10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在ミグ

第14話 LLPAWM(脚本)

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〇怪しいロッジ
ハイヌヴェレ「それで?」
ハイヌヴェレ「私は何を話したら良いんだい?」
アメタ「LLPAWMを作った理由は?」
ハイヌヴェレ「無論、仕事だったからだよ」
ハイヌヴェレ「当局としては一刻も早く、自国の人口を把握しておきたかったんだろうね」
ハイヌヴェレ「必要な食糧を確保し、それを管理する為には」
アメタ「仕事とは?」
ハイヌヴェレ「私も黒孩子なのだよ」
ハイヌヴェレ「それまでは不正な戸籍で働いていたのだが、」
ハイヌヴェレ「党の命令でLLPAWMを作れば、正規の戸籍を与えると言われた」
ハイヌヴェレ「とても魅力的な報酬だった」
  成程。集落の子供達の世話を焼いていたのはそのせいか。彼女にとっては同胞なのだ。
  それにしても戸籍が欲しいとはどんな感覚なのだろう。
  生まれた瞬間から社会の一部に組み込まれてしまう世界で育っていると、どうにも理解し難い感情だ。
アメタ「具体的にLLPAWMとは?」
ハイヌヴェレ「名前通りの代物だよ」
ハイヌヴェレ「生存限界数人口調整監視分子群」
ハイヌヴェレ「VMAT2という遺伝子をレセプターに感染する」
アメタ「VMAT2?」
  また訳のわからない単語が出てきた。いい加減にしてほしい。
ハイヌヴェレ「通称『神の遺伝子』或いは『幸福の遺伝子』だ。人の信仰心を司る」
ハイヌヴェレ「これは誰もが保持している」
  急に話が抹香臭くなった。
  怪しい宗教なら母さんだけで間に合っている。
アメタ「僕は無宗教です」

〇魔法陣
ハイヌヴェレ「信仰と宗教は違う」
ハイヌヴェレ「信仰は生まれつき備わっている先天的なものだが、」
ハイヌヴェレ「宗教は生活していく過程で手に入れる教義なのだよ」
ハイヌヴェレ「総じて私達の様な科学者は皆、合理主義であり、宗教については否定的な立場をとる事が多い」
ハイヌヴェレ「だが、科学に対する信仰心は持っている」
ハイヌヴェレ「或る意味、科学というものそれ自体が宗教かも知れないが、」
ハイヌヴェレ「体系化された宗教を信仰するかどうかは人それぞれだ」
アメタ「・・・・・・」
アメタ「VMAT2は誰でも持っている」
アメタ「特定の教義に属していなくても、VMAT2をレセプターにLLPAWMに感染する・・・・・・」
ハイヌヴェレ「然り。信仰心さえ持っていれば誰でも感染する」
アメタ「つまり、その・・・・・・ 自分が信じる絶対的な『何か』」
アメタ「民族、愛国心、カネ、学歴、仕事、結婚、恋愛・・・・・・」
アメタ「宗教の顔をしていなくても?」
ハイヌヴェレ「然り」
  成程。人口を管理する上で、これ程最適なものもないだろう。
アメタ「しかし・・・・・・」

〇モヤモヤ
アメタ「そんな都合の良いものが・・・・・・」
ハイヌヴェレ「作った。というより、原型となるものがあったのだよ」
ハイヌヴェレ「覚えているか?」
ハイヌヴェレ「食糧危機の引き金にもなったウイルス」
  日本の歪んだ食糧事情が生み出したエマージング・ウイルスだ。
  土壌を修復不可能なまでに汚染し、食料自給率を更に下げた、或る意味諸悪の根源。
ハイヌヴェレ「研究は進み、新薬が開発されて、事態はあっという間に収束したが、ウイルス自体を根絶した訳じゃない」
アメタ「ウイルス株が国外に持ち出されていた?」
ハイヌヴェレ「よくある話さ」
アメタ「そうか。そのウイルスをベースにしてLLPAWMを・・・・・・」
ハイヌヴェレ「研究の結果、ウイルスは細胞外に於いても完全な粒子構造を持ち、感染性を有する事が明らかになった」
ハイヌヴェレ「そう・・・・・・」
アメタ「ビリオン化していた・・・・・・」

