怪獣護送作戦(脚本)
〇研究機関の会議室
博士「漂流物の構成と海中の痕跡の照合結果が出たよ。モ〇ラのDNAパターンとほぼ一致、近縁種と考えていいね」
博士「呼称は『でっかい丸芋』にしようか。痕跡から見て、卵から孵って移動してるみたいだね」
間宮教授「現地の調査チームはバ〇ラの可能性も無視できないという声がありますがどう思いますか?」
博士「あー、学会はサンプルが少ないからね。ボクのデータベースはもっと詳細な情報があるから大丈夫だよ」
博士が『データベース』といった途端、科学者達は一斉に不満の声を漏らし始める
モブ教授A「貴重なデータを秘匿か。『13』の関係者はこれだから信用ならん」
モブ教授B「さっさと人類復興のために使えばいいものを」
間宮教授「静粛に! みんな、口を慎みたまえ!」
博士「あーねー。みんな、データ大好きだよね」
モブ教授γ「世界を滅亡寸前に追い込んだ『13』の遺したデータなんだぞ。被害を受けた我々に提供すべきじゃないのか?」
博士「やだなぁ、みんなこのデータがどんなのか知ってるくせに」
博士「わざわざ『パンドラの箱』なんて名付けてるんだからさ」
『パンドラの箱』という単語を耳にした瞬間、ざわついていた会場は一気に凍り付く
ピンと張り詰めた空気が一触即発の様相を醸し出す
間宮教授「えー、今は太平洋に現れた怪獣の対策を話し合う場です。いいですね、博士」
博士「それねー。まあ予想進路を見る限り害はないよ。どこかでひっそり眠ってくれるまで遠巻きに警戒する必要はあるだろうけど」
モブ教授C「文献によれば件の怪獣は人類に友好的とある。人類の味方につけて他の怪獣から守ってもらう方法を考えるべきでは」
モブ教授Δ「確かに。原住民には神として崇められていたらしい。その怪獣と共存できるなら怪獣災害も大きく減らせるんじゃないか?」
博士「無理」
博士「それで『丸芋』の護送についてだけど」
モブ教授Θ「貴様の一存で会議を決めるな」
間宮教授「博士、せめて理由を話していただけないと皆、納得しませんよ」
博士「アレと人類が友好的な関係を維持できるとしたら、それは神と人の関係だよ。人類が利用する存在じゃない」
モブ教授D「利用とはなんだ。我々は共存しようと考えているだけだ」
博士「他の怪獣に守ってもらうとして、こっちは見返りに何を提供するの? 一方的な依存は共存とはいわないよ」
モブ教授X「しかしこの怪獣は過去に人を守ったとあるじゃないか」
博士「資料を良く読みなよ、守ったのは怪獣を守護神として祀っていた人たちだ」
博士「それ以外の都市に与えた被害はこれまでの怪獣災害でも群を抜いている」
モブ教授Y「なら我々も守護神として祀ればいい」
博士「出来るわけないじゃん。あれは未知の神じゃない、既に怪獣として分類された生物だ」
博士「生物が相手ならいずれ誰かがこう言いだす。自分たちに都合の良い存在へできないか?ってね」
モブ教授Z「そんなこと──」
博士「世界138か国、人口50億人の誰一人として未来永劫、怪獣を手駒にしないと言い切れるなら好きにすればいい」
モブ教授O「証明できるわけがないだろうが」
集まった研究者たちはそれぞれに解決策として条約の締結や監視体制などを口々に叫びだす
そこにある選択肢はどれも怪獣を守護神とすることを前提にしたものだった
間宮教授「静かに! 守護神とするかどうかはまだ決まってません!」
博士「平均56回」
間宮教授「な、なんですか?」
博士「ボクが外出した際に拉致もしくは殺害されそうになった平均回数だよ」
博士「7割はティコが防いでいる。残り3割は組織間の潰し合いで勝手に消えた」
