わたしの屍体は土の中

桜海(おうみ)とあ

プロローグ(脚本)

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〇立派な洋館
  フレスベルグ王国暦 705年

〇立派な洋館
「バシッ!!」
フィザリス(リズ)義姉「この役立たず! 何度言わせるの! 豆のスープはお母さまは苦手なの!」
シャルロッテ「申し訳ございません!」
エレギエル(義母)「シャルロッテ、これはわたくしに対する嫌がらせかしら?」
シャルロッテ「違います。お義母様」
フィザリス(リズ)義姉「代わりに、あんたが食べなさいよ」
「ビシャッ!」
フィザリス(リズ)義姉「ほらっ。床に這いつくばって、犬みたいに舐めなさい」
シャルロッテ「・・・っ!」
ローレル・シトロニエ(夫)「おいおい、我が妻を虐めないでくれるか?」
フィザリス(リズ)義姉「何よ! 義姉が妹を躾けてなにが悪いの?」
フィザリス(リズ)義姉「コイツは、私が嫁ぎ先からの出戻りだからって、馬鹿にしてるのよ!」
シャルロッテ「そんな!」
シャルロッテ「ぐっ!」
ローレル・シトロニエ(夫)「こいつを躾けるのは、この私だ」
ローレル・シトロニエ(夫)「貴様のような貧乏伯爵家に、多額の金を払って買ったんだ」
ローレル・シトロニエ(夫)「いつまでも何もできないご令嬢気取りじゃ困るからな」
ローレル・シトロニエ(夫)「きっちり働け!」
シャルロッテ「は、はい。伯爵様」

〇華やかな広場
シャルロッテ「・・・ふぅ。暑いわ」
シャルロッテ「いつも日の当たらない屋根裏部屋で、過ごしているせいかしら」
シャルロッテ「太陽がとても眩しく感じる」
シャルロッテ「痛っ!」
シャルロッテ「また手から血が・・・」
シャルロッテ「もうずっと、あかぎれが治らないわ・・・ でも我慢よ」
シャルロッテ「ローレル様は私が伯爵家の肩書きを持つから、迎え入れてくださっただけ」
シャルロッテ「ローレル様のおかげで、実家の家族はどうにか生活を送れているのだもの」
シャルロッテ「売られた娘が実家に泣きつくなんて、できない」
シャルロッテ「置いて下さるだけでもありがたいのだから、もっと頑張らなくちゃ」
シャルロッテ「ハープの音色・・・」
シャルロッテ「今日も吟遊詩人が奏でているのね。 いつ聴いても美しい音色・・・」
シャルロッテ「ああ、癒されるわ・・・」

〇貴族の部屋
シャルロッテ「お義父様、食事をご用意いたしました」
「・・・」
シャルロッテ「お義父さま?  しっかりなさって!」
シャルロッテ「誰か!! 今すぐお医者様を!」

〇黒

〇田舎の教会
シャルロッテ「お義父様、どうか安らかにお眠りください」
ローレル・シトロニエ(夫)「ようやく、くたばったか。 これで遺産は全て俺のもんだな」
フィザリス(リズ)(義姉)「何をおっしゃって?  私にも貰う権利はあるわ」
エレギエル(義母)「教会で遺産の話はやめなさい。はしたない」
エレギエル(義母)「シャルロッテ、馬車の用意をして頂戴」
シャルロッテ「あの。 わたくしもご一緒してよろしいのですか?」
エレギエル(義母)「まさか、あなたも遺産をもらえると思っているの? 本当に厚かましい嫁ね」
エレギエル(義母)「ローレル、リズ、行くわよ・・・」
シャルロッテ「・・・」

〇立派な洋館
エレギエル(義母)「何ですって!!」
エレギエル(義母)「遺産の受取人が、シャルロッテですって?」
弁護士「旦那様の遺言によると、」
弁護士「旦那様の遺産の全てをシャルロッテ嬢に相続させる。と記されております」
ローレル・シトロニエ(夫)「そんな馬鹿な! なぜあいつなんだ!」
ローレル・シトロニエ(夫)「そんな取り決め無効だ!」
弁護士「し、しかし!  大神官が認めた公正なる相続書でございますので、」
ローレル・シトロニエ(夫)「もういい、下がれ!」
弁護士「では、相続の手続きは」
弁護士「ひいい!」
ローレル・シトロニエ(夫)「その首が惜しくなかったら、今すぐ失せろ」
弁護士「ひゃ、ひゃい!!」

