3話 少女は部活したい(脚本)
〇学校の廊下
衝撃の告白を受けてから早三日が経過した。しかし、あれ以降花梨が何かしてくる事はない。
蓮「なんだ。構えていたのが馬鹿みたいだ」
授業終わりにいつもの部室へ向かっていると、普段ツインテールにしている髪型をそのまま下ろしている花梨と目が合った。
蓮「あっ」
嫌な予感がするので蓮は見て見ぬ振りをして花梨とは逆方向に歩き出す
花梨(変装)「こら蓮くん!」
ダメだ。捕まった。
花梨(変装)「逃げようとはいい度胸だね。でも、」
花梨(変装)「一目で私だって分かってくれたから特別に許してあげる!」
言われてから気がついたが花梨は髪型だけでなく髪の色まで黒へと変わっていた。
蓮「我ながらよく気づいたもんだ」
花梨(変装)「ん?なんて?」
蓮「いや何でもない。その髪、染めたのか?」
花梨(変装)「ウィッグだよ。マネージャーに学校でクラスの人とかがやたら話しかけてきて困ってるって言ったら色んな種類のやつくれたの」
なるほど。確かにクラスに人気アイドルがいれば周りの男子は放っておかないだろう。
あわよくばお近づきに、とでも思って接近してくるところが目に浮かぶ。
蓮「苦労してるんだな」
花梨(変装)「蓮くんが無理難題吹っかけてきたせいでね」
返答に困るコメントが返ってきた。確かにアイドルになったのは蓮のせいかも知れないが、本当になるなんて思ってなかったし。
何だったらそんな事は蓮はとっくに忘れていた事だし。
蝉丸「あれ?蓮じゃねえか。何やってんだこんなとこで」
蓮「何だお前か。びっくりした」
今は変装しているとはいえ人気アイドルと二人っきりで話している姿なんてファンに見られたら殺されてしまう。
そう思ったが相手が蝉丸なら何の問題もない。
蝉丸「というか女の子!?蓮!どう言う事だこの野郎!!」
蝉丸は蓮の女性不信を知っている。故に蓮が女の子と二人きりでいるという現状に非常に驚いていた。
いや、驚いているというより怒っている様に見えるが、きっと勘違いだろう。
蓮「落ち着け。この子は特別だ。姉ちゃんと冬三と一緒だよ」
花梨(変装)「特別だなんてそんなぁー」
花梨(変装)「ん?蓮くん。冬三って、誰?」
特別と呼ばれて嬉しそうに声を弾ませる花梨だが、知らない女の名前に即座に反応する。
前半は凄く弾んだ声だったのにその声から出た言葉とは考えられない程冷たく恐ろしい声だ。
蓮「っ!?」
蝉丸「うおっ!?」
花梨(変装)「あ、ごめんなさい。怖がらせちゃいました?でも、私に怯える蓮くん、ちょっと可愛いかも」
蓮「か、勘弁してくれ」
そんな話をしていると廊下にかなりの数の生徒がいることに気がついた。もう授業も終わったし帰ったり部活に行くのだろう。
蓮「人も増えてきたし、とりあえず部室行こうぜ。蝉丸も今日は部活休みだろ?」
蝉丸「おう!じゃあ行くか!」
花梨(変装)「部活?」
花梨の疑問にはひとまず部室で答えるとして、一同は蓮が向かおうとしていた部室へと向かった。
〇学校の部室
教室から部室棟へ移動してすぐ。とある教室に辿り着いた。
花梨「ここは、映画研究会?」
その教室には映画研究会と綺麗とは言えない字で張り紙がされていた。
蓮「ああ。俺が所属してる部活だな」
蝉丸「俺はバスケ部と掛け持ちだ。バスケがない時は遊びに来てるぜ」
花梨「意外。蓮くんって映画好きだったんだ」
