備員「・・・おいっ!そこに誰かいるのか!?」
突然、遠くの方からこちらに駆け寄ってくる足音と男性の声が聞こえた。
千晶「!」
千晶「・・・姿、見られると厄介だな」
千晶「ねぇ、あんた。一緒に来て」
加賀美明日香「は!?」
加賀美明日香「い、一緒にってどこへ・・・!?」
加賀美明日香「そ、それより久能が大変なんです!早く病院に連れて行かないと・・・ッ」
千晶「いいから」
そう言うと謎の男性は私を強引に抱き抱え、そのまま晶緒さんと同じく屋上の手すりから飛び降りようとする
加賀美明日香「いやっ!?なんですの!やめて!!落ちたら死んでしまいます!離して!!」
千晶「うるさい!」
加賀美明日香「いやぁーーーーっ!誰か、助けて!!」
私の叫びも虚しく、謎の青年はそのまま屋上から飛び降りてしまった。
〇廃ビルのフロア
──あれから10分後・・・廃屋ビルにて
加賀美明日香「うぅッ・・・グスッ・・・」
千晶「いつまで泣いてるの」
千晶「いい加減落ち着いてくれないと困るんだけど・・・聞きたい事もあるし」
加賀美明日香「これが落ち着いていられる訳ないでしょう!」
千晶「?」
加賀美明日香「すっとぼけるんじゃありませんわ!久能を見殺しにさせて・・・」
加賀美明日香「その上見ず知らずの私を突然不躾に抱き抱えたかと思えばそのまま屋上から身投げして!・・・こんなところまで連れてきて!」
千晶「身投げじゃない。ちゃんと空を飛んだだろう?」
加賀美明日香「それならそうとちゃんと飛ぶ前に言っておいて下さい!生まれて初めて本気で死を覚悟しましたわ」
加賀美明日香「っていうか空を飛べるって何ですの!?あなたは・・・一体何者なんですの!?」
千晶「キャンキャンうるさい・・・俺、まだそんなに早く会話できないからゆっくり喋って」
加賀美明日香「はぁ!?」
千晶「・・・質問は、一つずつゆっくりして」
加賀美明日香「・・・・・・」
加賀美明日香「・・・久能は、死んだの?」
千晶「久能って、さっき倒れてた男の事?」
加賀美明日香「ええ」
千晶「死んでないよ」
加賀美明日香「・・・嘘ですわ!嘘吐き!嘘吐きぃいい・・・ッ!」
千晶「質問に答えたのに何で嘘吐き呼ばわりされてる訳?」
加賀美明日香「あんなに首から血を流して・・・ッ!そう簡単に助かる訳ありません!ねぇ、お願いです。今からでも彼の元へ行かせて下さい!」
千晶「生きてるって。・・・多分あの後、さっきの警備員が助け起こして、ケロッとした顔で家に帰るに決まってる」
加賀美明日香「どうしてそんな事言い切れるんですの!」
千晶「だって、あの男は眷属(けんぞく)にされただけだから」
加賀美明日香「けん・・・ぞく?」
千晶「眷属(けんぞく)。俺達吸血鬼は、血を吸った相手を思いのまま支配できる。・・・晶緒はあの男を自分の眷属にしたのさ」
加賀美明日香「な、何言って・・・俺達って、やっぱりあなたも・・・?」
千晶「そう、俺も正真正銘の吸血鬼。・・・勿論晶緒もね」
千晶「・・・あんたも見たでしょ?あの男の首筋。あれは、晶緒があの男の血を吸った跡」
千晶「晶緒はあの男を自分の眷属(モノ)にしたのさ」
加賀美明日香「眷属・・・晶緒さんの・・・」
〇屋上の隅
奥田晶緒「・・・ごめんなさいね」
奥田晶緒「この子はもう・・・私のモノなの」
〇廃ビルのフロア
加賀美明日香「・・・確かに・・・晶緒さん言ってたわ・・・」
加賀美明日香「久能はもう、自分のモノだって・・・」
加賀美明日香「でもどうして久能を・・・」
千晶「さあねぇ。そこまでは知らないよ」
加賀美明日香「・・・・・・」
加賀美明日香「今更あなたたちが吸血鬼である事を疑ったりはしませんわ。超人的な能力で戦ったり、空を飛んでるところを見たのですから・・・」
加賀美明日香「でも・・・あなたたちの・・・晶緒さんの目的が分かりませんの・・・」
加賀美明日香「彼女は久能を眷属にして、これからどうするつもりですの?・・・あなたは、どうして晶緒さんを襲いましたの?」
加賀美明日香「・・・私は晶緒さんに殺されてしまいますの?」
千晶「いっぺんに質問しないでってさっき言ったんだけど」
千晶「ゆっくり一つずつしてってば。そんなに覚えられないし」
加賀美明日香「・・・そうでしたわね・・・ごめんなさい」
加賀美明日香「・・・」
加賀美明日香「そうでしたわ。私、大事な事をあなたに言い忘れていました」
千晶「?」
加賀美明日香「先程は危ないところを助けてくださってありがとうございます」
加賀美明日香「危うくお礼も言えない最低な人間になるところでした」
千晶「助けてない。俺は晶緒を追ってきただけだし」
加賀美明日香「ですがあなたが現れなければ私はあのまま・・・きっと晶緒さんに殺されていました」
加賀美明日香「久能が生きているという貴方の言葉も・・・信じたいと思います」
千晶「・・・」
加賀美明日香「で・す・が!」
千晶「!?」
加賀美明日香「あの後久能を放ったからしにして、私を乱暴に抱き抱えてこんな場所に否応なく無理矢理連れてきた事に対しては怒っております!」
加賀美明日香「その上、何も言わずに屋上から飛び降りた上に!そのまま空を飛ぶと言う未知の体験をして・・・私とっても怖かったんですの!」
加賀美明日香「あまりの非現実さと怖さでパニックになって取り乱してしまいましたわ!」
千晶「あ、ああ」
加賀美明日香「「ああ」じゃありません!」
千晶「え?」
加賀美明日香「あなた謝罪もできませんの!?「ごめんなさい」でしょう!」
千晶「ご・・・ごめんなさい・・・?」
加賀美明日香「・・・」
加賀美明日香「よろしくてよ!」
千晶「・・・」
加賀美明日香「わだかまりも解けたところで・・・」
加賀美明日香「そろそろあなたの事を色々聞きましょう。あなたが私をここに連れてきた理由と・・・晶緒さんを襲った理由・・・」
加賀美明日香「いえ、その前に・・・貴方の名前を教えて下さる?」
千晶「俺は・・・」
千晶「千晶(ちあき)。俺の名前、千晶だよ」
明日香さん、いいキャラしてますね😆
登場キャラの中で一番度胸がありそうです💪