第1話 出逢い(脚本)
〇黒
〇大学病院
〇病院の待合室
宇野 彰(うのあきら)(遥輝兄さん)
宇野 彰(うのあきら)(・・・・・・)
〇黒
遥輝兄さん、ごめん。
こんなことするつもりは、
なかったんだ。
でもね、
遥輝兄さんも悪いんだよ?
だって、
斗真兄さんのことばっかり見てるから、
俺のことも見てくれれば
・・・・・・。
俺は、
遥輝兄さんを愛していただけ。
一番近くに、いたかっただけ・・・
それなのに、
・・・・・・。
お願い、
目を覚まして。
もう一度、
声を、聞かせて。
・・・・・・。
遥輝兄さん、
愛してる。
今日は、2025年12月20日。
遥輝兄さんと出逢って、
ちょうど15年。
〇雪山の森の中
──紅く染まったその雪の先には、──
〇黒
〇葬儀場
2010年
羽田遥輝(はねだはるき)「お父さん、お母さん・・・・・・」
僕、羽田 遥輝の
お父さんとお母さんが、
交通事故で死んだ。
最初は、夢でも見てるのかなって思ったけれど、
周りを見ていると、夢ではなかった。
親戚A「うちは自分の子達で精一杯だから無理よ」
親戚A「あの子、引き取れないわ」
親戚B「わしも年寄りだし、あの子を育てるのは無理だねぇ」
親戚A「誰があの子を育てるのかしら」
親戚B「ほんとに。まだ12歳なのに、かわいそうに」
親戚A「そうね、幸せそうな家族だったのに」
羽田遥輝(はねだはるき)(・・・・・・)
〇黒
羽田遥輝(はねだはるき)(僕は、ひとりぼっちだ)
羽田遥輝(はねだはるき)(大好きな、お父さん、お母さん)
羽田遥輝(はねだはるき)(帰ってきて・・・)
半年ぐらい、
僕は、あちこち親戚の家を移動しながら生きていた。
親戚C「かわいそうね」
先生「先生が助けてやるからな」
なんて、周りは言うくせに
それは上辺だけの言葉で、
本当はそんなこと、ちっとも思っていなくて、
僕のことを真剣に考えてくれる人は、
誰もいなかった。
腫れ物を触るように、
深く関わりたくないのがみえみえで、
僕の心は、
寂しくて、毎日泣きたくて、
息苦しすぎて。
僕も、お父さんとお母さんの場所に
行きたかった。
そんな中、
施設に行く話も出ていた時、
僕のことを引き取りたいと、
ある家族が名乗りをあげた。
〇アパートのダイニング
僕の新しい家族。
宇野葉子「よろしくね!」
お母さんになる人は、
化粧品会社で販売員をしている
オシャレで明るくて、自由そうな人。
「よろしくな!」
お父さんになる人は、
銀行で働いている、
無口で、真面目そうな人だった。
宇野斗真(うのとうま)「なんか、困ったことあれば言ってね!」
お兄さんになる人は、斗真くん。
僕の4歳上で、
親切そう。
宇野彰(うのあきら)「・・・・・・」
2歳年下の、弟になる彰くんは、
じっと僕のことを見て、
何を考えているのか、よく分からなかった。
宇野遥輝(うのはるき)(今日から僕は)
宇野遥輝(うのはるき)(ここの家族になるんだ)
宇野遥輝(うのはるき)(宇野・・・うのはるきか・・・・・・)
不安だった。
とにかく不安だった。
もしも、この家族に嫌われたら
追い出されてしまう
居場所がなくなってしまう。
宇野遥輝(うのはるき)(嫌われないように、しないと・・・・・・)
嫌われないようにするために
勉強も頑張ったし、
お父さんとお母さんには言えていたワガママも
言わないようにした。
〇桜の見える丘
そんな不安も、
雪と共に、解けて
宇野斗真(うのとうま)「遥輝、ご飯食べに行くよ!」
宇野斗真(うのとうま)「おいで!」
宇野遥輝(うのはるき)「うん!」
想像以上の幸せが、
目の前で、
春の陽気と共に、
広がっていった。
〇黒
やがて、時は過ぎ
〇桜並木
〇海辺
〇銀杏並木道
〇雪に覆われた田舎駅
〇黒
僕は、17歳になった。
この頃から、
いや、もっと前から、
ほつれ始めていたのだろうか。
『家族』という集合体が、
崩れてゆく。
宇野 遥輝(うのはるき)(僕は、)
宇野 遥輝(うのはるき)(幸せになれない運命なんだろうか)
宇野 遥輝(うのはるき)(・・・・・・)
遥輝くんの抱える心情が、細やかなワードチョイスや演出から痛いほど伝わってきました。バッドエンドを想起させるオープニングで心が辛くなるのと同時に、そこに至るまでの物語がとても気になります。
言葉や描写がとても美しいのが印象的です。内容もとても繊細で複雑そうで、引き込まれていくものがあります。これからどうなるのか、怖さもありますがとても興味深いです。
私も幼い時に父親が亡くなり、母が一時期入院したことで親戚の家を行き来しました。主人公がどんなに張り裂けるような気持ちだったか共感できるとともに、少しあの頃の嫌悪感を思い出しました。どうか、苦境を上手く乗り越えてほしいです。