〇明るいリビング
　　『高次脳機能障害』
　　『記憶障害』
　　『解離性健忘』
早瀬 悠「違う」
早瀬 悠「これも違う・・・」
早瀬 悠「性格が変わったとかの レベルじゃないんだよなぁ・・・」
早瀬 かおり「あら、アンタまだそんな格好して」
早瀬 悠「お母さん」
早瀬 かおり「大和くん、今日退院なんでしょ？」
早瀬 かおり「病院行かなくていいの？」
早瀬 悠「おじさんとおばさんが迎えに行ってるよ」
早瀬 悠「あとで顔だけ出すつもり」
早瀬 かおり「そう」
早瀬 かおり「アンタも不安だろうけど、大和くんのこと、しっかり支えてあげるのよ」
早瀬 かおり「大河くんの分まで──」
早瀬 悠「・・・分かってる」
早瀬 かおり「車の音だわ」
早瀬 かおり「お隣、戻ってきたんじゃない？」
早瀬 かおり「ほらっ、さっさと着替えてらっしゃい」
早瀬 悠「はぁーい」

〇女の子の部屋（グッズ無し）
早瀬 悠「・・・・・・」
早瀬 悠「はぁ〜・・・」
　　結局、大河のお見舞いには、数回しか行かなかった。
　　幼なじみの死という現実、やり場のない気持ちと折り合いをつけようとしていた矢先に、あの出来事──

〇病室
本間 大河？「俺は、本当に『大河』なんだ!!」

〇女の子の部屋（グッズ無し）
早瀬 悠（どう気持ちを整理したらいいのか分からない）
早瀬 悠（身体は大和のものでも中身が大河なら、 それはもう、ほとんど大河なんじゃ・・・）
早瀬 悠（双子だから外見はそっくりだし・・・）
早瀬 悠「・・・・・・・・・」
早瀬 悠「どこにいっちゃったの、大和・・・」

〇黒

〇一軒家の玄関扉
本間 和子「悠ちゃん」
本間 和子「来てくれてありがとうね」
早瀬 悠「いえ・・・」
早瀬 悠「たい──大和の様子、どうですか？」
本間 和子「たまに記憶があいまいになるようなんだけれど、生活には問題ないわ」
本間 和子「ただ、会社は少しの間、 休職させてもらうことにしたようなの」
早瀬 悠「そうですか・・・」
本間 和子「あら、私ったら玄関先でごめんなさいね」
本間 和子「どうぞあがって」
早瀬 悠「お邪魔します・・・」

〇おしゃれなリビングダイニング
本間 大河？「悠ちゃん！」
早瀬 悠「・・・大和」
早瀬 悠「具合、どう？」
本間 大河？「うん、もうバッチリ」
　　少しだけ──
　　ほんの少しだけ、『大和』に戻っているんじゃないかと期待したけれど・・・
　　目の前の彼は『大河』だった。
本間 大河？「父さん、母さん」
本間 大河？「二人で話したいこともあるし、 ちょっと部屋に行ってくるよ」
本間 大地「ちゃんと片付いてるのか？」
本間 大河？「『大河』じゃあるまいし」
本間 大河？「大丈夫だよ──」
本間 和子「お茶用意しとくわね」
本間 大河？「うん、ありがとー」
本間 大河？「行こう、悠ちゃん」
「・・・・・・・・・」
本間 和子「わざとなのかしら・・・」
本間 大地「・・・大河みたいな話し方が、か？」
本間 和子「あの子、無理してるんじゃない？」
本間 大地「悠ちゃんが寄り添ってくれているんだ」
本間 大地「そのうち『自分』を取り戻すさ」

〇部屋の前
本間 大河？「やー、久し振りに実家に帰ってきたよ」
本間 大河？「バイト忙しくて、最近はなかなか──」
早瀬 悠「・・・っ、大河！」
早瀬 悠「そこは大和の部屋だけど・・・」
本間 大河？「あー・・・」
本間 大河？「・・・・・・・・・」
本間 大河？「『俺』の部屋、どっちだと思う？」
早瀬 悠「えっ・・・？」
本間 大河？「身体が主体なら 『大和』の部屋が『俺』の部屋だし──」
本間 大河？「精神が主体なら 『大河』の部屋が『俺』の部屋だ」
本間 大河？「『俺』は、どっちに 入るべきだと思う・・・？」
早瀬 悠「そんなこと・・・」
早瀬 悠「・・・・・・っ」
本間 大河？「・・・ごめん」
本間 大河？「意地悪言った」
本間 大河？「今の俺は『大和』ってことになってるし、 大和の部屋に入ろうか？」
本間 大河？「それに、よく考えたら『大河』の部屋は 散らかりすぎてて座るとこねーわ」
早瀬 悠「・・・もう、大河ってば」

