序章 人魚伝説(脚本)
〇海岸の岩場
──ここは、近世のとある世界。
この海は、その世界の片隅に存在する。
〇海沿いの街
──その海に面した、小さな町。
この小さな町に、ある伝説がまことしやかに囁かれていた・・・。
〇海沿いの街
そんな小さな町に、今、ある若い男がいる。
男は、ある伝説について尋ねた。
町人A「あら・・・、あなた、知らない? この町の海にはね・・・・・・」
〇黒
人魚が棲んでいるの──
〇黒背景
《其の人魚と目を見合わせ、其の力を授かりし者、永遠(とわ)の幸福に恵まれん―――》
〇海沿いの街
──男の名はアルス。
流浪の旅によりこの小さな町に辿り着いた。
アルス「・・・・・・しかし、町に辿り着いたはいいが・・・」
アルス「人魚、ねぇ・・・」
アルスの住まう世界に於いても、人魚というのは伝説上の存在と認識されていた。
その人魚が棲んでいる、というのだからアルスは当然訝しむ。
──すると、町の男衆が口々に人魚の話をする。
男A「人魚なんざなぁ・・・にわかには信じられねぇが」
男B「でも人魚が実在するってんなら、大ニュースだぞ」
男C「一攫千金、的な?」
男A「バカっ!お前・・・!」
アルス「・・・宿を探すか」
雑談を横耳にしながら、アルスは宿に向かった。
〇古いアパートの廊下
宿の若女将「いらっしゃい~! 珍しいですね、旅の方なんて・・・!」
アルス「ただの流浪の身です。・・・それより一泊お願いしたいのですが」
宿の若女将「ああ、そうね! じゃあ・・・あそこのお部屋空いてるから、そこがお部屋になります!」
アルス「ありがとう。ゆっくりさせていただきます」
〇古いアパートの廊下
──その夜
アルスは宿の部屋の椅子に腰掛けながら、人魚の伝承について考えていた。
アルス「・・・・・・・・・人魚・・・・・・・・・か」
昼間は訝しこそしたが、町の衆があまりに口々に人魚のワードを出すものなので、
さすがにアルスも人魚の存在について、気になり始めた。
アルス「・・・・・・・・・」
アルスは部屋を出て、夜の散歩に出る。
アルス「・・・女将さん、少し散歩してくるよ」
宿の若女将「あら、お客さん。あまり町から外れないように気をつけてね。魔物とか居るから」
アルス「慣れたものだよ。では。しばらくしたら帰ってきます」
〇海沿いの街
アルスは夜風に当たりながら町を歩く。
・・・海に向かいながら。
そして・・・
〇海岸の岩場
アルス「・・・・・・人魚、か」
アルスは海に来た。
アルス「・・・・・・まあ、多分流言の類いだろうが・・・、な」
アルス「・・・・・・・・・」
アルス「・・・・・・・・・・・・・・・、風が気持ちいいな」
アルス「しばらく、ここにいるか」
アルスは海岸を少し歩き回る。
・・・暫くし、アルスは海がかすかに波立ち始めたのを感じた。
アルス「・・・いやに波が立ち始めたな・・・。風もそんな強くないのに」
しかし、所謂天候不良による波とも様相が違う。
アルス「・・・・・・なんだ?あの波。俺が前、船中で嵐に巻き込まれた時の波とも違う。一体なんだ?」
刹那、アルスは或る事を感じ取った。
アルス「・・・・・・まさか・・・・・・」
ーーーーーその、まさかであった。
〇沖合
波の音と共に、何者かが水平線を雫を飛び散らせながら飛び出し、宙に舞った。
アルス「──────!!」
アルスは絶句する。
そのシルエットは、まれに見る大型魚など魚介類のものとは明らかに違う。
下半身は確かに魚のなりをしているが、上半身は確かに、人間のそれである。
そう、《人魚》だ。
人魚は実在した。この小さな町で。
アルス「・・・・・・・・・事実は何やらより奇なり・・・・・・」
アルスはただ呆然とする。
やがて、その人魚の風体が月光により明らかとなる。
実に見麗しい、美人の人魚。
アルスは見とれる。
そんなアルスを人魚は一瞥し、5秒ほど見つめる。
・・・そして、海に戻っていった。
アルス「・・・・・・・・・とんでもなくたまげたな、これは・・・お見麗しい・・・」
暫くアルスは立ち尽くした。そして、不思議と胸がときめいていた。
〇古いアパートの廊下
そして、アルスは宿に戻り、
朝を迎えた。
アルス「・・・女将さん・・・。昨晩ね、俺、見たんだ!」
宿の若女将「・・・・・・!・・・・・・人魚でしょう?」
アルス「そうだ。・・・実在するものなんですね」
