エピソード1(脚本)
〇病院の廊下
余命宣告を受けた父から呼び出され、私は父の病室を訪れた。
〇綺麗な病室
私「父さん、入るよ」
父「おう、きたか。まあ、そこ座れ」
私「体調はどう?」
父「うん、まあ。なんとかな・・・・・・」
端切れの悪い話し方だ、昔から無口な人ではあったが、今日はいつもと様子が違う。
父「母さんが死んだ日の事を、お前覚えているか?」
私「・・・・・・母さん」
〇一軒家
母が死んだのは、もう何年も前の事になる。
あの日、学校から帰った私は、冷えたお茶を飲み、そのまま自分の部屋へと向かった。
しばらくしてから、急な眠たさを感じ、少しだけのつもりで横になり、
目覚めた時には、すでに家中が煙に包まれていた。
煙により逃げ出せずにいた私を、助けてくれたのは父だった。
〇綺麗な病室
父「あの日、母さんを殺したのは俺なんだ・・・・・・」
私「父さん・・・・・・、いったい何をいっているんだ?」
私「あの火事は、事故だったと言ってたじゃないか、警察だって!」
父「違うんだ!!」
私の言葉を遮るように、父は大きな声をだした。
父「あの日、本当はお前より先に家に帰っていたんだ」
父「そして、母さんとまた言い争いになってな」
父「俺は気持ちが抑えきれなくなり、つい母さんを殴ってしまったんだ」
父「母さんは倒れて、そのまま泣いていたよ」
父「俺は、そのまま家を飛び出したんだ」
私「そんな・・・・・・」
〇一軒家
たしかに、父と母はよく言い争いをしていた。
父「また、おまえがしていなかったんだろ」
母「なによ、わたしだって忙しいのよ」
父と母の言い争いは、毎日のように繰り返され
父「おまえがそんなだから、ダメになるんだろが!!」
母「わたしのせいだというの!?」
それは、日が経つ程に激しくなっていた。
私「もう少し・・・・・・かな」
〇綺麗な病室
私「でも、それだけじゃ、父さんが母さんを殺した事にはならないだろ?」
父は静かに私の顔を見て、言葉をつづけた。
父「お前、あの日なんで寝てたんだ」
私「・・・・・・え?」
戸惑う私を無視するかのように、父は言葉をつづけた。
父「あの頃の母さんはな、ずっと病院に通っていたんだ」
父「そして、眠れない時には、病院でもらった薬をのんでた」
私「そんな、でも警察は何も・・・・・・」
父「ああ、警察は何も言ってこなかった」
父「だがな、俺はずっと考えていたんだ」
父「母さんは、あの日お前と一緒に死のうとしたんじゃないかって」
父「あの火事も、母さんの仕業だったんじゃないかって」
私「そんな・・・・・・」
父「俺が我慢していれば母さんは死ななかった」
父「そうずっと、後悔していたんだ・・・・・・」
すべてを話し終えた父は、うつむき静に涙を流していた。
気が付けば外はもう暗くなっている。
私「父さんは、母さんの事をずっと思っていたの?」
私の問いかけに、父は微動だにしなかった。だが、それこそが父の答えだと、私には伝わってきた。
私「父さん、話してくれてありがとう」
そう言って、私は父の体にそっと腕を廻した。
その夜、父は息を引き取った。
父の体に廻した腕に、しっかりと力を込めた私は、父の最後の温もりを体で感じていた。
〇公園のベンチ
私(父さんはずっと母さんの事を思っていた・・・・・・)
〇一軒家
私「ねえねえ、母さん。父さんがね・・・・・・」
母「なんですって!?」
私「ねえねえ、父さん。母さんがね」
父「なんだと!?」
〇公園のベンチ
私(父さんを、手に入れるためだけに、たくさん頑張ったのに)
私(薬だって!!)
〇一軒家
私(父さんは明日にならないと帰らない、)
私(盗むならいまだ)
〇公園のベンチ
私(母さんが、私にも薬を飲ませたように見せる計画だったのに)
〇一軒家
私「ただいま~」
母「おかえりなさい」
私「もう、ノドが渇いたよ~」
母「冷えたお茶があるわよ」
私「はーい。母さんもお茶飲む?」
母「そうね、お願いしようかな」
私(これに・・・・・・)
私「母さん。はい、どうぞ!」
母「ありがとう」
私(・・・・・・)
〇公園のベンチ
私(想定外の火事で、父さんを私だけのものにできたと思っていた)
私「なのに・・・・・・」
私「なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、なのに、」
私「父さんは、ずっと母さんの事を思っていただなんて!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
〇公園のベンチ
私「でも、いいや」
私「最後に、父さんの温もりを私のものにできた!」
私「母さんはしらない、父さんの最後の温もりを」
私「最後まで、この思いを打ち明けられなかったけど」
私「父さんは、気が付いていたかな?」
私は、父さんにしたように、そっと自分を抱きしめた
私「こうすると、いつでも父さんの事を思い出せるよ」
私「いつか、わたしも・・・・・・」
私「自分の死を目前にした時、この思いを誰かに話す日がくるのだろうか」
まさかのオチにびっくりしました!
彼がそんな思いを抱えていたとは、まったく想像もできなくて。
お父さんはそれを知らずに亡くなってしまったわけですが、知らなくてよかったかもです。
まさかの結末でした!子供がそんなことを計画していたなんて。喧嘩の種もそれぞれに吹き込んでいたことが原因か…
お父さんを愛する気持ちが歪んだ形で出てきてしまったのですね。
お母さんに嫉妬してたってことですよね…。そんな歪んだ愛情もあるんですね。でも、事実を知っているのは主人公のみで、お父さんもお母さんも知らないままで良かった気がします。