エピソード1(脚本)
〇荒野
私にとって世界が変わる時というものは、いつも驚きをもたらす。
喜びは、その後であり──
そして、決まっていくつかの”恐怖”と共にやってくる。
黒き大地の石「ノックス」──。
周囲を強国に挟まれる小国に過ぎなかったコールブランド国は、この不可思議な鉱石の恩恵により産業革命を引き起こした。
〇飛空戦艦
これが後に云われる「黒の革命」である。
それまで海を行くのみだった艦船は、空を駆ける船となり──
実用の域になかった飛行機械が一般化した事で、貿易の促進にも一役買った。
これによって人々の生活は驚くほど豊かになり、他国との交流も増えた。
黒き石のもたらした産業の革命は、コールブランド国の経済だけでなく文化や技術力の発展すら促し──
〇宮殿の門
ついには、大国を凌ぐほどの国力を持つに至らせたのである。
しかし──それは同時に国家間の問題を、ある深刻な軋轢を作り出す事にもなった。
すなわち、軍事バランスの崩壊である。
空を飛ぶ敵に対して有効な攻撃手段を持たない他の国々にとって、コールブランド国の異常とも言える技術躍進は──
喉元に避けようのない刃を突きつけられたも同じだったのだ。
そして──この懸念はやがて現実となる。
力を手にしたコールブランド国は、一気に軍事拡張路線を邁進し始め、周辺諸国への侵略を始めたのである。
〇西洋の街並み
世界に”制空権”という新たな概念をもたらしたコールブランド国の行動は驚くほどに迅速で無駄がなかった。
彼らはノックスから作り出す事のできる黒の煙・通称「夜の帳」により世界の勢力図を一変させ──
〇荒廃した街
次々と隣国を墜としていった──。
もはやどの国にもコールブランド国を止められる手立てはなく──
飛行船技術を独占する彼らが世界を握り、恐るべき覇権国家として君臨するまで時間は然程かからなかった。
以降、20年に及び戦争状態が続いているが、事実上の消化試合と化している。
あとはもう、世界がコールブランド国と、その”女王”の手に落ちるのを秒針の動くと共に待つばかりだ。
しかし、そんな情勢の中──
コールブランド国に対抗すべく、新たな勢力が台頭を始めていた。
〇西洋の円卓会議
それが、対コールブランド連盟。
通称「クラレイン」──。
コールブランドの支配に抗う各国が秘密裏に立ち上げた集まりの名だ。
クラレインの目的は、コールブランド国の打倒と、その支配からの解放──つまりは自由を得る事。
あくまで表向きは──だが。
実際は、クラレイン国を潰した後でその利権を手にするための集まりという側面の方が強い。
実際問題として、コールブランド国の軍事力は凄まじいものがあり──
空を飛ぶ敵に対抗する手段がない以上は、各国の軍隊を以ってしても、到底太刀打ち出来るものではないからだ。
だからこそ、どの国の上層部もその力を──
コールブランド国を潰した後に得られるであろう利益を求めて、それが達成されるまでの連盟という形をとって暗躍している。
しかし──同盟は秘密裏に軍備を整えてはいるものの、未だ表立った行動には移せていない。
なにしろ相手は今やその軍事力において、世界をリードする強国なのだ。
よって現在は諜報員による内部からの工作がメインとなっている。
内容は、主に情報操作だ。
国内の不穏分子の扇動に始まり──
コールブランドに不満を持つ優秀な人材の亡命の手引き、民衆の不満を高めてクーデターを起こさせるなど。
現在、独占されている飛行船技術の奪取もその一つ。
あらゆる手段を用いて、内側から切り崩す計画が進められている。
とはいえ、それだけでは足りない。
コールブランド国は王を頂点に君主制を敷いており、現女王は国の象徴として絶対的な権力を有する。
いかに内通者を作ったとしても、そこから王室を掌握出来なければ意味がないのだ。
そこで、コールブランド国の中枢に食い込むために必要になるのが──
女王に近しい王室関係者と──
その者と関係を深め、王室に潜り込むためのコネクションを築ける諜報員である。
〇ファンタジーの学園
コールブランド国領──
レインズ・グラーフ校、中庭。
いじわるな男子生徒A「おい、ラッセル。悔しかったら取り返してみろよ!」
いじわる男子生徒B「王子様ならこのくらい登れるだろー?」
ラッセル「う・・・」
木登りに興じる男の子達が、一人ぼっちで取り残された気弱そうな男の子を囃し立てている。
彼らに「ラッセル」と呼ばれたその男の子は、泣きそうな顔をしながら必死に木の枝にしがみついていた。
──だが、それも長くは続かない。
ラッセル「あっ・・・!」
折れてしまった枝と共に、その子の身体も地面へと落下していく。
幸いにも、そこまで高い木ではなかったおかげで大事には至らなかったけれど──
地面に落ちたその子を見て、木の上にいる男の子達はゲラゲラと笑い声を上げた。
いじわるな男子生徒A「ははは! だっせぇ!」
いじわる男子生徒B「弱虫ラッセル、また泣いてんのかよぉ!」
彼らは笑いながら、地面に倒れ込んだままのその子を見捨てて走り去ってしまった。
なんて薄情──いや・・・そもそも彼らにとってはこれが日常茶飯事なのだろう。
ラッセル「・・・っく・・・ひっく」
彼らの後ろ姿を呆然と眺めるその子の手には、枝に引っ掛けられていたのだろう一枚のハンカチが握りしめられている。
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カルメンの野望がとてもしたたかで、それでいて上品な雰囲気もあって魅力的なフィナーレでした。この勢いで、すぐに続きが読みたい!と作品に引き込まれました。