第二話「北海道への帰郷」(脚本)
〇教室の外
ワタシは、研究室で石竹警部補と簡単な打ち合わせを行い、自分の講師室へと戻った。
ワタシ(一週間前、教授に研究調査という名目で、北海道への里帰りの話をしたのはまずかったな)
ワタシはそう思った。
ワタシは商売道具でもある、フィールドワーク(現地調査)用のカメラやフィールドノート、旅行の支度をした。
愛用のカーディガン(世田谷の職人手づくりで、お気に入りだ)を羽織り、その脚で三軒茶屋駅へと向かった。
〇空港のエントランス
ワタシは羽田空港のロビーで北海道の実家のお袋に電話をかけた。
ワタシ「そういうわけだから、今日の晩に北海道に戻るっけ。しゃーねーべや。急に決まったんだからよ(電話)」
ワタシはお袋に北海道訛りで述べた。
ワタシ「真知子さん?真知子さんにも後から電話するよ。うるさいな。ほっておいてくれよ。えっ、親父も会いたがってる?」
ワタシ「いいよ、子供じゃあるまいし。もう、飛行機の時間だから切るっけ」
ワタシはそう述べ、北海道の実家の母親との電話を切り上げた。
そしてまた、新千歳空港行きの飛行機に搭乗した。
〇飛行機の座席
北海道に着くにはまだ、時間がある。
ワタシは学会発表用の論文を機内で書くことにした。
ワタシは移動中に難しいことを考える癖がある。
ワタシが論文の草稿の一部を書き終えると、機内サービスのコーヒーを飲むことにした。
そしてまた、ぼんやりと故郷北海道のことを考えた。
〇改札口
渡氏が新千歳空港に着き、JRの空港駅へと向かうと、改札前で一人の女性と石竹警部補が、待っていた。
ワタシ「真知子さん!それに石竹警部補まで。どうしてここに?」
渡氏が驚いて尋ねると、真知子さんは、おしとやかな感じで答えた。
真知子さん「お母様からお話を聞きました」
その様子はまるで、可憐な大和撫子そのものだった。
しかし、それは表面的なものだった。
真知子さん「で、なんで私に真っ先に連絡をよこさないのよ!」
真知子さんは血相を変えて、めちゃくちゃ怒ってもいた。
ワタシは怒る真知子さんを、どうにかこうにか、なだめていると、真知子さんの隣にいた、石竹警部補が軽く咳払いをした。
石竹警部補「あっ、ごほん。先生が遠路はるばる捜査にご協力して下さると聞き、出迎えに来た次第です」
石竹警部補は微笑みを浮かべながら述べた。
ワタシ「わざわざすいません。本当に気を使わなくてもいいですよ」
ワタシがそう述べると、真知子さんもワタシの首を絞めながら述べた。
真知子さん「そうよ。なにが先生よ!ただ、モラトリアムを謳歌したいだけで、大学に残っている、しがない男よ!」
ワタシ「真知子さん、苦しいよ、ギブアップ、ギブアップ」
ワタシは真知子さんに何とか許しを請いた。
石竹警部補「しかし、先生も早いですな。教授からご依頼のあったその日に、北海道に移動して来られるとは」
石竹警部補「私もたまたま別件があって、そちらの研究室に寄らして頂いたのですが、先生も別の便で、すぐにこちらに移動してきたんですよ」
石竹警部補は、なかば呆れながら述べた。
ワタシ「現地調査研究がメインのフィールドワーカーですから。機動力では誰にも負けませんよ」
ワタシも微笑みながら、石竹警部補に答えた。
真知子さん「何が機動力よ。逃げ足だけが自慢の癖に!」
真知子さんは鋭い視線でワタシをにらみつけた。
ワタシ「(ぎく)さあ、警部補も真知子さんも立ち話はなんですし、まずはエアポートに乗りましょう」
渡氏は少し動揺しながらも、三人で札幌行きのエアポート快速列車に乗った。
〇走る列車
列車の中で石竹警部補と(真知子さんもいるので)事件以外の話をした。
話を聞くと、石竹警部補は北大出身者で、国際刑事組織のインターポールにも出向したこともある、エリート刑事さんのようだ。
ただ、エリートにはとうてい見えない、腰の低さと、温和な雰囲気を醸し出してもいる。
ワタシ(世の中には、こういう奇特な刑事さんもいるんだな、、、)
渡氏は石竹警部補と話をしながら、そう思ってもいた。
すると、真知子さんが快速列車の窓を見ながら呟いた。
真知子さん「ね! そろそろ私達、いいと思うの・・・。結婚(ハート)」
どきー!
ワタシはびっくりした。
ワタシ「えー、ほーけー(そうかい)?」
ワタシは苦し紛れに(田舎言葉で)答えた
真知子さん「オーケーって、あなた嬉しい(ハート)」
真知子さんは何か勘違いしているようだ。
真知子さん「式はいつにする?世田谷区でもいいわよ(ハート)」
真知子さんは意気揚々としている。
ワタシは、しどろもどろになりながら、弁解した。
ワタシ「いやーちょっと・・・」
すると真知子さんの表情が、見る見るうちに怒りへと変わった。
真知子さん「何が「いやーちょっと」なの!」
真知子さんは、肩を震わせながら、ワタシに詰め寄った。
ワタシ「真知子さんだけに、ちょっと『待ち子』、なんちゃって」
場の雰囲気を和ませようと、ワタシは冗談を述べたが、逆効果だった
真知子さん「死ね!このとうへんぼく!優柔不断! 甲斐性なし!」
ワタシは真知子さんに、また首を絞められた。
ワタシ「死ぬ、しんじゃうよ!」
ワタシは真知子さんに首を思いっきり絞められて、あやうく殺されかけた。
石竹警部補「オーケー牧場」
石竹警部補は何かをつぶやいた。
「?」
二人はキョトンとした表情で石竹警部補を覗いた。
石竹警部補「ごほん。なんでもないです」
石竹警部は軽く咳払いをした後、二人をなだめた。