阿鼻獄の女

高山殘照

10.大団円(前編)(脚本)

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〇行政施設の廊下
岳尾 貴美子「待って!」
岳尾 貴美子「あなた 法律の専門家なんでしょ?」
天間 弁護士「もちろん」
岳尾 貴美子「じゃあ、教えて どうして私は裁かれないの?」
岳尾 貴美子「人殺し、 それも母殺しなのよ、私は!」
天間 弁護士「帰ってニュースでも 見ればいいじゃないですか」
天間 弁護士「きっと、気の利いた解説 聞けると思いますよ」
岳尾 貴美子「聞きたいのは むしろ気の利かない言葉よ」
天間 弁護士「・・・・・・なるほど」
天間 弁護士「じゃあ言いますがね、 岳尾さん」
天間 弁護士「私のこと、法律の専門家だと おっしゃいましたが」
天間 弁護士「弁護士も検事も裁判官も みんな法律なんて大嫌いなんですよ」
天間 弁護士「法律に疎かったばかりに 何年も刑務所で暮らす人がいる」
天間 弁護士「法律に長けているおかげで 堂々と搾取を続ける企業がある」
天間 弁護士「最近では勝てる見込みもないのに 訴訟を何件も何十件も勧めて」
天間 弁護士「手数料で大儲けしている 悪徳弁護士もいる始末です」
天間 弁護士「もうね、飽き飽きしているんですよ 裁判なんてごっこ遊びに」
岳尾 貴美子「ごっこ遊び・・・・・・!」
天間 弁護士「それよりも問答無用の暴力で 決着を付けたほうが余程健全!」
天間 弁護士「民衆の感情こそ最大の暴力です 国家を殺し得る唯一の存在といっていい」
天間 弁護士「わかりますか。法曹人ほど 暴力に恋い焦がれてるんですよ」
天間 弁護士「それを大手振って行使できる 最大のチャンスがこの裁判だった」
天間 弁護士「そんな利害が裁判官と弁護士で一致した それだけのことです」
岳尾 貴美子「あなたは異常よ!」
岳尾 貴美子「普通の弁護士なら そんなこと、考えもしないはず」
岳尾 貴美子「おかしいのは、あなただけ 絶対、そうよ・・・・・・」
天間 弁護士「そうですね」
天間 弁護士「そうであればいいと 心から思いますよ、私も」

〇ハローワーク(看板無し)
記者「岳尾さん! ぜひお話を!」
記者「奇跡の無罪判決 その率直な感想は?」
記者「すべての前例を押しのけて 新たな1ページを開きましたね!」
記者「悩める女性の味方だと 絶賛する声も寄せられてますが」
記者「令和のジャンヌ・ダルク 早くもそう呼ばれていますよ!」
調 達也「はーい 彼女は疲れてるので」
調 達也「会見は、また後日 そこ通してくださーい」
岳尾 貴美子「調・・・・・・!」
調 達也「まあまあ積もる話は後で 今は避難しましょう」
調 達也「私は代理人でーす 道開けてくださーい」
調 達也「さあ、車へどうぞ」

〇車内
調 達也「いやあ、すごい人気ですね」
調 達也「そのうち ファンクラブできるんじゃないですか」
調 達也「サブスクで食っていけますよ」
岳尾 貴美子「私の弁護を依頼したのは、誰?」
調 達也「じきにわかりますから そう生き急がずに」
調 達也「せっかくシャバに出られたんです まずは自宅でゆっくりしては?」
岳尾 貴美子「・・・・・・ええ」
調 達也「それにしても 令和のジャンヌ・ダルクはよかった」
調 達也「彼女の最期はご存知ですか?」
岳尾 貴美子「火刑でしょ 焼き殺されるの」
調 達也「それになぞらえるってのは つまり、そういうことなんでしょう」
調 達也「あいつら、いざとなったら あなたを焼くつもりなんですよ」
調 達也「馬鹿なやつらだ」
調 達也「これから焼かれるのはどっちか 判断できないんですからね」
岳尾 貴美子「ひとつ、聞いてもいい?」
調 達也「なんなりと」
岳尾 貴美子「あなたの企みは まだ続いてるの?」
調 達也「いえ、もう終わりました」
調 達也「あとは坂道を 転がっていくだけですよ」
調 達也「勝手に、ね」

〇シックな玄関

〇おしゃれなキッチン(物無し)

〇清潔な浴室
岳尾 貴美子(普通、自宅前には マスコミが張ってそうなものだけど)
岳尾 貴美子(誰にも会わずに、帰ってこれた)
岳尾 貴美子(あいつ、どんなトリック使ったの?)
岳尾 貴美子(恐ろしい男・・・・・・ それでも、戦わなきゃ)
岳尾 貴美子(だから休むのよ、今は)
岳尾 貴美子(体力を取り戻して 今度こそ調と対決するの)
岳尾 貴美子「しっかりしなさい 岳尾貴美子」
岳尾 貴美子「あなたが倒れたら 誰が雄さんを守るの?」
岳尾 貴美子「食べること、寝ること 全部、戦うためよ」
岳尾 貴美子「・・・・・・・・・・・・」
岳尾 貴美子「あ、白髪」

