吾輩は猫、使命は剣を守ることである。

氷室緑

1.現在、昼下がり、はじまり(脚本)

吾輩は猫、使命は剣を守ることである。

氷室緑

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〇ボロい山小屋
  ゆるやかな昼下がり。太陽の光が差し入って明るい小さな小屋の中で、真っ白な毛並みの猫と向かい合う。
  ──”僕”が住むこの街には、ひとつの伝承がある。
  「猫の話に耳を傾けてはいけない」と。
  けれど”僕”は猫が大好きで。
  周りに住む住民たちの目を盗み、猫のためのご飯を持って、猫が住む家に足を運ぶ日々だった。
猫「──気がついたときには、猫はもうここにいました」
猫「ええ、本当に。気がついたときには、もう」
猫「悲しくなかったかって?・・・いえ、特には」
猫「どうして悲しむ必要があったでしょうか。 この家はあたたかくて、涼しくて、雨風もちゃんとしのげるのに」
猫「あなたみたいな親切な人が、ごはんも持ってきてくれますしね。今日のお魚も、とってもおいしかったです、ありがとう」
猫「思えば、あなたがここに来てくれるようになってから、もうずいぶんと経ちますね。猫のためのご飯代も随分かさんでいるのでは?」
猫「お礼、とは少しばかり陳腐な表現ですが、ひとつだけ昔話をして差し上げましょうか」
猫「なぁに、そんなに長くはなりませんよ。所詮は猫の短い命の中に起こったことですから」
猫「──猫には昔、ひとつの使命がありました。たったひとつ、小さなちいさな使命です」
猫「ああ、ぜひお茶でも飲みながら、のんびり聞いてくださいな。そんなにかしこまってもらうような内容じゃありませんから」
猫「まあ、自分で用意してもらうことになりますけれど。猫には無理なので、ね?」
猫「さて、お茶とお菓子がそれぞれ用意できたところで、話しはじめるとしましょうか」
猫「──昔むかし、あるところに、一匹の小さな白猫がいました。 こんな語り出しなんて、いかがです?」
猫「ありきたりすぎて嫌だって?そんなこと言っちゃって。昔ばなしの語り出しは、立派な世界の文化ですよ?」
猫「・・・まあ、いいでしょう。 とにかくまあ、今からお話するのは、およそ15年ほど前のことになるでしょうか」
猫「それなりに昔でしょう?だから、昔むかしっていう表現もそんなにまちがっていないと思ったんですけどね」
猫「まあ、とにかく。15年ほど前にはもう、猫はこの世界に産まれていました。そして、」
猫「──物心がついた頃には、もうこの家に住んでいました。 一本の『剣』と一緒に」
  用意したお茶をひとくち飲む。
  猫の真っ直ぐな眼差しに鋭く刺されて、どうしてだろうか、ひどく心を揺さぶられる感覚がした。
  「猫の話に、耳を傾けてはいけない」
  そんな伝承を思い出しながら、けれど。
  ──まるで催眠術にでもかかったかのように、”僕”は猫の話に引き込まれて行った。

次のエピソード:2.過去、昼から夕、出会い

コメント

  • 猫の語る昔ばなしの内容はまだ全く想像できませんが、まるでお年寄りの語り部のような口調の猫ちゃんの言葉に、とても引き寄せられています。猫は最良の動物と信じている私なので、続きがとても楽しみです。

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