〇一人部屋
本間 大河？「はー、予想通りだけど・・・」
本間 大河？「すげー片付いてんなぁ」
本間 大河？「悠ちゃんは、お家デートとかいって、 よく遊びに来てたんでしょ？」
早瀬 悠「たまにだよ」
早瀬 悠「誰かさんは全然 寄りついてなかったみたいだけど」
本間 大河？「俺は誰かさんと違って自立してましたし？」
本間 大河？「一人暮らしサイコー」
早瀬 悠「アパートに遊びに行きたいって言ってたのに、結局行かせてくれなかったしね」
早瀬 悠「・・・アパート、引き払うの？」
本間 大河？「多分、そうなると思う」
早瀬 悠「そっか・・・」
早瀬 悠「片付け手伝うから、呼んでね」
本間 大河？「うん・・・」
本間 大河？「──あのさ、悠ちゃん」
早瀬 悠「なぁに？」
本間 大河？「俺、このまま『大和』として生きてもいい？」
早瀬 悠「どういう、こと？」
本間 大河？「そのままの意味だよ」
本間 大河？「『俺』が『大和』の身体で 『大和』として生きる・・・」
本間 大河？「それでもいい？ それでも悠ちゃんはそばにいてくれる？」
早瀬 悠「ちょっ・・・ ちょっと待って・・・」
早瀬 悠「それじゃあ、大和は？」
早瀬 悠「大和はどうなるの!?」
早瀬 悠「大和のことは、探さないの・・・？」
本間 大河？「悠ちゃん・・・」
早瀬 悠「もちろん、大河が今ここにいて、話ができて、嬉しくないわけじゃない」
早瀬 悠「それは本当に本当！」
早瀬 悠「だけど・・・っ」
早瀬 悠「私、まだ大和を諦めたくない・・・」
早瀬 悠「どうにか、二人が生きられる道はないの・・・？」
早瀬 悠「・・・っ、ぐすっ」
本間 大河？「ごめん」
本間 大河？「ごめんね、悠ちゃん・・・」
　　私を抱きしめる腕が『誰』のものなのか。
　　混乱した頭では、判断することができなかった。

〇部屋の前
本間 大河？「まだ早かったか・・・」
本間 大河？「悠ちゃんは本当に 『大和』が大切なんだ」
本間 大河？「でも・・・」
本間 大河？「それなら、どうして──」

〇おしゃれなキッチン
本間 大河？「母さん」
本間 大河？「飲み物、取りにきたんだけど」
本間 和子「もうちょっと待って」
本間 和子「紅茶にしようと思って お湯沸かしてるところなのよ」
本間 和子「あっ」
本間 和子「冷蔵庫にプリンがあるから持って行って」
本間 大河？「はいはい」
本間 大河？「プリン〜っと・・・」
本間 大河？「──ッ!?」
本間 和子「大和!?」
本間 和子「どうしたの!?」
本間 和子「お父さん、来て!!　大和が・・・っ」
本間 大地「どうした!?」
本間 大河？「・・・っ」
本間 大河？「ごめん・・・」
本間 大河？「急に頭が痛くなって・・・」
本間 大地「歩けるか？」
本間 大河？「・・・大丈夫」
本間 大河？「心配かけてごめん」
本間 和子「明日、病院に行きましょう」
本間 大河？「せっかく今日、 退院したばっかりなのに？」
本間 大河？「精密検査では異常なかったんだし、大丈夫」
本間 大河？「次の受診の時にでも、 先生に相談してみるよ」
本間 和子「でも・・・」
本間 大河？「ほら、お湯沸いたよ？」
本間 大地「本当に、大丈夫なんだな？」
本間 大河？「うん」
本間 大地「無理はするなよ」
本間 大河？「分かってる」

〇一人部屋
本間 大河？「悠ちゃんお待たせ〜」
本間 大河？「紅茶とプリン持ってきたよ」
本間 大河？「・・・って」
本間 大河？「寝てるし」
本間 大河？「・・・・・・」
本間 大河？「悠ちゃんは・・・」
本間 大河？「『大和』と『大河』どっちがいい？」
？？？「どっちの『俺』なら、 気に入ってくれるの──？」