〇黒

〇貴族の部屋
シャルロッテ「伯爵様、お呼びでしょうか」
ローレル・シトロニエ(夫)「シャルル、私の愛しい妻よ」
シャルロッテ「・・・伯爵様?」
ローレル・シトロニエ(夫)「そなたは私に拾われて、今までこの屋敷で生きてこられて幸せであっただろう?」
シャルロッテ「・・・はい。伯爵様の妻になれて幸せです」
ローレル・シトロニエ(夫)「そうだろう。そうだろう。 なら私のために役に立てるな?」
シャルロッテ「・・・はい。わたくしに出来ることでしたら、何なりと」
ローレル・シトロニエ(夫)「なら、私のために死んでくれ」
シャルロッテ「・・・は・・・い?」
ローレル・シトロニエ(夫)「貴様さえいなくなれば、我が家族は安泰なのだ」
シャルロッテ「お、お待ちください!」
シャルロッテ「わたくし、何か過ちを犯したのでしょうか?」
シャルロッテ「伯爵様に捨てられるような失態を、いたしましたか?」
ローレル・シトロニエ(夫)「捨てるのではない。 ”死んでくれ”と言っている」
シャルロッテ「そ、そんな!」
エレギエル(義母)「話は済んだかしら?」
フィザリス(リズ)(義姉)「あら? まだ死んでないの?」
エレギエル(義母)「村はずれに大きな木があるわ。 そこで首を括ればいいでしょう」
フィザリス(リズ)(義姉)「怖がることはないわ。 痛みは一瞬だから」
ローレル・シトロニエ(夫)「僕らのために、死んでくれ」

〇華やかな広場
シャルロッテ「はあはあはあ・・・」
シャルロッテ「・・・し、死ねなんて。 何と恐ろしい」
シャルロッテ「私はもう不要ということなのかしら・・・」
シャルロッテ「もう、伯爵様に飽きられたということ?」
シャルロッテ「一生懸命尽くしてきたのに・・・」

〇モヤモヤ
ローレル・シトロニエ(夫)「私のために、死んでくれ」
エレギエル(義母)「使えない嫁ね・・・」
フィザリス(リズ)(義姉)「この役立たず、死んで!」
「死ね!」

〇華やかな広場
シャルロッテ「・・・ううっ」
シャルロッテ「また、ハープの音色が聴こえる・・・」
シャルロッテ「最期なら、せめて一度ぐらいあの音色を直に聴きに行ってもいいわよね?」

〇ヨーロッパの街並み
シャルロッテ「ハープの音色を頼りに来たけれど・・・」
幼い吟遊詩人「聴いてくれてありがとう」
幼い吟遊詩人「ありがとう! また来てね! ありがとう!」
シャルロッテ「あの少年だったのね。お礼をしたいけれど、お金・・・」
シャルロッテ「あ。これだわ!」

〇美容院
「いらっしゃいませー」
シャルロッテ「あの・・・、表の張り紙を見たのですが」
シャルロッテ「この髪でも、お金に換えていただけるのですか?」
「もちろんですとも。さあ、お掛けになってください」
「しかしどうして、そんなに美しい髪を切ろうと思ったのです?」
シャルロッテ「今まで心の支えだった方に、贈り物をしたくて・・・」

〇ヨーロッパの街並み
シャルロッテ「こんばんわ。小さな吟遊詩人さん。 一曲お願いしていいかしら?」
幼い吟遊詩人「どんな曲をご要望です?」
シャルロッテ「あなたが人生の最後に聴きたい曲を」
幼い吟遊詩人「・・・承知しました」
シャルロッテ「・・・」
幼い吟遊詩人「いかがでしたか?」
シャルロッテ「素敵な曲だったわ」
幼い吟遊詩人「こんなに! いただけません!」
シャルロッテ「いいの。最後に素晴らしい曲が聴けてよかったわ」
シャルロッテ「髪を切った甲斐があったというものね」
幼い吟遊詩人「髪を切られたのですか? そのお金を、わたくしに?」
シャルロッテ「じゃあね。さよなら」
幼い吟遊詩人「お待ちください! 明日もぜひ歌を聴きに来てください」
シャルロッテ「明日は・・・」
幼い吟遊詩人「わたくしは、吟遊詩人です」
幼い吟遊詩人「歌を聴いて下さる者が必要です。 あなたにまた聴いて欲しいのです」
シャルロッテ「私に?」
幼い吟遊詩人「あなたは、とても幸せそうに聴いて下さる。 そんな観客がいると、励みになります」
幼い吟遊詩人「だから、明日も聴きにきて欲しいのです」
シャルロッテ「うっ!」
幼い吟遊詩人「どどど、どうなされたのです?」
シャルロッテ「うっ。うわーん!」
幼い吟遊詩人「これを・・・」
シャルロッテ「ううっ。ありがとう」
シャルロッテ「ごめんなさい。子供のように泣いてしまったわ」
幼い吟遊詩人「涙を流すときに、大人も子供もないです」
幼い吟遊詩人「・・・と、父上が言っていました」
シャルロッテ「・・・ふふっ。慰めてくれてありがとう 小さな吟遊詩人さん」
幼い吟遊詩人「またいらしてくださいね!」

〇木の上
シャルロッテ「・・・」
シャルロッテ(もう少しだけ、生きてもいいかしら?)
シャルロッテ(伯爵様に何度も謝って、許しを乞いてでも。またあの歌を聴きたい)
シャルロッテ(それは贅沢な願い?)

