とある青年の世界見聞録

霧ヶ原 悠

運命の席は夢の中を転がる−ケース3.スライムの場合(脚本)

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〇レストランの個室
  白い皮手袋をはめた無貌の店員が一礼する。
店員「いらっしゃいませ。当店にご来店いただき、誠にありがとうございます。人間の男性一名様ご案内です」
  無貌の店員、濃紺のカードを渡す。
店員「すぐの相席となります。只今お席をご用意させていただきますので、こちらの伝票を持って少々お待ちください」
  店の中央に配された席へ案内される。
  隣り合う席との間には仕切りがある。
店員「失礼します。こちらのお席へどうぞ」
スライム「ん? おおっ、やっとか! あまりにも遅いから今日はもう帰ろうかと思ったわ!」
店員「お待たせして申し訳ございませんでした。それではただ今から相席開始となります」
スライム「よろしくのう、坊主!」
スライム「なんじゃ、わしのようなスライムの一族を見るのは初めてか? べつに獲って食いやせんぞ」
スライム「ああ、そう謝るな。初見では怯えて当然さな。悲鳴を上げんかっただけでも上々だろうて」
スライム「ま、どうしてもと言うなら席替えしてもかまわんぞ。怯えた顔を見て酒を飲む趣味はないのでな」
スライム「はっは! 肝の座った奴は嫌いじゃあないぞ。いやしかし、人間族と会うのはずいぶん久しぶりじゃ」
スライム「住んでるのはどこだ?  アルディオスか、シャンシャリアンか? それとも、テラ・ローガかの?」
スライム「ん? どっちも聞き覚えがない?  ふーむ? そいじゃあ、坊主はどこの出だ?」
スライム「メトロポリス。春陽と野花の町・・・」
スライム「ああ、あそこか! これはまた珍しい者と会ったわ!」
スライム「うむ、知っとるぞ。むっかーし昔に友人と旅行で見に行ったでな。そうか、そうか」
スライム「わしは住みたいとは思わなかったが、いいところではあったと思うぞ、うん。 色々と繊細な人間族には住みやすかろうて」
スライム「今のは世界の名前かって? また妙な聞き方をするのぉ。普通に都市の名前だったような気がするが」
スライム「ま、細かいことは気にするな! せっかく珍品中の珍品と会うたんじゃし、いろいろ聞かせてくれ!」
店員「失礼します。只今順番に席替えの案内をさせていただいておりますが、いかがでしょうか」
スライム「ああ、わしらは十分楽しんでおるから、今のままでかまわんぞ」
店員「かしこまりました。それでは引き続き、相席をお楽しみください」
スライム「いやー、しゃべったしゃべった。今日はなかなか楽しかったぞ! それじゃあ達者でな、坊主!」
  無貌の店員が無機質な声で尋ねる。
店員「本日のご相席はいかがでしたでしょうか」
店員「楽しんでいただけたようでよかったです」
店員「またのご来店をお待ちしております」

〇黒背景
  無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる。
店員「おはようございます。どうかよい夢を」

次のエピソード:花と霞の里

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