花梨の疑問も最も。実際蓮は映画好きとは言えない。蓮が見る映画といったらアニメ映画程度だし海外映画など見ていると眠くなる。
蝉丸「こいつは静かに過ごせる場所が欲しかっただけだぜ。後は冬三に頼まれたからだろうな」
蝉丸が冬美の話を出すと花梨の表情が固くなる。ライバルを見る目だ。
蓮「冬三は大の映画好きなんだが、このままじゃ映画研究会が潰れちゃうとか言って泣きついてきたから仕方なく入ったんだよ」
花梨「ふーん」
坂本冬三。蓮と蝉丸と同じクラスの少女だ。大の映画好きで休日は全て映画に注ぎ込んでいるのだとか。
その後花梨と蝉丸の事などを一通り話をしながら部室での時間を過ごした。
〇学校の部室
花梨「今更だけど、夏野先輩がバスケしてる間蓮くんはその冬三先輩とふたりっきりでこの部室にいるわけ!?」
蝉丸「いや、冬三はこの時期には部室には来ないぞ。今は多分脚本作りで忙しいんだろ」
冬三は映画を見るだけでなく自分で作ることもしている。大体春の内には文化祭で上映する映画の脚本を書いている。
その後夏休みなどを利用して撮影。そして編集をして文化祭に上映。そんな流れが一年の映画研究会の動きだ。
花梨「そっか!じゃあ蓮くんと冬三先輩が会う事はないんだ!」
蓮「いや毎日会うぞ?同じクラスだからな」
花梨「そうだった」
笑顔を見せた花梨だったが蓮と冬三が毎日会っていることを知りがっかりした顔を見せる。
蝉丸「カーリンって浮気許さないタイプなんだな。更に束縛するタイプか」
普通の人は浮気許さないだろう。いや、第一蓮と花梨は付き合っていないし冬三ともしそう言う関係になっても浮気ではないが。
花梨「別に束縛じゃないよ。蓮くんに私以外の女を見て欲しくないだけ」
蓮「それを束縛と言うんじゃ」
蓮は花梨と少しずつ距離を取りながら後退りする。しかしゆっくり稼いだ距離は数秒で詰められてしまう。
蝉丸「そんで、カーリンはマジで蓮と結婚したいと思ってる訳?何でこんなやつと?」
花梨「蓮くんの良さが分からないとは悲しいね夏野先輩。あ、私の事は花梨って呼んでほしいな」
蝉丸「そう?じゃあそうするわ」
もし誰かいるときにカーリンなどと呼んだら変装の意味がなくなってしまう。故に呼び方は普通に。
蝉丸「それはそうと、俺も蓮の良さは分かるぜ!だから花梨は見る目あるぜ!応援するから頑張れよ!」
花梨「ありがと!夏野先輩!」
蓮「あの、だから俺の意見は?」
確か前にもこの様な会話をした気がする。これがデジャブというやつか。
花梨「良し!そうと決まれば入部届け出さないとね!紙ある?」
蝉丸「おう!ほら」
蝉丸が何処からともなく入部届けを出してくる。一体何処に忍ばせていたと言うのか。
蓮「入部届け?どっか入りたい部活決まったのか?」
蝉丸「お前、マジで言ってる?」
分かっている。分かっているけれど、少しでも足掻かせて欲しい。
花梨「冬三って人がほとんど来ないなら夏野先輩が来ない日は毎日二人きりだもんね!しかもここなら周りの目を気にする必要もない!」
花梨「この映画研究会は私にピッタリな部活だよ!」
蓮「一応夏休みとかは映画撮ったりするんだぞ?大丈夫なのか?」
花梨「映画なら何本か出てるし平気平気!私演技上手いんだ!」
別に演技の心配はしていない。問題は人気アイドルが思い切り映っている映画を文化祭で流してもいいのかという話だ。
蝉丸「まあ変装すればなんとかなんだろ。言われるまで俺も気づかなかったしな」
こうして一抹の不安を抱えながらも花梨が映画研究会に入部した。