7.悲しき玩具(脚本)
〇怪しい部屋
「・・・・・・・・・・・・」
医者「もし、都合よく 膵臓が見つかったら連絡しますよ」
岳尾 貴美子「ありがとうございます、先生」
医者「岳尾さん 今日は寄り道しないほうがいい」
医者「早く帰って 温かいものでも食べて休むことです」
岳尾 貴美子「ええ、そうします」
医者「いいですね 寄り道は、しないことです」
〇渋谷の雑踏
〇渋谷駅前
岳尾 貴美子(人が、いっぱい、いる)
岳尾 貴美子(みんな、膵臓を、持ってる)
岳尾 貴美子(雄さんを助けられる薬を 一つずつ持ってるのね)
岳尾 貴美子(ねえ、誰かちょうだいよ)
岳尾 貴美子(こんなに、いっぱいいるんだから)
岳尾 貴美子「お願い、誰か・・・・・・」
〇黒背景
岳尾 貴美子「膵臓を取れば、死ぬ」
岳尾 貴美子「だったら、死ぬべきやつから 取ればいい」
岳尾 貴美子「たとえば」
〇超高層ビル
北 部長「まあ、万事うまくいきそうで なによりだよ」
大橋「ええ、さすが部長!」
北 部長「おだてても、昼飯くらいしか出んぞ わっはっはっは」
岳尾 貴美子「北! あのニヤケ面!!」
岳尾 貴美子(雄さんを追い詰めた張本人 あの男なら、殺しても・・・・・・)
岳尾 貴美子(いいえ、殺すかどうかは二の次 問題は、膵臓の取り出し方)
岳尾 貴美子(まさか、魚をさばくようには いかないでしょう)
岳尾 貴美子(それとなく、先生に聞いてみるか)
〇施設の廊下
岳尾 貴美子(さて、なんて切り出そう)
岳尾 貴美子(馬鹿正直に言っても 怒られるだけよね・・・・・・)
医者「帰れ! 顔も見たくない!」
〇怪しい部屋
岳尾 貴美子「どうしたんですか、大声だして」
岳尾 貴美子「調!」
調 達也「2人して酷いなあ まるで親の仇だ」
岳尾 貴美子「ここで、なにをしているの?」
調 達也「顔を見に来ただけですよ 経過観察というやつです」
医者「おまえがここにいる それだけで最悪、いや災厄だ」
調 達也「その言葉 訴えたら勝つレベルですよ」
医者「なら、そうしろ」
調 達也「はははっ しませんよ、そんなこと」
調 達也「誰が欠けても つまらなくなりますし」
岳尾 貴美子「なにを言って・・・・・・」
医者「マズい! 岳尾さん、来てください」
医者「調、おまえは来るな!」
〇病室のベッド
岳尾 雄「・・・・・・・・・・・・」
医者「ご主人! 岳尾雄さん! 聞こえますか!」
岳尾 貴美子「先生、もしかして、主人は」
医者「大丈夫、まだ大丈夫です! 絶対諦めないで」
調 達也「さっきのは容態悪化を知らせる アラームですか」
調 達也「ほぼワンオペなこの病院らしい 泣ける努力だ」
医者「出ていけと言っている!」
調 達也「さあ困りましたね このままだと雄さんは・・・・・・」
調 達也「時間がありませんよ どうしますか?」
調 達也「あの北という男を殺して 膵臓を奪いましょうか」
調 達也「ああ、アンナさんもいいですね 不貞の責任は彼女にもある」
岳尾 貴美子「黙って」
医者「そうだ、口を開くな」
調 達也「どうせ喋ったんでしょう、先生 治療法のことは」
調 達也「だったら俺にだけ黙れというのは 不公平じゃないですか」
医者「おまえの膵臓を取ってやろうか」
調 達也「できもしない癖に」
調 達也「俺のは勘弁願いますが 他の人のなら力になりますよ」
調 達也「どうです、依頼、してみますか?」
岳尾 貴美子「結構よ!」
医者「岳尾さん あなた、ここにいないほうがいい」
医者「アプリでタクシーを呼んである それに乗りなさい」
調 達也「へえ、いつの間に」
岳尾 貴美子「主人をお願いします!」
調 達也「ちょっと待ってくださいよ」
医者「行かせんぞ!」
〇タクシーの後部座席
運転手「ご予約の、岳尾さんですか」
岳尾 貴美子「はい」
運転手「どちらまで?」
岳尾 貴美子「・・・・・・市立病院まで、お願いします」
〇病院の待合室
岳尾 貴美子(なんとなく来ちゃったけど・・・・・・)
岳尾 貴美子(母さんの顔見て、帰ろう)
医師「ああ、岳尾さん、いいところに!」
岳尾 貴美子「えっ・・・・・・」
医師「あなたのお母さんが」
岳尾 貴美子「聞きたくありません」
医師「いえ、そういうわけには」
岳尾 貴美子「これ以上、なに?」
岳尾 貴美子「なんなのよ・・・・・・」
〇綺麗な病室
佐東 法子「う、う・・・・・・」
岳尾 貴美子「昨日まで、元気だったんです」
医師「はい」
岳尾 貴美子「かえってこっちが 励まされるくらいで」
医師「ええ」
岳尾 貴美子「すぐにでも、退院できそうだって」
医師「私どもも、そう思っていました」
岳尾 貴美子「じゃあなんで 意識不明なんですか?」
岳尾 貴美子「しかも、回復の見込みはないと?」
医師「ここまで容態が急変することは 滅多にありません」
医師「・・・・・・ないわけではありませんが」
医師「我々も最善を尽くしています」
岳尾 貴美子「そう、ですよね ごめんなさい。取り乱して」
医師「構いません」
岳尾 貴美子「しばらく側にいて、いいですか」
医師「どうぞ」
医師「なにかありましたら ナースコールでお呼びください」
〇水たまり
〇綺麗な病室
岳尾 貴美子「点滴も人工呼吸器も しばらくしてなかったのにね」
岳尾 貴美子「管でぐるぐる巻にされても 笑ってたっけ」
岳尾 貴美子「クリスマスツリーみたいで ちょっと可愛いでしょって」
岳尾 貴美子「母さん、どうして? 一緒に帰るんでしょ?」
岳尾 貴美子「母さんがいなくなったら、私・・・・・・」
〇綺麗な病室
岳尾 貴美子「ん・・・・・・」
岳尾 貴美子「あれ、寝てた?」
岳尾 貴美子「今、何時だろ? スマホは、どこに・・・・・・」
岳尾 貴美子「あれ、TVの横に」
岳尾 貴美子「母さんの健康保険証だ 不用心ね」
岳尾 貴美子「裏に、なにか書いて・・・・・・」
※以下の欄に記入することにより、
臓器提供に関する意思を
表示することができます。
記入する場合は、
1から3までのいずれかの番号を
○で囲んでください。
1.私は、脳死後及び心臓が停止した
死後のいずれでも、
移植の為に臓器を提供します。
岳尾 貴美子「1に、○がついてる・・・・・・」
【心臓・肺・肝臓・腎臓・膵臓・小腸・眼球】
岳尾 貴美子「はあ、はあ・・・・・・」
腎臓・膵臓・小腸
岳尾 貴美子「はあ、はあ、はあ・・・・・・」
膵臓
佐東 法子「『私は味方よ、どんなことがあっても ずっと、ずっと』」
岳尾 貴美子「はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ! はあ!」
トコロテンのように、決まった一方向に自然と押し出され
るのを感じます。名前にも意味があるんですねー、ビックリです。