〇動物
アメタ「では生存限界数というのは?」
ハイヌヴェレ「所謂、キャリング・キャパシティというやつだ」
ハイヌヴェレ「生物には予め、生存出来る限界数が決まっているのだよ」
  ネコはネズミを食べ、数を増やす。
  しかし食べ過ぎれば、ネズミの数も減ってしまう。
  食べられる危険が減るので、今度はネズミの数が増える。
  すると餌の数が増えるので、今度はネコの数が増える。
  そしてまた・・・・・・
ハイヌヴェレ「という具合だ。単純な例ではあるが」
アメタ「人間の生存数は限界にきている?」
ハイヌヴェレ「百億は少ない数字ではない」
ハイヌヴェレ「しかしこの例え話は、生物が環境に適応した結果」
ハイヌヴェレ「『そこに居続ける為には、常に移動し続けなければならない』」
アメタ「赤の女王仮説・・・・・・」
ハイヌヴェレ「しかし人間は己の都合で環境の方を自分達に合わせ、改良してきた」
ハイヌヴェレ「限界数そのものをコントロールしているのだよ」

〇怪しいロッジ
アメタ「それがLLPAWM?」
ハイヌヴェレ「しかし、あれはあくまでも監視が目的のもの」
ハイヌヴェレ「人の身体をどうこう出来るものではない」
ハイヌヴェレ「幼児退行させる機能などない」
アメタ「・・・・・・」
ハイヌヴェレ「今、研究しているものは環境を変化させるものだがね」
アメタ「ああ、テラフォーミング・ウイルスの事ですね」
ハイヌヴェレ「名前はまだ付けていないし、効果も定かではない」
  しかし子供達の生活、この小屋の環境を見る限り、少なからず効果はありそうだ。
  もしかしたら食糧危機も少しはマシになるかも知れない。
アメタ「監視というのは? 誰かが見張っている?」
ハイヌヴェレ「・・・・・・」
ハイヌヴェレ「『かまどの番人』(ウェスタ)・・・・・・」
ハイヌヴェレ「食糧危機をいち早く察知した政府の有力者、食糧関係者のトップ、一部の科学者から成る秘密結社だ」
  やれやれだ。
  宗教の次は陰謀論か。勘弁してほしい。
アメタ「だとするなら、そのウェスタとかいう連中が幼児退行を引き起こしているのでは?」
ハイヌヴェレ「その可能性は考え難い」
ハイヌヴェレ「繰り返すがLLPAWMにそんな機能はない」
ハイヌヴェレ「大体、幼児退行などさせて誰が得をするのだよ」
  確かにその通りだ。世界征服でもしたいなら方法は他に幾らでもある。
  シンノウにも言ったが、世界中に幼児が溢れてしまったら、それは支配ではなく育児でしかない。
ハイヌヴェレ「出来る事といったら、精々LLPAWMによって把握した人口の多い場所に、」
ハイヌヴェレ「PMSCsでも派遣して、戦争による人口調整をする程度だ」
ハイヌヴェレ「でもそれはLLPAWMの機能とは直接関係がない」
アメタ「やけに詳しいんですね」
ハイヌヴェレ「だって私も、ウェスタの元構成員だからね」
アメタ「なっ・・・・・・」
アメタ「もしかして、こんな辺境な土地で暮らしているのも?」
ハイヌヴェレ「然り。ウェスタの活動に嫌気が差したからだよ」
ハイヌヴェレ「今やLLPAWMは世界中の政府がばら撒いている」
ハイヌヴェレ「人類を監視、管理しようなんて、おこがましいにも程がある」
ハイヌヴェレ「人は可能な限り自然と共存して生きるのが一番なのだよ」
アメタ「奴らは・・・・・・ ウェスタは何処に?」
ハイヌヴェレ「これまでの話を統合すれば見当は付くんじゃないかな?」
ハイヌヴェレ「食糧監察官殿」
  LLPAWMは世界中の政府が配給している食糧に添加されている。
  目的は人類の監視。
  構成員には食糧関係者も含まれる・・・・・・
アメタ「まさか・・・・・・」

