男爵令嬢モブリーナ・モブリンの受難

はやまさくら

公爵様の帰還(脚本)

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〇城の会議室
  夕食の席にて、
  アシュリー様は公爵殿下の
  動向を報告いたしました。
アシュリー「レイノルズ公爵殿下は 1週間の領地視察を終え、 明日の昼頃お戻りになるそうです」
ロランス「パパ帰ってくるの? やったぁ!」
アシュリー「ロランス様、今はお食事中ですよ。 あまりはしゃがないように」
ロランス「はーい!」
  席に着いているのは、
  賓客である私とお父様、
  そして公子ロランス君の3人だけでした。
  やはりロランス君の
  母親の姿はありません。
  アシュリー様は使用人たちに
  的確に指示を飛ばしながら、
  給仕を続けています。
  その姿は家令というよりも、
  屋敷の執事のようでした。
アシュリー「本日のメインディッシュは 羊肉オーブン焼きの クレソンソース添えです」
アシュリー「熱いので、お気を付けください」
  美しく盛り付けられた料理が
  私の前に運ばれてきました。
  お父様やロランス君は
  待望のメインディッシュに
  夢中になっています。
  私は料理よりも
  アシュリー様の洗練された動作に
  釘付けになっておりました。

〇立派な洋館
  翌日の昼過ぎ、
  予定どおり公爵様は屋敷へと
  帰還なされました。
アシュリー「お帰りなさいませ、殿下」
ウィレム「アシュリー、会いたかったよ!」
  公爵様は一目散に
  アシュリー様の許に駆け寄り、
  親しげに彼を抱きしめました。
アシュリー「・・・おやめください。暑苦しいです」
  慌てず騒がず、
  アシュリー様は冷静に公爵様の腕を
  振りほどいていらっしゃいます。
  ・・・ずいぶんと仲良しなのですね。
ウィレム「僕の留守中、 特に変わったことはなかった? ロランスは元気にしていた?」
アシュリー「王都からモブリン男爵閣下と モブリーナ様が到着されております。 殿下、ご挨拶をお願いいたします」
  お父様は姿勢を正し、
  最上級の礼をもって
  公爵様に敬意を払っております。
  私はスカートの裾を軽くつまみ、
  淑女の礼を行いました。
  殿下はそんな私たちの姿を一瞥し、
  盛大にため息をついています・・・
ウィレム「君が父上が送り込んできた 見合い相手だね?」
ウィレム「申し訳ないが、 僕には既に心に決めた相手がいる。 他の令嬢と結婚するつもりはないよ」
モブリーナ「それはロランス君の母君のことですか?」
ウィレム「もうあの子と会ったんだ。 だったら話は早いね。 ・・・では、そういうことで」
  話すことはもうない、と言わんばかりに
  公爵殿下は私たちを無視して
  歩き出しました。
  あまりの冷淡さに
  私たち父子は呆然といたしました。
  お見合いの体裁すら
  整える気がなさそうです。
ウィレム「それよりも報告を続けてくれるか、 アシュリー?」
アシュリー「は、はい!」
  アシュリー様は申し訳なさそうに
  私に一礼し、
  公爵様の背中を追いかけ始めました。
  そのまま二人は廊下を進み、
  公爵殿下の執務室へと姿を消しました。
  私たちは置いてきぼりです。
  思っていた以上に
  公爵様は私たちに無関心です。
  私も王族と結婚だなんて、
  荷が重いので別に構いませんが。

〇洋館の廊下
  ウィレム殿下との顔合わせを終えた後、
  お父様は客室へとお戻りになりました。
  私は客室には戻らず、
  アシュリー様が執務室から出てくる
  タイミングを今か今かと
  待ち構えておりました。
  この屋敷に滞在できる時間は、
  さほど残されておりません。
  なので、屋敷を退去する前に交流を深め、
  今後の関係発展に望みを託すしか
  ございません。
モブリーナ「あの、アシュリー様。 この後、お時間よろしいですか?」
  殿下への報告を終え、
  執務室から出てきた彼に話しかけました。
アシュリー「構いませんよ。どうなさいました?」
モブリーナ「お屋敷の図書室を 使わせていただいているのですが、 どうしても見つからない本があって・・・」
モブリーナ「長編小説の続刊なので、 どこかに収蔵されてはいると思うのです。 一緒に探してもらえないでしょうか?」
アシュリー「分かりました、ご一緒いたしましょう」
  本当にアシュリー様はお優しい方ですわ。
  図書室で二人きりになれたら、
  もっと距離を縮めることが出来るかも?
  そう夢想する私は、
  怒気をはらんだ男性の声で
  現実に引き戻されました。
ウィレム「そんな仕事、 他の使用人に任せておけばいいだろ? アシュリー、君は僕を優先しろ」
  公爵殿下は、
  アシュリー様が私に構うこと自体が
  気に食わないようです。
  射貫くような瞳に睨まれ、
  私は生きた心地がしませんでした。
アシュリー「わがままが過ぎますよ、殿下。 そもそも礼を欠いているのは、 ウィレム様の方です」
ウィレム「・・・勝手にしろ!!!」
  公爵殿下は機嫌を急降下させながら
  屋敷の外へと出掛けていきました。

〇英国風の図書館
  公爵殿下が去った後、
  アシュリー様は約束どおり
  本探しに付き合ってくださいました。
  懸命に本を探してくださる彼の姿に、
  私は小さな幸せを感じます。
モブリーナ「私のために、ありがとうございます」
アシュリー「お気になさらず。モブリーナ様に 快適に過ごしていただけるよう 尽力するのが、わたしの務めです」
モブリーナ「あの、アシュリー様にはその・・・ 恋人、とかいらっしゃるのでしょうか?」
アシュリー「恋人ですか? ・・・そうですね、今はおりません」

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