阿鼻獄の女

高山殘照

11.大団円(後編/完)(脚本)

阿鼻獄の女

高山殘照

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〇大学病院
シンパ「進言餅様! 新書、買いました!」
シンパ「私は4冊買いました!」
シンパ「ブログ会員、2年目です!」
「投げ銭させていただき ありがとうございます!」
進言餅「善良なる市民よ 虐げられし被害者よ」
進言餅「皆の声は確かに届いている」
進言餅「私が主張しているとおり 我々は権威に追い詰められている」
進言餅「マスクは息苦しかっただろう 注射は痛かっただろう」
進言餅「それもこれもすべて 医療従事者のせいである!」
「ああ、進言餅様!」
進言餅「彼らが論文で殴り データで縛るというなら」
進言餅「我々は『気持ち』で立ち向かおう!」
「そうだ! 大事なのは、俺たちの気持ちだ!」
岳尾 貴美子(頭おかしいのかしら?)
進言餅「幸いにして 我々と同じ志を抱くものが」
進言餅「日本中で立ち上がっている すなわち、医療者総粉砕デモである」
進言餅「我らの標的は この市立病院である!」
岳尾 貴美子(マズい、乗り込むつもりね 雄さんを助けないと)
岳尾 貴美子(でも、こいつらが陣取っていて 中に入れない・・・・・・)
進言餅「さて、決行する前に やるべきことがある」
「それは?」
進言餅「それは」
進言餅「無論、我がチャンネルとブログの 高評価を押す作業である」
進言餅「たった今、動画と記事を公開した」
「さすが進言餅様!」
進言餅「さあ、いいねを押すがいい! これは義務ではない、権利である!」
「ありがとうございます!」
岳尾 貴美子「・・・・・・今のうちに!」

〇近未来の病室
岳尾 貴美子「雄さん!」
岳尾 貴美子「私よ、貴美子!」
岳尾 雄「髪色変えたんだ 似合ってるよ」
岳尾 貴美子「ありがとう」
岳尾 貴美子「いえ、それどころじゃないの 早く逃げないと!」
岳尾 雄「逃げるって 誰かに追われてるの?」
岳尾 貴美子「説明は、後!」

〇病室の前
医者「な、なんだ君たちは!」
進言餅「進め! すべての医療従事者を粉砕せよ!」
進言餅「抵抗するものは、打て!」
進言餅「抵抗しないものこそ、撃て!」
進言餅「病院で寝ている患者も同罪だ! 残らず打ち倒せ!!」
岳尾 貴美子「入ってきた・・・・・・!」
岳尾 雄「な、なにが起こってるんだ?」
岳尾 貴美子「下はダメね とりあえず、上に逃げましょう」
岳尾 貴美子「警察が来るまで、時間を稼ぐ!」
岳尾 雄「見ない間に、頼もしくなったね」
岳尾 貴美子「苦労したもの、わりと」

〇屋上の隅
岳尾 貴美子「屋上まで来れば・・・・・・」
調 達也「一安心、というところですか」
岳尾 貴美子「つくづく、先回りが好きみたいね」
調 達也「探偵の基本ですから」
岳尾 貴美子「そろそろ聞かせなさい 私の弁護を依頼したのは、誰?」
調 達也「言わなきゃいけませんか? 無粋だなあ」
調 達也「もちろん、俺です」
岳尾 雄「え?」
岳尾 貴美子「理由は?」
調 達也「あなたが好きだから」
岳尾 貴美子「それだけは違うでしょ」
調 達也「はははは なに、簡単なことです」
調 達也「俺は探偵として、 真実を知りたかった」
岳尾 貴美子「私の?」
調 達也「いいえ 言葉にするとチープになりますが」
調 達也「社会そのものの真実、ですかね 知りたいのは」
岳尾 貴美子「ずいぶんスケールの大きな話」
調 達也「いえいえ 単なる個人的な執着ですよ」
調 達也「俺は探偵になる前から 嘘や誤魔化しが生理的に無理でして」
調 達也「なんでもかんでも暴いていったら 友人にも親にも絶縁されましてね」
岳尾 貴美子「それで探偵になるしかなかった、と」
調 達也「ご明察」
調 達也「それでまあ、曲がりなりにも 生きてたらわかるでしょ?」
調 達也「人を騙し自分を誤魔化し 生きていくのが社会性ってことに」
調 達也「で、いよいよこんな世の中に 耐えられなくなりまして」
調 達也「まあ、治療の一環とでも お考えいただければ」
岳尾 貴美子「話が見えてこないわ それが私とどんな関係が」
調 達也「怒り、ですよ」
調 達也「あなたから浮気調査を依頼された際 底知れぬ怒りを感じました」
調 達也「これならば、 社会を覆っているベールを引き剥がす」
調 達也「強烈な一撃に繋がる そう推測し、見事的中したわけです」
調 達也「社会変革の根源は常に怒りですからね」
調 達也「フランス革命や明治維新は 言うに及ばず」
調 達也「釈迦の成道やイエスの宣教だって 出発点は怒りですよ」
調 達也「そしてこの国の根底にあるものも 業火のような怒りです」
調 達也「誰もが不満や不遇を薪にし、 心が焼かれる苦しみに悶えている」
調 達也「怒りと悲しみによって燃え盛る世界 それを表す言葉は、なんだと思います?」
岳尾 貴美子「・・・・・・地獄」
調 達也「そうです あなたは最初から、地獄にいた」
調 達也「そしてこの国の人間も 残らず地獄に堕ちている」
調 達也「それを気づかせるには 鏡を見せるのが、一番です」
調 達也「マスコミを通じて、 人々はあなたを知りました」
調 達也「そしてようやく理解したんです 私も、同じだと」
調 達也「すでに法律も道徳も届かない 最悪の地獄」
調 達也「そう、阿鼻獄の住人だということに」
岳尾 貴美子「嬉しそうね! 社会を壊して、そんなに楽しいの?」
調 達也「察しの悪い女だな」
調 達也「社会だの国家だの ハナからどうでもいいんだよ!」
調 達也「俺が知りたいのは真実! 実現したいのも真実!」
調 達也「そして阿鼻獄という 真実が明らかになった」
調 達也「そのことに関しては 感謝してもしきれない!」
調 達也「地獄で生まれ、地獄を育み 地獄を動かし続ける」
調 達也「あなたこそ 阿鼻獄の女だ!」
調 達也「ほら、聞こえるだろう? この音が」
調 達也「近づいてくるぞ、さらなる真実が もっともっと面白くなる!」

