ブリキの動物園

澤井 軽野

エピソード1(脚本)

ブリキの動物園

澤井 軽野

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〇シックな玄関
  出て来い!開けろ!
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ダメだ、完全に囲まれてる」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「もうドアが持たない!」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「早く何か押さえる物持ってきて!」
片瀬 舞(かたせ まい)「そ、そんな事言っても──」
  開けろ!ぶっ殺すぞ!
片瀬 英司(かたせ えいじ)「クソっ、もうダメだ!」
片瀬 舞(かたせ まい)「あぁ、何でこんな事に──」
  一体、私はどうすればよかったのだろう

  この人ともっと話し合えばよかったのか
  あのヒトにもっとへつらえばよかったのか
  あの方をもっと頼ればよかったのか
  この町の住民にもっと媚びればよかったのか
  だが、私が最後に思い浮かべたのは──
  あの彼の事だった

〇屋根の上
  全ては私達がこの町に引っ越してきたあの日から始まった
  この『夢見が丘ニュータウン』に──

〇一戸建て
片瀬 英司(かたせ えいじ)「さあ、着いたぞ」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ここが僕達の新居だ」
片瀬 舞(かたせ まい)「わぁ、素敵!」
片瀬 舞(かたせ まい)「立派なお家じゃない!」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ああ、少し古いけどね」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「僕達二人で住むには十分すぎるよ」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「さあ、荷ほどき頑張らないと今夜寝る場所ないぞ!」

〇屋根の上
  『夢見が丘ニュータウン』
  40年前、山を切り拓いて造成されたこの町は
  町全体が斜面に沿って建てられていて

〇名門の学校
  頂上には大学が控え

〇動物園の入口
  麓には動物園を見下ろす立地で

〇屋根の上
  かつては希望に満ちた町として、人々の憧れの的だった
  だが、他の多くのニュータウン同様
  この町も人口減少の煽りを受け、深刻な過疎化が進んでいた
  それこそかつての繁栄が
  まるで人々の見た泡沫の夢だったかのように──

〇寂れた一室
片瀬 英司(かたせ えいじ)「フゥ、疲れた」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「おっと、もうこんな時間か」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「舞、ご近所に挨拶回り行ってきて」
片瀬 舞(かたせ まい)「う、うん」

〇一戸建て
片瀬 舞(かたせ まい)(大丈夫、大丈夫──)
片瀬 舞(かたせ まい)(もう18年も経っているし)
片瀬 舞(かたせ まい)(あの事件の事を覚えてる人も、もう少ないはず)
片瀬 舞(かたせ まい)(これからは、英司と幸せな人生を送るんだ)
片瀬 舞(かたせ まい)「さ、まずはお隣からご挨拶よ!」

〇一戸建ての庭先
片瀬 舞(かたせ まい)「お留守かな?」
片瀬 舞(かたせ まい)「中で物音がした気がするけど──」
片瀬 舞(かたせ まい)「仕方ない、先に他のお家を回って来よう」
「──」

〇住宅街
片瀬 舞(かたせ まい)「何これ──」
片瀬 舞(かたせ まい)「一見あまり変わってないけど」
片瀬 舞(かたせ まい)「ほとんどの家が空き家じゃない」
片瀬 舞(かたせ まい)「人が減ってるのは知ってたけど、ここまでなんて──」
片瀬 舞(かたせ まい)「あ、ここは人が住んでるみたい!」
片瀬 舞(かたせ まい)「ここもお留守──」
片瀬 舞(かたせ まい)「仕方ないわ、ご挨拶の手土産は郵便受けに入れておこう」
「──」

〇シックな玄関
片瀬 舞(かたせ まい)「ただい──」
片瀬 舞(かたせ まい)「きゃっ!?」
泉 洋子(いずみ ようこ)「やだぁ~もぉ~」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「あ、おかえり舞」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「こちら、お隣の泉さん」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「わざわざ挨拶に来てくださったんだよ」
泉 洋子(いずみ ようこ)「あらぁ~奥様、可愛らしい方ね!」
泉 洋子(いずみ ようこ)「片付けでお忙しいかと思ったんですけど、早い方がいいかと思ってぇ~」
片瀬 舞(かたせ まい)「わ、わざわざありがとうございます」
片瀬 舞(かたせ まい)「さっきお宅にご挨拶に伺ったんですけど──」
泉 洋子(いずみ ようこ)「あら、そうなの?全然気付かなかったわ~」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ご挨拶回りは済んだ?」
片瀬 舞(かたせ まい)「それが、皆さんお留守みたいだからお土産だけ郵便受けに入れてきたの」
泉 洋子(いずみ ようこ)「私はこれで失礼するわね」
泉 洋子(いずみ ようこ)「またね~」
片瀬 舞(かたせ まい)「は、はい、これからよろしくお願いします」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「泉さん、ご両親と三人暮らしだって」
片瀬 舞(かたせ まい)(すごい香水の匂い──)