博士「『パンドラ』一人でこの有様だ。怪獣を守護神にしたらどうなる? 防衛? 争奪? その程度じゃないことくらいわかるよね」
博士「終末時計は一気に25時を指すだろうよ」
博士「せっかく24時を生き延びたんだ。わざわざ数年前の過ちを繰り返さないほうがいいと思うよ」
〇近未来施設の廊下
朱美「お疲れ様です」
博士「本当に疲れたー。まあ怪獣護送作戦は承認できたからいいけど」
朱美「護送先で狙われたりはしないんですか?」
博士「行先は伏せるし、数十のダミーを用意してる。本隊はステルス機能と光学迷彩の船だから探しようもないよ」
朱美「徹底的ですね」
博士「人類の存亡がかかってるからねー」
朱美「・・・それで、その父さんなんですが」
博士「あーねー。会議の心労が一気にでちゃったみたいな?」
朱美「そ、そうですか」
ティコ「マスター、少し席を外す」
博士「何人?」
ティコ「二人だ。すぐに終わる」
博士「了解」
朱美「ティコさん、いるんですか?」
博士「こういった場所では光学迷彩で姿を隠しているんだよ。怪人の姿をみたら会議にならないからね」
朱美「でしょうね。分かっていてもパニックになるでしょうから」
博士「いやー、あれはあれでみんなイエスマンになってくれるから楽なんだけどねー」
朱美「・・・それ恐怖政治じゃ」
工作員「そろそろ頃合いか」
工作員「いくぞ──」
工作員「ぐっ・・・」
工作員「奇襲?! マンティコアか!」
ティコ「その名を知ってるということは随分と調べたようだな」
工作員「光学迷彩か。一旦ひくぞ」
工作員「あ、あぁ」
ティコ「逃げたか」
朱美「追わなくていいんですか?」
博士「下っ端を捕まえたって次が補充されるだけだよ」
ティコ「工作員というものは相変わらず無駄ということをラーニングしないのだな」
博士「『パンドラ』を手に入れて、今度は自分たちが14番目になりたいんだよ」
博士「一度、脅威に直面したっていうのに。本当に何もラーニングしないね、人類は」
〇漁船の上
作戦決行当日
博士「進行ルートは太平洋側を横断するコースで良かったね。何かを画策しようと広大な海じゃ簡単に見つけられない」
博士「ただ一つ穴があるとすれば──」
博士「工作員が搭乗してたことくらいかなー」
モブ教授「なぜこの船が本船だとわかった?」
工作員「それらしき船に手あたり次第に工作員を送り込んだだけさ。そして私は当たりを引いた」
博士「あーねー。カモフラージュのためにおねーさんを乗せたりしたの意味なかったか」
博士「大抵の相手ならティコ一人で制圧できるって油断もあるけど」
朱美「そのティコさんは?」
博士「深海3500m付近で怪獣を監視中だよ。救難信号を送ったからすぐ戻ってくるだろうけど」
モブ教授「『13』の怪人は4000mの深海から300秒で戻ってきたと記録があったな」
博士「鱗翼怪人『死海のセイレーン』は水中と空中に特化してたからその速度が出せただけだよ」
博士「パーツを流用してるとはいえ、ティコにそこまでの速度は出せない。戻ってくるまで、ざっと630秒かな」
モブ教授「逃走用のヘリが先に来るぞ」
博士「そっちはもう手を打ってあるよ。ただヘリが来ないことを悟られないようにしないと」
朱美「どうやって?」
博士「とにかく会話で気を逸らそう」
工作員「内緒話は済んだか?」
博士「あーねー、こっちはもういいかな。今度は君たちの目的を知りたいかな」
工作員「『14番目のパンドラ』」
工作員「世界を滅亡寸前まで追い込んだ13体の怪人に次ぐ脅威とされた悪魔の知識」
工作員「それさえあれば怪人も怪獣も手中に収めることができるのだろう?」
博士「聞きたいのはその先。ボク達を手に入れて何をするつもりかってこと」
朱美(世界征服・・・とか?)