〇屋上の隅
進言餅「おお、ここにも 倒すべき敵がいる」
進言餅「さあ、行け! 医者も患者もすべて・・・・・・」
シンパ「タケオキミコだ」
進言餅「へ?」
シンパ「見ろ、タケオキミコがいるぞ!」
シンパ「あの裁判を見ただろう! タケオキミコの裁判だ!」
シンパ「刑法も権威も この人には勝てなかった!」
シンパ「検察も控訴を諦めた あのタケオキミコ!」
シンパ「その隣は 彼女に愛を捧げた旦那さん!」
「なんと美しい・・・・・・」
進言餅「ま、待て おまえたちは私のシンパだろ?」
シンパ「讃えろ! 俺たちに勇気をくれた人を」
「叫べ! あの人の名前を!」
  タケオキミコ・・・・・・
  タケオキミコ!
  キミコ!
  キミコ! キミコ!
岳尾 雄「これは、夢?」
岳尾 貴美子「いいえ、現実」
岳尾 貴美子「きっとこれからは。この世界で 生きていかなきゃいけないのよ」
  キミコ! キミコ! キミコ!
シンパ「タケオキミコ!」
シンパ「私はあなたのためなら、 なんでもいたします!」
シンパ「どうぞ、お声を!」
岳尾 貴美子「そう・・・・・・」
岳尾 貴美子「あなたたちの敵は 医療従事者じゃないわ」
シンパ「ええっ!」
岳尾 貴美子「本当の悪魔は」
岳尾 貴美子「あそこにいる!」
岳尾 貴美子「さあ、あの男を 屋上から突き落として!」
岳尾 雄「貴美子、それは」
岳尾 貴美子「雄さん、止めないで」
岳尾 貴美子「あの男を倒すチャンスは 今、ここしかない」
岳尾 貴美子「逃したら、もっともっと 酷いことになる、絶対に!」
調 達也「ははは、君たち」
岳尾 貴美子「その男の声に 耳を貸さないで!」
シンパ「それ、担ぎ上げろー!」
岳尾 貴美子「これは私が命じた罪! あなたたちに責任はない!」
シンパ「おお、タケオキミコ!」
  キミコ! キミコ! キミコ!
調 達也「ははははは!」
調 達也「素晴らしい、 これがあなたの真実か!」
調 達也「一切を焼き尽くす 不死のジャンヌ・ダルク!」
調 達也「地獄にして自在な 阿鼻獄の女!」
調 達也「その名は、竹尾貴美子!」
岳尾 貴美子「落とせ!」
シンパ「終わりました」
岳尾 貴美子「そう」
シンパ「確かに落下し 叩きつけられております」
シンパ「ご覧に?」
岳尾 貴美子「いえ、結構よ」
岳尾 貴美子「さあ、デモは中止」
岳尾 貴美子「馬鹿騒ぎを止めにいきましょう」
シンパ「ははっ」
シンパ「聞いたとおりだ、行くぞ!」
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!
岳尾 貴美子「・・・・・・」
岳尾 貴美子「雄さん、手を握ってて」
岳尾 雄「うん」
岳尾 雄「大丈夫 僕が、ついているから」
岳尾 雄「できることなんて、ないけどね」
岳尾 貴美子「なに言ってるの」
岳尾 貴美子「あなただけが希望よ」
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!
  キミコ! キミコ! キミコ!

〇血しぶき
  『阿鼻獄の女』
  
                   完

コメント

  • 成し遂げられずに殺された人達も、その思いや、気持ちは、ままならない。やっはり、愛したもん勝ちのような気がします。凄いところに着地しましたね。感謝。

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