〇寂れた一室
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ようやく半分か」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「続きはまた明日だな」
片瀬 舞(かたせ まい)「ええ、お疲れ様」
片瀬 舞(かたせ まい)「明後日からお仕事なんだから」
片瀬 舞(かたせ まい)「すぐ坂の上の大学が職場といっても、疲れを溜めないようにしないとね」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ああ」
片瀬 舞(かたせ まい)「でも、本当によかったの?」
片瀬 舞(かたせ まい)「私が仕事を辞めなければもっと貯えも──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「その話はもう済んだだろ!」
片瀬 舞(かたせ まい)「ご、ごめんなさい!私はただ──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「ようやく僕も実績が認められて研究室に招かれたんだ」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「君にはパートか何かしてもらう。それで十分だ」
片瀬 舞(かたせ まい)「そ、そうね、ごめんなさい──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「いいんだ、解ってくれれば」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「さ、今日はもう寝よう」

〇部屋のベッド
片瀬 舞(かたせ まい)(英司、やっぱりまだ気にしてたんだ──)
片瀬 舞(かたせ まい)(知り合って5年、一昨年に結婚して)
片瀬 舞(かたせ まい)(何事にも自信を持てない私をいつも優しく支えてくれたけど)
片瀬 舞(かたせ まい)(一年前、私が昇進して英司の年収を超えてから)
片瀬 舞(かたせ まい)(いつもイライラして私にも厳しく当たるようになってしまった)
片瀬 舞(かたせ まい)(でも、こうして英司も栄転して私が仕事を辞めて)
片瀬 舞(かたせ まい)(また元の優しい英司に戻ってくれた)
片瀬 舞(かたせ まい)(時々、英司の事がわからなくなる)
片瀬 舞(かたせ まい)(この家を買うのだって、この町に半年も通って一人で決めてきちゃうし)
片瀬 舞(かたせ まい)(でも仕方ない)
片瀬 舞(かたせ まい)(私も英司に隠してる事があるんだから──)

〇シックな玄関
片瀬 英司(かたせ えいじ)「もう起きてたのか」
片瀬 舞(かたせ まい)「うん、ゴミ出してくるね」

〇住宅街
片瀬 舞(かたせ まい)「よし、っと」
町の人「ちょっとあなた!」
片瀬 舞(かたせ まい)「は、はい」
町の人「どこの人?勝手にゴミを捨てないで!」
片瀬 舞(かたせ まい)「あ、あの、昨日すぐそこの家に引っ越して来た片瀬です」
片瀬 舞(かたせ まい)「どうぞよろしくお願いします」
町の人「ダメだ、持って帰れ」
片瀬 舞(かたせ まい)「で、でも家もこのごみ捨て場の範囲で──」
町の人「ここは住民皆で金を出して作った集積所だ」
町の人「それまでは皆、苦労して遠くの集積所まで捨てに行ってたんだ」
町の人「金を出してない者が勝手に使うな!」
片瀬 舞(かたせ まい)「そ、そんな──」

〇シックな玄関
片瀬 英司(かたせ えいじ)「それで持って帰ってきたの?」
片瀬 舞(かたせ まい)「どうしよう」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「越してきたばかりで揉めたくないし」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「役場に相談してみよう」
町役場職員「あぁ、ゴミ収集の方法は住民の方同士で話し合って頂く事になってます」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「い、いや、でも──」
町役場職員「とにかくそういう決まりなんで」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「クソっ、切れた」
片瀬 舞(かたせ まい)「私達もお金を払って使わせてもらったら──」
片瀬 英司(かたせ えいじ)「そうだな、それで交渉してみてくれ」

〇住宅街
町の人「ダメだ!建設費用の割り当てはもう済んでるんだ」
町の人「今からあんたらが出したら、金額が合わなくておかしな事になっちまうだろうが」
片瀬 舞(かたせ まい)「で、ではどうしたら──」
町の人「知らんよ!とにかく使わないでくれ」

〇一戸建て
片瀬 舞(かたせ まい)「どうしよう、捨てられない──」
片瀬 舞(かたせ まい)「あっ!」
  いつの間にか家のドアの前に
  昨日配った挨拶の手土産が全員分、乱雑に捨てられていた
片瀬 舞(かたせ まい)「ひ、ひどい」
片瀬 舞(かたせ まい)「ゴミ袋を抱えてずっとウロウロして」
片瀬 舞(かたせ まい)「どうすればいいの──」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「あ、あのっ」
片瀬 舞(かたせ まい)「え?」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「そのゴミ、渡してください」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「うちのと一緒に出しときますから」
片瀬 舞(かたせ まい)「そ、そんな事したらあなたが──」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「見てたけど、こんなの理不尽ですよ」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「大丈夫!僕の父、町内会長なんで」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「万が一バレても許してもらえますよ」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「さ、その袋ください」
片瀬 舞(かたせ まい)「あ、ありがとうございます──」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「これからゴミの日は受け取りに来るから、こっそり渡してください」
大沢 憲一(おおさわ けんいち)「それじゃ!」

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コメント

  • おぉぉ…ホラーにも通じる不気味さ、不穏さ…
    閉鎖空間×正体不明の悪意…過疎…同調圧力…
    ホラーのオープニングですか?大好きです♥️
    続きもコツリ、コツリ、と読んでいきますね…
    最後に…カタセマイさんのネーミング…最高です…♥️

  • 過疎化したニュータウン…
    リアリティありすぎますね😂
    だいたい夢のある名前つけて数十年経って衰退していくんですよね😂
    旦那さんは、不倫相手の近くに引っ越したかったというのもあるのでしょうか…

  • あー、こうやると力みもなく、自然に伝わるんだと、勉強になります。先もすごく気になります。感謝。

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