〇空

〇豪華なリビングダイニング
岳尾 貴美子「余ってるヘアカラー使ったら」
岳尾 貴美子「派手になっちゃった 変装代わりにはなるか」
岳尾 貴美子(疲れたまま動くのはダメね 行動が雑になっちゃう)
岳尾 貴美子(一晩寝たらマシにはなったけど 今日、どうしようかな・・・・・・)
岳尾 貴美子(とりあえず ニュースでも見ましょうか)

〇テレビスタジオ
キャスター「本日のNEWS LEVEL UP」
キャスター「さっそくですが 事件現場と繋がっています」

〇炎
リポーター「はい、こちら 今朝から発生しております」
リポーター「一家無理心中放火事件の 現場に来ております!」
リポーター「ご覧ください 炎が燃え盛っております!」
リポーター「閑静な住宅街の朝を 悲鳴で塗りつぶしたこの事件」
リポーター「すでに夫と娘は死亡 妻も重症を追っており」
リポーター「あ、待ってください! 妻が、妻が玄関から出てきました!」
妻「ねえ、わたし、かわいそうでしょ?」
妻「おっとからも、まいにち、なぐられて」
妻「むすめも、ずっと、あばれてて」
妻「だからね、いいでしょ? ころしたって、もやしたって」
妻「タケオキミコだって、ゆるされたんだから」
妻「わたし、かわいそうなんだから」
妻「ね、ね?」

〇豪華なリビングダイニング
岳尾 貴美子「なんで? なんで、私の名前を?」

〇テレビスタジオ
キャスター「ここで速報が入りました!」
キャスター「大曲商事ビルで火災です! 放火と見られます」
キャスター「容疑者は火をつける前に 上階に登り」
キャスター「大曲商事部長 北 弁人さんを刺殺」
キャスター「その後、ガソリンを巻いて 火を付けたとのことです」
キャスター「負傷者や容疑者の安否については まだわかっていません」
キャスター「あ、犯人の氏名が判明しました」
キャスター「アンナ・カレリン ロシア系企業の社員ということです」
キャスター「カレリン容疑者は 犯行に及ぶ前」
キャスター「タケオキミコさんに申し訳ない 何度もそう言い続けたと」

〇豪華なリビングダイニング
岳尾 貴美子「なんなの、これ・・・・・・」
岳尾 貴美子「どうして私の名前ばっかり」
岳尾 貴美子「もしかしてアンナ・カレリンって あの、アンナさん?」
岳尾 貴美子「はい」
調 達也「いやあ、 たいへんなことになってますね」
岳尾 貴美子「え、ええ」
調 達也「つかぬことお聞きしますが fatterとか、やってます?」
岳尾 貴美子「やってないけど」
調 達也「ですよね」
調 達也「いえね 今、トレンドになってるんですよ」
岳尾 貴美子「もしかして、私の名前が?」
調 達也「はい、それが1位で 問題は、2位なんです」
調 達也「ハッシュタグ #医療者総粉砕デモ」
調 達也「それが拡散してましてね とんでもない騒ぎになってます」
岳尾 貴美子「待って、意味がわからないんだけど」
調 達也「結論からいえば 病院をよってたかって襲おうという」
調 達也「そんな運動が起こってまして」
岳尾 貴美子「どうして そんなことになってんの?」
調 達也「さあ?」
調 達也「とにかく、急いだほうが いいんじゃないですか」
岳尾 貴美子「・・・・・・雄さん!」
調 達也「そうですね。市立病院なんて 一番目立つ標的ですからねえ」
岳尾 貴美子「これも、あなたが手を引いてるの?」
調 達也「俺だったら、 もっとスマートにやりますよ」
調 達也「それじゃ、お気をつけて」
調 達也「ああ、そうそう 変装くらいしていってくださいね」
調 達也「有名人なんだから」
岳尾 貴美子(『変装』って、まるで見てたみたいね 盗聴でもされてるのかしら)
岳尾 貴美子「いえ、そんなことより 早く行かなきゃ」
岳尾 貴美子「待ってて、雄さん 無事でいて・・・・・・」

次のエピソード:11.大団円(後編/完)

コメント

  • 私なんかが、最初の読者になって恐縮です。最早、地面からは見えない、想像もできない上空、大気圏外のストーリー展開になって来ましたね。調さんの底知れないスケールに恐怖しながら、立ち向かっていこうと思える岳夫さんを応援しています。

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