第1章 伝承と真相(1)(脚本)
〇海沿いの街
────人魚が棲まうとされる、とある海辺の町。
そこに、ある旅の男が滞在している。
──男の名はアルス。
彼は固定観念から、人魚が実在するなどとは思わなかった。
──・・・あの夜までは。
〇沖合
──あの夜に見た、見麗しい美女。
その女性の下半身は不思議な事に、人ではなく魚の尾ひれの形をしていた。
そうーーーーー、
人魚である。
〇黒背景
第1章 伝承と真相
第1話
〇古いアパートの廊下
その、海辺の町の宿屋。
アルスはその宿屋の若女将と、人魚の話で盛り上がっていた。
宿の若女将「・・・・・・まず。人魚とは。・・・我々人間のありとあらゆる力のみでは到底生み出し得ない、不思議な存在」
アルス「・・・」
宿の若女将「通常、私たち人間って、人間としてのDNA・・・骨組みが予め決められてて、」
宿の若女将「その骨組みに従った形でこの世に生まれてきてさ、・・・そして今の私たちのように存在してる・・・」
宿の若女将「ってのは、私流の人間の観念なのよね」
アルス「DNA・・・」
宿の若女将「・・・しかしね。人魚ってさ、謂わば人間とお魚さんのキメラじゃん?」
アルス「キメラ・・・・・・」
宿の若女将「だって、人間とお魚さんがうまいこと融合してるようなものだからね、人魚って」
宿の若女将「・・・つまり、私たち人間を形作る骨組み通りにはいかない存在なのよ。・・・と、私は考えるの」
宿の若女将「私たち人間は、さっき言ったように、通常の人間の骨組みしか作り出せないの」
宿の若女将「そしてその通常の人間のDNA構築・・・・・・骨組み通りには絶対にいかない存在、すなわちそれが人魚」
宿の若女将「であるからして、私たちのありとあらゆる力のみでは到底生み出し得ない存在ーーーーー、って事。これが私の人魚に対する観念よ」
アルス「・・・・・・・・・」
宿の若女将「・・・ごめんね。ちょっとややこし過ぎたかしら・・・?」
アルス「いや、大丈夫」
アルス「・・・・・・しかし、話を聞くに、ますます不思議な存在だ、人魚って」
アルスはますます考えに耽るような表情をした。
宿の若女将「そうよね。どうしたら人魚なんて生み出せるのやら・・・ね・・・」
宿の若女将「しかも、この町ではその人魚が実在する!という伝承まであるし・・・」
宿の若女将「・・・しかもあなた、昨晩見たのよね?人魚」
アルス「・・・うん。暗くてよく見えなかったけど・・・あれは確かに人魚だ」
宿の若女将「ああ、そっか・・・目撃は夜だったもんね。・・・もしかしたら見間違い、とかでない?」
アルス「・・・いや、見間違いにしては出来すぎてると思う。あの輪郭に、月明かりに照らされた姿は印象に残ってるから」
アルスは真剣な面持ちで人魚の目撃証言をする。
宿の若女将「・・・・・・●ッシー、とかでもなさそう、ね。確かに見たっぽいね」
アルス「●ッシーはいちおう恐竜(?)です、女将さん」
宿の若女将「あ、そか!あっはは」
若女将は照れ笑いをする。
アルス「ともあれ、俺は確かに人魚を見た、それは間違いないです」
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