〇立派な洋館

〇城の会議室
エレギエル(義母)「あら、髪はどうしたの?」
シャルロッテ「こ、これは・・・ちょっと訳があって」
エレギエル(義母)「まあ、無くしたものを言ってもしょうがないわね」
エレギエル(義母)「今朝は冷たくしてしまって悪かったわ」
エレギエル(義母)「誰かに今朝のことを相談したりした?」
シャルロッテ「お義母様、いえ。誰にも話していません」
エレギエル(義母)「さあ、お腹が空いたでしょう? 夕食にしましょう」
シャルロッテ(お義母様が優しい? 一体、どうしたのかしら?)
フィザリス(リズ)(義姉)「・・・戻ったのね」
シャルロッテ「お義姉様・・・」
フィザリス(リズ)(義姉)「今朝は言いすぎたわ、忘れてちょうだい」
ローレル・シトロニエ(夫)「シャルル。おかえり。 今夜は、君のために特別なワインを開けよう」
シャルロッテ(みんなどうしちゃったのかしら? すごく優しいわ)
シャルロッテ「申し訳ありません。伯爵様、私、死ぬことが・・・できませんでした」
ローレル・シトロニエ(夫)「いいんだ。シャルル。辛い選択をさせてしまって済まなかったね」
ローレル・シトロニエ(夫)「父上を失った今、 これからは皆で仲良く過ごそう」
シャルロッテ「ううっ。伯爵様」
ローレル・シトロニエ(夫)「泣いているのかい? 愛しき妻よ」
シャルロッテ「申し訳ありません。 う、嬉しくて・・・」
シャルロッテ(きっと悪夢だったんだ。 これが本来の幸せな姿)
シャルロッテ(生きよう)
ローレル・シトロニエ(夫)「さあ、乾杯だ」
シャルロッテ「・・・はい」
シャルロッテ「ぐはっ!」
「かはっ・・・かはっ・・・」
ローレル・シトロニエ(夫)「すまないな。シャルル。 君には”まだ”死んでもらっては困るのだ」
ローレル・シトロニエ(夫)「自殺では、勘繰る者が出るやも知れないのでね」
ローレル・シトロニエ(夫)「他の方法を考えたのだ」
ローレル・シトロニエ(夫)「今夜、屋敷に盗賊が入り、僕らは連れ去られたことになる」
ローレル・シトロニエ(夫)「僕らは、盗賊からどうにか逃げ延びるが、君の行方はわからずじまいだ」
ローレル・シトロニエ(夫)「君が失踪したということにすれば、」
ローレル・シトロニエ(夫)「3年後には自動的に、夫である僕が遺産を相続することになる」
「・・・い・・さん・・・?」
ローレル・シトロニエ(夫)「恨むのなら、君に全ての遺産を相続させたあのジジイを恨むんだな」
フィザリス(リズ)(義姉)「あはは! 最後の最後で役に立ったわね!」
「そ・・・んな・・・」
「お義母・・・さ・・・」
エレギエル(義母)「触らないで、穢らわしい」
エレギエル(義母)「親の看板しか持たない無能なお前は、地面を這って生きるのが、似合っているわ」
エレギエル(義母)「今までこの家に置いてあげただけでも、感謝なさい」
ローレル・シトロニエ(夫)「さよなら、シャルル。 我が愛しき妻よ・・・くくくっ!」

〇霧の立ち込める森
  助けて──
「ザクッ、ザクッ・・・」
  誰か・・・
「ザクッ、ザクッ・・・」
  わたしは・・・
  ここにいる・・・
「ザクッ、ザクッ・・・」

〇黒

次のエピソード:第1話

コメント

  • なんて悲しく切なく恐い話。お義父さんもこうなるとわかっていただろうに、なぜこんなことを… テーマ的に辛い話になってしまう(?)かもしれませんが、ファンタジーなので彼女にはなんとか幸せになって欲しい…

  • ものすごい悲しいお話...シャルロットにがっつり同情しておりました...😰
    今後の展開がまったく予想できません!気になる...!

  • こんにちは〜!タイトル、そういう事!?とドキドキしながら読みました!
    おとぎ話のような意地悪な兄弟と優しい吟遊詩人の少年🙆キャラクターが魅力的ですね🙌

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