阿鼻獄の女

高山殘照

8.グッド・バイ(脚本)

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〇黒

〇屋上の隅
岳尾 貴美子「・・・・・・・・・・・・!」
岳尾 貴美子「・・・・・・!」

〇屋上の入口
岳尾 貴美子「はい」
市立病院・医師「もしもし! 今、どちらですか?」
市立病院・医師「たいへんお伝えし辛いのですが」
岳尾 貴美子「母の、ことですか」
市立病院・医師「はい、残念ながら・・・・・・」
岳尾 貴美子「・・・・・・」
市立病院・医師「それと、調という男が 押しかけてまして」
岳尾 貴美子「調が?」
市立病院・医師「なんでも、 お母様を引き渡せ、と」

〇綺麗な病室
調 達也「やあ、どこに行ってたんですか?」
岳尾 貴美子「あなた、こんなときに こんなところで!」
調 達也「お母様の死に目に会えなくて 残念でしたね」
調 達也「ええ、実に残念だ」
岳尾 貴美子「調!」
医師「ですから、困ります! ご遺体を勝手に持ち出されるのは」
天間 弁護士「勝手に、ではありませんよ ほら、こうして書類が揃ってる」
天間 弁護士「法的には何ら問題のない行為です 私が保証します」
岳尾 貴美子「この人は?」
調 達也「弁護士の天間(てんま)先生です 昔からの知り合いで」
天間 弁護士「おいおい せめて友人くらい言ってほしいな」
天間 弁護士「岳尾貴美子さんですね 天間です。どうぞよろしく」
岳尾 貴美子「弁護士まで連れてきて なにする気?」
調 達也「決まってるじゃないですか お母様から膵臓を頂くんです」
調 達也「義理の息子のために 内蔵を快く差し出す」
調 達也「まさに美談だ 涙が止まらない」
医師「そんなこと、許されるとでも?」
天間 弁護士「許されるんですよ! 法的根拠と正当な手続きさえあれば!」
天間 弁護士「先生、あなたも専門家だ」
天間 弁護士「素人からの難癖には 日々うんざりしているクチでしょう」
天間 弁護士「医療のことならお医者に任せます 法律のことは、弁護士にお任せください」
医師「移植手術をやるのか?」
天間 弁護士「まあ、そんなものです」
調 達也「ちゃんとこちらにも 腕の立つ医者がいますから、ご安心を」
調 達也「さあ一刻を争う お母様を丁重にご案内しましょう」
医師「岳尾さん あの男たちはなんなんだ?」
医師「長年色々な人間を見てきたが あんな悪辣な連中見たことがない」
岳尾 貴美子「関わり合いにならないことです 先生まで、巻き込まれてしまう」
医師「あなたは?」
岳尾 貴美子「きっともう、手遅れです」

〇病室のベッド
医者「終わりましたよ 一切、成功です」
医者「すぐにご主人の数値も安定し 快復されることでしょう」
岳尾 貴美子「ありがとうございます」
医者「お礼をいわれることなんて、なにも」
岳尾 貴美子「いいえ、感謝しなければ 母が報われません」
医者「・・・・・・お母様のことですが よろしければ、こちらで葬儀の」
岳尾 貴美子「いいえ。少しの間、 母はそのままにしておいてください」
医者「は? それはどういう」
岳尾 貴美子「先生には、ご迷惑おかけします」
医者「そうですか 私としても、前に申し上げたとおりです」
医者「責任もって、お付き合いしますよ」

〇警察署の入口
調 達也「警察署なんかに来て どうするつもりですか?」
調 達也「落とし物なら、無償で探しますよ」
岳尾 貴美子「わかってるくせに 自首しに来たのよ」
調 達也「ほう、自首! 何の罪を?」
岳尾 貴美子「まっすぐこっちを見て まるで、なにも知らないみたい」
岳尾 貴美子「私は母の人工呼吸器と 点滴を外した」
岳尾 貴美子「そして、その場を離れた」
調 達也「すると未必の故意 あるいは、尊属殺人」
岳尾 貴美子「それだけじゃない 雄さんに対しても数々の罪を重ねた」
岳尾 貴美子「罪を犯せば当然、裁かれる それが法治国家でしょう」
調 達也「なるほど、見上げたものです なかなか実行できる人はいない」
調 達也「それほどの覚悟なら 俺も止めたりしませんよ」
岳尾 貴美子「そう」
調 達也「代わりに 有能な専門家を紹介しましょう」
天間 弁護士「どうも」
岳尾 貴美子「天間弁護士・・・・・・」
天間 弁護士「断るなんて言わないでくださいね どのみち、裁判に弁護士は必須なんです」
天間 弁護士「誰が来るかもわからない国選弁護士より 私のほうが、マシというものですよ」
岳尾 貴美子「別に、減刑なんて望んでないけど」
天間 弁護士「おお、ではなおさら私が必要だ 依頼人の希望を叶えるのは得意でして」
岳尾 貴美子(依頼人、か)
岳尾 貴美子「いいわ、好きにして」
天間 弁護士「それは重畳 では、まいりましょう」
岳尾 貴美子「調、面会には来なくていいから」
岳尾 貴美子「いえ、絶対に来ないで」
岳尾 貴美子「もう会うことはないでしょう さようなら」
調 達也「寂しいこと言うなあ ふふふふ」
調 達也「俺のほうは、まだまだお会いしたい いや、何度だって会えますよ」
調 達也「ねえ、岳尾さん」
調 達也「たーけーおーきーみーこーさーん」

〇テレビスタジオ
キャスター「本日のNEWS LEVEL UP 特集は、もちろんあの話題です」
キャスター「岳尾貴美子容疑者が逮捕され50日 いよいよ注目の裁判が行われます」
キャスター「実の母親を殺害し 夫への暴行を繰り返した岳尾容疑者」
キャスター「裁判員裁判で行われるこの裁判 傍聴席も抽選となる見込みです」

次のエピソード:9.彼女の番

コメント

  • 今回も怒涛でした。調の目的が、まだまだ、わかりませんねー。因果応報なら、お互い様ですよね。

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