男爵令嬢モブリーナ・モブリンの受難

はやまさくら

惹かれる気持ち(脚本)

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〇貴族の応接間
  一通り庭園を見て回った後、
  私はアシュリー様と別れ、
  お父様の許に戻りました。
  本当はもっとお話をしたかったのですが、彼には他にも仕事がございます。
  あまり手を煩わせるわけにも参りません。
モブリン男爵「モブリーナ、庭園はどうだった?」
モブリーナ「よく手入れされた素敵なお庭でした。 珍しい植物も多く、 色々と勉強になりましたわ」
モブリン男爵「それは良かったな。 ワシも後で見物させてもらおうか」
  お父様は客間ですっかり寛いでいました。長旅の疲れも吹き飛んだのか、
  普段よりも饒舌です。
モブリーナ「お父様もご一緒すればよかったのに」
モブリーナ「アシュリー様が色々と 説明してくださいましたのよ? あの方、本当に博識ですわ」
モブリン男爵「いや、父さんはあの方と一緒だと 緊張するんだよ。 若いのに優秀だし、それに・・・」
  どうやらお父様にとって、
  アシュリー様はコンプレックスを
  刺激する存在のようです。
  下を向いて、何かごにょごにょと
  言い訳めいたことを呟いています。
モブリーナ「彼とはお知り合いなのですか?」
モブリン男爵「いやいや、一方的に 存じ上げているだけだよ」
モブリン男爵「ワシのような十把一絡げの官吏とは 訳が違うんだ」
  あら、残念。
  直接のお知り合いなら、
  もう少しアシュリー様のことを
  色々教えていただこうと思ったのに。
モブリン男爵「さて、これから父さんは 騎士団の演習場を見学させてもらう 予定なんだ」
モブリン男爵「レイノルズ公所有の私設騎士団は 精鋭揃いと有名だから、 一度この目で見てみたくてね」
  実はお父様は王国騎士団付けの
  事務官吏なのです。
  騎士に憧れ、
  王国騎士団への入団を目指して
  剣術の腕を磨いたこともあるとか?
  残念ながら才能に恵まれず、
  その夢は叶いませんでしたが、
  今も演習や模擬試合を見物するのが
  大好きなのです。
モブリン男爵「モブリーナ、お前も一緒に来るか?」
モブリーナ「ええ、是非ご一緒させて下さい」
モブリーナ(せっかく華やかな上級貴族の世界を 体験できるまたとない機会なのですから、可能な限り満喫しないと・・・)
  私は大きく頷き、
  はやる気持ちを抑えながら
  お父様と一緒に演習場へと向かいました。

〇武術の訓練場
モブリン男爵「凄まじいな・・・ これが黒曜騎士団か」
モブリーナ「ねえ、お父様。 ここは騎士団の演習場で 間違いないのですか?」
モブリン男爵「ああ、間違いない。 レイノルズ領が誇る 魔法騎士たちの演習だ」
モブリン男爵「話には聞いていたが、これほどとは・・・」
モブリーナ「ま、魔法騎士? ・・・つまり、魔法を使う騎士様?」
モブリン男爵「公爵領はかつて魔法王国が 栄えていた土地であり、」
モブリン男爵「他地域に比べて魔法の素質のある者が 桁違いに多いんだよ」
モブリン男爵「それに、初等学校で魔術の基礎を 教えているため、 住人のほとんどが初級魔法を扱えるんだ」
  私も簡単な魔法なら扱えます。
  でも、それは貴族としての
  たしなみであって、
  平民層にまで広く浸透しているわけでは
  ございません。
  王家にもお抱えの魔法師団が
  存在しますが、
  その数は一千にも満たないと聞きます。
  どうやら私の魔法に対する常識は、
  この地では通用しないようです。

〇武術の訓練場
モブリーナ「ア、アシュリー様! もしかして模擬試合を始める おつもりなのでしょうか?」
モブリン男爵「あの方々の戦いぶりを 拝見できるとは・・・」
モブリーナ「あの強そうな騎士様は そんなに有名な方なの?」
モブリン男爵「当然だ。黒曜騎士団の団長、 『雷鳴のザガン』様とはあの方のことだ」
モブリーナ「騎士団長様! つまり精鋭揃いの騎士団の中でも 特に実力のある方ということですわね」
モブリーナ「そんな方と手合わせだなんて、 アシュリー様は大丈夫なのかしら・・・」
  私の心配をよそに
  模擬試合が始まりました。
  騎士様たちはいったん稽古を中断し、
  全員この戦いぶりを目に焼き付けようと
  真剣な眼差しで見学しています。
  どうやら剣術の腕前については
  互角のようです。
  ですが、大柄で筋肉隆々とした体の
  ザガン様に対し、
  アシュリー様はしなやかで引き締まった
  細身の体格です。
  元々の体力が違います。
  時間が経てば経つほど、
  アシュリー様が不利になっていきます。
モブリーナ「頑張って、アシュリー様!」
アシュリー「モブリーナ様、ありがとうございます」
モブリーナ「アシュリー様ってお強いのね!」
モブリン男爵「ああ。かつて『黒曜騎士団最強』と 謳われた実力は本物だな」
モブリーナ「昔は騎士様だったの?」
モブリン男爵「前レイノルズ公の乱の際には 騎士団に属し、 内乱にも参戦していたんだよ」
モブリン男爵「負傷者の治療などの後方支援中心で、 前線には出てこなかったが・・・」
モブリン男爵「もし彼が、 その力を遺憾なく発揮していたら、 歴史が変わっていたかもしれないな」
  内乱終結から5年。
  私は当時のことをあまりよく知りません。
  しかし、騎士団付けの事務官吏である
  お父様は全容を把握して
  いらっしゃるのでしょう。
モブリーナ「最強の騎士様が、現在は家令に・・・ この5年の間に何があったのかしら?」
モブリン男爵「先ほどから感じていたのだが・・・ もしかしてお前は、 アシュリー殿のことが気になるのかい?」
モブリーナ「えっ!? ・・・き、気になるとは、 どういう意味ですの?」
モブリン男爵「はっきり言えば、 『好いているのか?』と尋ねている」
  私は持て余していた自分の感情に
  はっきりと気がつきました。
  そう、私はアシュリー様のことを
  好きになってしまったのです。

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