とある青年の世界見聞録

霧ヶ原 悠

運命の席は夢の中を転がる−ケース2.座敷童の場合(脚本)

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〇レストランの個室
店員「すぐに次の方をお連れしますので、お席からお立ちにならずにお待ちください」
  グラスに残ったジュースを飲んで待つ。
店員「失礼します、こちらのお席にお願いします。それでは只今から相席再開となります。ごゆっくりどうぞ」
鈴女「えっと、こんばんは。私はかえで屋の鈴女と申します。以後、お見知りおきくださいませ」
鈴女「かえで屋は、私が住んでいるお菓子屋さんの名前です。私は座敷童という、誰かの家に憑く種族なんです」
鈴女「普段住人とは交流しないしきたりとなっています。なので、こうして人間の方と堂々とお話しするのは久しぶりです!」
鈴女「お互い飲むものが少ないですね。一緒に取りに行きませんか?  どんなものをよくお飲みに?」
鈴女「そのときの気分次第、ですか。では、私のおすすめはどうですか?」
鈴女「菊の葉露から作られたお酒で、ほのかな甘みとさわやかな後味が自慢の一品!」
鈴女「すごくいいお値段がするので、こんなところでもないと飲めない名酒ですよ!」
鈴女「むぅ、そんな驚きます? 私だって人間に換算すると130歳ぐらいなんですからね。陶器の一升瓶ぐらい片手で持てますよ!」
鈴女「蒼い月夜に出会った『彼女』を探して旅に、ですか。うーん、申し訳ありませんが私にも覚えがありませんねえ」
鈴女「座敷童の噂は一日で千里をゆくほどですから、それほど美しく月が似合う方がいるなら、耳に入っていてもおかしくはないのですが」
鈴女「悪魔、ですか。私は変化の術を持つ種族を推しますね。 悪魔にしろ天使にしろ、この地から、いえ、この世界からすでに去りました」
鈴女「この世界に現れることもそうないでしょうから、そんな話は忘れてしまいなさい。あなたには、この先も知らなくてよいことです」
鈴女「いえ、特に深い意味はないんですよ?  あなたがお気になさる必要はありません。いいですね?」
鈴女「いいお返事です。 さて、とても楽しかったのに残念ですが、私はこのあたりでお暇させていただきますね」
鈴女「あなたも帰られるなら、出口までご一緒しませんか?」
  彼女は受付で店員にさっさとカードを渡し、扉を開けた。
  扉の先は、ただ無明の黒だった。
鈴女「湯煙と錦の街に来られた時は、是非かえで屋にお立ち寄りください。旦那様の作られる三葉の練り切りは絶品なんですよ!」
  無貌の店員が無機質な声で尋ねる。
店員「本日のご相席はいかがでしたでしょうか」
店員「またのご来店をお待ちしております。お足もとにお気をつけてお帰りください」

〇黒背景
  無明の黒の中に続く白い螺旋階段を下りる。
店員「おはようございます。どうかよい夢を」

次のエピソード:果樹と宴の町

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