エピソード3(脚本)
〇川沿いの原っぱ
仁科孝信「・・・・・・」
円城寺敏郎「あ、仁科監督。お疲れ様でーす」
仁科孝信「あ、ああ・・・」
円城寺敏郎「お隣失礼しまーす」
仁科孝信「・・・・・・」
円城寺敏郎「いやー、いい天気っすね」
仁科孝信「ああ、まあ。・・・君は?」
円城寺敏郎「あ、自分、篠宮プロダクション所属の、 円城寺敏郎って言います」
仁科孝信「ああ、篠宮さんの所の・・・」
円城寺敏郎「違う。絶対にそうではない!」
仁科孝信「?」
円城寺敏郎「例え学校でそう教わろうと、俺にとっては1+1は2なんかじゃねぇんだ!」
円城寺敏郎「俺とお前が力を合わせれば、10にも20にもなる!」
仁科孝信「・・・・・・」
円城寺敏郎「仁科監督の『ああ、五右衛門』での、篠宮裕次郎さんの台詞っす。自分50回は観ました」
円城寺敏郎「ぶっちゃけ、監督の作品、全部見てます。 大ファンっす」
仁科孝信「・・・近い」
円城寺敏郎「監督が初めてドラマ撮るって聞いて、めっちゃテンション上がりました」
円城寺敏郎「まじで今日、仁科組の撮影に参加できて光栄っす」
仁科孝信「・・・あっちに行け」
円城寺敏郎「今はただのエキストラっすけど、いつか監督の作品で主演張れるようになりますんで」
円城寺敏郎「あ、そういえば、自分5歳の時に実は・・・」
仁科孝信「いい加減にしてくれ!」
円城寺敏郎「え・・・」
〇川に架かる橋の下
円城寺敏郎「っつ」
丸山祐子「何度行ったらわかるの! スタッフや出演者に勝手に声をかけちゃダメ」
円城寺敏郎「違いますよ。 立ちションしようとしたら、たまたま隣に監督がいただけっすよ」
丸山祐子「言い訳はいいの」
円城寺敏郎「そもそも喋っちゃダメってなんなんすか。 作品を一緒に作る仲間のはずなのに、意味わかんないっすよ」
丸山祐子「撮影は分単位でスケジュール組んでるの。 邪魔になるでしょ」
円城寺敏郎「邪魔? 邪魔ってなんすか。 俺は少しでも作品を良くしたいと」
丸山祐子「それはあなたが役をもらってから言いなさい」
丸山祐子「この作品は、美和のバーターで、あなたたちも参加させてもらってるのよ」
円城寺敏郎「うんざりっすよ」
丸山祐子「え?」
円城寺敏郎「もうエキストラなんて、うんざりっすよ!」
丸山祐子「あなたねえ。 仕事をもらえるだけありがたいと思わないとダメでしょ」
円城寺敏郎「俺は役者になりたいんです」
丸山祐子「知ってるわよ。 あなたの面接したの私なんだから」
丸山祐子「だからこうして、少しでも演技の役に立つような仕事を——」
円城寺敏郎「こんなの何回やっても、何の経験にもならないっすよ!」
丸山祐子「いい加減にしなさい! 文句ばっかり言ってないで、役を貰えるようにスキルを磨けばいいでしょ」
円城寺敏郎「俺なりに頑張ってますよ!」
円城寺敏郎「演技レッスンだって通ってるし、やりたくもないダンスだって習ってます」
丸山祐子「その結果がこれってことは、努力が足りてないってことじゃないの?」
円城寺敏郎「・・・・・・」
丸山祐子「わかったらさっさと現場に戻って」
円城寺敏郎「本当ですね?」
丸山祐子「?」
円城寺敏郎「もっとスキルを磨けば、いい役がもらえるんすよね?」
丸山祐子「そうよ」
円城寺敏郎「わかりました」
丸山祐子「・・・・・・」
〇川沿いの道
「カーット!!」
仁科孝信「君、振り返らなくていいから」
円城寺敏郎「あ、すんませーん」
佐伯謙介「チッ・・・。なんだ、あいつ?」