工作員「全ては祖国を守るためだ」
朱美「え? 国を守るだけ?」
工作員「だけだと?!」
朱美「ご、ごめんなさい」
工作員「小国は大国に潰されないように対等に渡り合う強い力が必要だ。そのためにパンドラを手に入れる必要があるのだ」
モブ教授「確かにロリシカ国を筆頭に水面下で兵器開発を進めていると聞く」
モブ教授「失った国力を取り戻すのに弱った周辺国を取り込むのは都合がいいからな」
朱美「それじゃあ侵略をやめさせれば」
工作員「誰もそれが出来ないから禁忌に触れるしかないんだ!」
朱美「は、博士、この人たちに怪獣以外の力を貸すことはできないんですか? 何か侵略されなくなるような」
博士「あれれ、同情しちゃったの? 正論っぽいこと振りかざしてるもんね」
博士「でもそれはできないよ。侵略者なんかに力を貸せるわけないじゃん」
工作員「ふざけるな、侵略者はお前たちのほうだろう」
博士「喋りに独特の訛りが残ってるからすぐわかったよ。君の国は『13』が最初に襲撃した国の一つ、そして最初に滅んだ国だ」
工作員「覚えていたか」
工作員「そうだ、貴様らは我らが祖国を襲った。軍も兵器も全て壊された。力を失った祖国は他国に食い潰されるしかなかった」
工作員「国を取り返す力を求めて何が悪い!」
博士「君の国は為政者が国を捨てて逃げただけじゃん。それを他国のせいとか笑わせる」
工作員「侮辱するか」
博士「事実だろ。そもそも『13』が動いてなければ──」
博士「世界はプロメテウスの火に焼き尽くされていた。国どころか星が終わってたんだよ」
朱美「世界を滅ぼしたのは『13』じゃ」
博士「『13』が望んだのは次代へ繋げるための人類の終焉。だけど人類が選んだのは星の終焉だった」
博士「あの頃、国同士の緊張は限界を迎えていた。たった一つの手違いで最終戦争から滅亡に達するほどに」
博士「『13』はその終焉を軌道修正するために動いたんだ」
工作員「カルト集団がまるで世界を助けたような言い様だな!」
博士「『13』を正当化するつもりはないよ。彼らのしたことは到底許されるものじゃない」
博士「ただ人質としてあそこにいた身としては人類も『13』もどっちもどっちってところかな」
工作員「まるで他人事だな」
博士「そうだよ。だってボクらは世界のどこにも組み込まれていない」
博士「『25時のトランペッター』だからね!」
工作員「がはっ!」
???「イエス、マスター」
朱美「ティコさん! 間に合ったんですね」
工作員「マンティコアだと?! 馬鹿な、奴が戻るよりヘリが早く着くはずじゃ」
博士「あーねー。ちょっと情報を流させてもらったんだよ」
工作員「情報?」
博士「簡単な情報だよ? 『ヘリをとばすな』ってね」
工作員「同朋がそんな命令を聞くとでも?」
博士「正規の組織以外は誰もいうことなんて聞かないだろうね。だから彼らにみつかった」
朱美「護衛の方がいたんですか?」
モブ教授「いや、船自体に対空兵装はあるが航空機は一切使っていないはずだ」
博士「会議を聞いてなかった? ボクが狙われても生きていられる理由」
朱美「7割はティコさんが」
モブ教授「3割は・・・組織間の抗争!」
工作員「まさか!」
博士「他人を犠牲にしても自分が得しようとする奴が一人でもいれば、誰も彼もそれに合わせて動くしかなくなる」
博士「誰だって一方的に不利益を被るのはごめんだからね」
博士「みんなが全体の得を選んでたなら『13』は動かないで済んだかもね」
工作員「出来るわけがない。99人の善人がいようとも、悪人がたった1人でもいれば集団は疑心に蝕まれる」
博士「その疑心を最初に持つのは悪人だけどね」
工作員「ははっ! よくわかってるじゃないか!」
工作員「作戦に失敗した以上、俺は終わりだろうよ。だが──」
工作員「お前がパンドラの箱を開けるのも時間の問題だ。それが知れただけで十分さ。 世界の最後、楽しみにしてるぞ!」
ティコ「黙れ」
博士「ボクは悪人に期待なんてしてないさ。でも──」
博士「今まで人類は夢物語を実現してきたんだ。だから諦めてるわけでもないんだよ」
博士「・・・さあて、作戦再開といこうか」
ティコ「イエス、マスター」
この騒動の間に『でかい丸芋』は既に行方をくらましていたため、博士はデータ捏造に奔走することになるのだった
ツインテールでジャージの天才博士と、それ以外の人間(=凡人)とのセリフの応酬を堪能しました。それにしても、終末時計の「25時のトランペッター」ってかっこいい言葉ですね。
人間の悪いところ、そんなところがこの作品の良いところだと感じました!
世界を守る人がいるってことは、逆に世界を壊そうとする人がいるってことですよね。
お互い譲れない何かがあるのだとは思いますが…。
怪人なしでどうやって続編を?と思ったら光学迷彩でした。
前作読まなくても、と書いてありましたがキャラクターの理解に難渋するので前作は読むべきだと思います。前作面白いですし!
個人的な感想ですが、『思ってるより読者は行間を理解してくれない』くらいに思って作った方が資源さんの話は多くの人にウケるように思います。