アルスと女将が人魚について話をする。
・・・・・・窓の外では、先日、雑談をしていた男衆が何やら不審なものを見るような目付きで、
アルスと女将の話現場を見やっていた。
〇海沿いの街
宿屋の外。
アルスは昨晩の人魚の事を考えていた。
アルス「・・・・・・人魚、まさか本当にいるんだな・・・・・・。にしてもかなりお見麗しい御仁(?)だった・・・」
すると、
???「よお、旅のもん」
男A「・・・」
アルス「・・・君らは昨日、人魚について雑談をしていた・・・」
男A「ああ、そうさ。・・・今しがたちょろっと聞こえたんだが、」
男A「口振りからして、ゆうべ見たんだろ?人魚を」
アルス「・・・!」
男B「マジでか!?」
男C「おほっ、こりゃあすげえ!人魚が居たってんなら、すげえ大ニュースだ!!!」
男C「金になるぞ!!!見せ物にしたら入れ食いだ!」
・・・「金になる」。
その言葉を聞いた瞬間、アルスの表情が変わった。
昨晩見た、麗しい人魚が、人間の汚い欲の餌食とされようとしているのだから。
アルス「・・・なあ、あんた」
アルス「まさかとは思うが・・・・・・、 今、「金になる」と言ったか?」
男C「・・・え?いや、だって人魚だぜ? 人魚が実在したって、そりゃ大ニュースだろ!十分見せ物にできる!」
男A「・・・まあ、概ねそういう事だ。すごい大ニュースだ!」
アルス「・・・そうか」
アルス「・・・お前たちは俗物だよ。汚い欲にまみれた、ね。話にならない」
アルスは思った。
どうせ流浪の身ならば、たまに義を貫かんとするべきである、と。
男A「・・・なんだよ?それ。 まさか・・・俺達の計画を否定するのか!? 旅のもんのくせに」
男C「居るよなぁ、こういうの。正義感ってやつ? 俺達が良かれと思って計画した事なのに、それの何が汚い欲なんだよ?」
男B「お前さ、ゆうべ見た人魚を独り占めしたいんじゃねえのか?」
アルス「違う。俺はそんな俗物とは違う」
男A「・・・言わせておけば!くそっ!!! こらしめてやるっ!!!」
男B「・・・旅のもんに少し教育が必要、ってか」
男C「教えてやるよ。俺達の計画がどれだけ理にかなった計画か!」
一触即発、か。
・・・刹那、
宿の若女将「ちょっとちょっと!!!あんたら、宿屋の前で何やってんのさ!?」
男A「げっ!?お、女将さん・・・・・・」
宿の若女将「・・・あんたら、まさかここで喧嘩ふっかけてた? ・・・ここで喧嘩は許さないよ!!!」
宿の若女将「さっさとどっか行って。さもないと宿出禁にするから!!!」
男A「・・・ったく。わかったよ。 俺達、違うところ行くからさ」
男A「・・・旅のもん。 話の続きは後だ。ひとまず仕切り直す。 ・・・お前ら、行くぞ!」
男B「ああ。行こうぜ」
男C「ったく・・・。ツイてねぇぜ・・・」
宿の若女将「・・・全く・・・」
宿の若女将「あんた、大丈夫だった? ・・・ん?どした?ずーっと驚いた顔してるけど」
アルス「あっ・・・、いや、何でもない」
宿の若女将「そう」
アルス「・・・女将さん」
アルス「すまない。ちょっと色々あって、ここで・・・」
宿の若女将「ん?ああ、今私がシメたから大丈夫よ! あんたが気にする事じゃないです!」
アルス「・・・そうか」
アルス「・・・」
アルス「・・・女将さん。人魚についてもう少し、お話、いいか?」
宿の若女将「うん?どしたの、急に? ・・・まあいいわ、ゆっくり聞いてあげる。 中に入って」
アルスと女将は、宿屋の中に入った・・・。
・・・一方、アルスと対立した男衆は町はずれに居た。
計画を否定された事から、アルスに逆恨みをしていた・・・・・・。
人魚伝説のさらなる深淵への誘い、そして男衆のアルスとの対立は、次回以降にて──。
──序章、終わり──
人魚にはいろんな伝説がありますが、どれも少し不思議というか人智を超えたものが多いので、深入りしてはいけない存在というイメージがあります。タイトルの「因果」という言葉が気になります。アルスには無事に旅を終えて欲しいものです。
情感豊かな情景描写からはじまる物語に気分が高揚します。それにしても、宿の若女将さんの立ち居振る舞いがとっても魅力的ですね!w
アルスの潔い考えが素敵です。そんな彼を宿屋の女将さんは初めから信用して見込んでいたのかもしれませんね。伝説の人魚の存在感、それに翻弄される人間達の様子、見守っていきたいです。