第二十三話『瀬田彩人Ⅳ』(脚本)
〇おしゃれなリビングダイニング
校長の時などもそうだったが。どうやら、死んだ人間を鏡で見ることはできないらしい。
彩人が腹をぱんぱんに膨らませ、白目を剥いて倒れたところで――冴子が見ていた鏡の映像は、ぷっつりと途切れたのだった。
そして、いつもの脱力感が襲ってくる。椅子に崩れ落ちそうになりながら、冴子は深く息を吐いた。
奥田冴子(やっぱり、体にはよくないんでしょうね、これ)
本音はあの場で彩名も始末したかったが、仕方ない。彼女は明日にでも回すことにしよう。
しかし、兄の挙動がおかしくなった時、彼女はパニックになって兄の体を掴んで止めることしかできなかった。
思えば芽宇も、海砂が死にかけている時似たような行動しかできなかたとうに感じる。
すぐに人を呼べば助かった可能性もあったかもしれないのに、人間は案外そういう冷静な判断はできないものらしい。
自分にとっては好都合だ。今のところ冴子が“念力”を発動すれば、そうそう誰かに邪魔されることはないとわかっているが。
複数人に妨害されても達成できるかどうか、に関してまでは検証できていない。
奥田冴子(瀬田彩名の母親も殺してやりたいところだけど。・・・・・・娘を殺せば充分かもしれないわね)
パタン、と鏡を閉じて冴子は思う。
奥田冴子(いじめを隠蔽しようとするほど、娘を可愛がってるんですもの)
奥田冴子(それに、いくら破門に近い状況だったとしても・・・・・・お腹を痛めた息子のことだって、なんとも思ってないわけじゃないはずよ)
奥田冴子(息子と娘に立て続けに死なれたら、それ以上の罰はないわ)
ならば、あと標的は二人。
瀬田彩名と、村井芽宇。こいつらを殺せば、自分の復讐は終わりになる。
そうすれば自分も――笑って、あの世に行く選択だってできるはずだ。例え、行く先が地獄であったとしても。
奥田冴子(疲れてるけど、あと少し。あと少し頑張るのよ、私)
そう言い聞かせた時。ぴんぽん、と耳慣れたチャイムの音が鳴り響いたのだった。
〇モヤモヤ
第二十三話
『瀬田彩人Ⅳ』
〇シックな玄関
奥田冴子「こんにちは、晴翔君。・・・・・・あら?」
訪れたのは、いつもの北園晴翔だった。彼は暗い顔で、一人で佇んでいる。
奥田冴子「珍しい。今日は、珠理奈ちゃんと一緒じゃないのね?」
北園晴翔「・・・・・・うん。珠理ちゃんは今日、塾があるから。その・・・・・・」
奥田冴子「ん?」
北園晴翔「おばさんに、どうしても話したいことがあって。僕は、おばさんにも奏音君にも謝らないといけないから」
明らかに、思い詰めたような顔の晴翔。彼は暫く沈黙した後、ごめんなさい!と勢いよく頭を下げてきたのだった。
北園晴翔「ごめんなさい・・・・・・!奏音君のいじめが酷くなったの、僕のせいなんだ・・・・・・!」
奥田冴子「え?」
北園晴翔「僕が・・・・・・僕を庇ったから、奏音君酷いことになったんだ」
晴翔は、話してくれた。一番最初に苛められたのは、確かに奏音ではあった。
小河原海砂と村井芽宇の二人がこぞって奏音の悪口を言ったり、物を隠したりとちょっとした嫌がらせを始めたのだという。
それだけでも充分気分が悪かったが。ある日、晴翔は知ってしまうことになる。
奏音と仲が良いということで、自分も標的にされかかっていたことを。
奏音がそれを防ぐために、無茶な要求を飲み続けていたことを。
北園晴翔「奏音君、校舎裏の井戸で・・・・・・首吊りごっこっていう危険な遊びをさせられたことがあって」
北園晴翔「その原因は・・・・・・奏音君が言う通りにしなかったからだって言われてて。奏音君、僕と一緒に万引きするように言われてたんだ」
奥田冴子「ま、万引きって・・・・・・」
北園晴翔「でも奏音君は僕を庇って、僕には声をかけなかった。一人で文房具店に行って、万引きする振りしてこっそりお金を置いてきたんだ」
北園晴翔「でも、それを小河原さんたちに見つかって、それで・・・・・・」
奥田冴子「奏音が・・・・・・」
北園晴翔「それだけじゃない。奏音君、僕達以外のクラスメートにも言ってたんだ。自分を助けるなって」
北園晴翔「巻き込まれて、みんなが辛い思いするのが嫌だからって」
北園晴翔「でも・・・・・・だからって、僕達が何かしてれば。奏音君を助けることができたかもしれないのに・・・・・・!」
だから、本当にごめんなさい。
ぽろぽろと涙を零す少年に、冴子は何も言えなくなる。
- このエピソードを読むには
会員登録/ログインが必要です! - 会員登録する(無料)
話中のインターホン、本当にビックリしてしまいましたw 冴子さんの心情に入り込みすぎていたからでしょうか……
そして晴翔くんの懺悔と冴子さんの吐露。2人とも限界寸前の精神状態だったのでしょうね。晴翔くんの精いっぱいの勇気を見ると涙が浮かんできます。。。