〇近未来の会議室

〇怪しいロッジ
アメタ「ケレス代表が?」
ハイヌヴェレ「然り。FAOの代表監察官、ケレス・デメテルはウェスタの上級メンバーだ」
  なんてこった。
  まさか直属の上司が黒幕の一味とは。
  幼児退行を引き起こし、一方で僕に調査をさせる。
  一体どういうつもりなのか?
アメタ「・・・・・・」
  ともあれ、次の行き先は決まった。
  FAOの本部、ローマだ。

〇怪しいロッジ
アメタ「博士、一緒に下山しませんか?」
ハイヌヴェレ「何故?」
ハイヌヴェレ「年に一度くらいなら降りているよ?」
アメタ「そうじゃなくて・・・・・・」
アメタ「子供達が貴女を待っています」
ハイヌヴェレ「それは、ずっとあの子等と暮らせ、と?」
ハイヌヴェレ「最低限の知恵は授けた」
ハイヌヴェレ「親がなくとも、子は育つものだ」
アメタ「彼ら、彼女らは人間です」
アメタ「獣じゃない」
アメタ「導いてやる大人が必要です」
ハイヌヴェレ「まるでウェスタの言い分だな」
ハイヌヴェレ「その思想は危険だよ」
  育児と管理。教育と洗脳。
  自由と無秩序。自立と孤独。
  どれも紙一重。難しいものだ。
アメタ「人間らしい生活をさせてやりたい」
アメタ「それは支配でも何でもないだろう」
アメタ「そう思ったから、あんただって世話を焼いていたんじゃないのか?」
ハイヌヴェレ「・・・・・・」
ハイヌヴェレ「君は大した大人だね」
ハイヌヴェレ「いや、お人好しかな?」
アメタ「大人の振りをしているだけですよ」
ハイヌヴェレ「良いだろう」
ハイヌヴェレ「しかし気を付けた方が良い」
ハイヌヴェレ「その発想は極めてウェスタに近い」

〇岩山
アメタ「・・・・・・」
ハイヌヴェレ「・・・・・・」
アメタ「あんた、どういう体力してんだ・・・・・・」
  ハイヌヴェレ博士はサバイバルの達人だった。
  どう考えても体力的に優れているのは、僕の方だと言うのに。
  休憩を申し出るのは毎回僕からだった。
  こんな華奢な身体のどこに、そんな力が備わっているのか。
ハイヌヴェレ「小さいから消費カロリーは少なくて済む」
ハイヌヴェレ「君の身体は燃費が悪いのだよ」
ハイヌヴェレ「それに無駄な動きが多い」
アメタ「左様ですか・・・・・・」
ハイヌヴェレ「ベッドの中でも奥さんにリードされているのかい?」
アメタ「・・・・・・独身です」
ハイヌヴェレ「哎呀(アイヤー)!?」
ハイヌヴェレ「それは失礼した」
ハイヌヴェレ「そっかー・・・・・・」
ハイヌヴェレ「そうか。そうか・・・・・・」
ハイヌヴェレ「我想成为你的爱人」
アメタ「え? なんです?」
ハイヌヴェレ「何でもないよ」

〇村の広場
黒孩子「あっ!」
黒孩子「ハイヌ先生!」
ハイヌヴェレ「ああ、えぇと・・・・・・」
アメタ「さあ、ほら」
ハイヌヴェレ「あ、ああ・・・・・・」
ハイヌヴェレ「なんか、照れくさいな・・・・・・」
「・・・・・・」
ハイヌヴェレ「た・・・・・・」
ハイヌヴェレ「ただい、ま?」
「おかえりなさい!」
アメタ「・・・・・・」
ウリコ「おじさん!」
アメタ「ただいま」
ウリコ「おかえりなさい!」
ムルア「収穫はあったか?」
アメタ「詳しくは機内で話す」
ムルア「次は何処へ行くんだ?」
アメタ「ローマだ。FAOの本部がある」
アメタ「それに君の透析もしなきゃいけない」
アメタ「少し急ごう」
ムルア「・・・・・・良いのか?」
アメタ「ああ。家族団欒の邪魔をしちゃ、悪いからね」

次のエピソード:第15話 大気津アメタによるレポート

コメント

  • 説明回って作るの難しいや!って思うの超同意なんですけど、面白そうなワード羅列させられて興味惹かれた暁にはのめり込んで勉強してました😂
    組み込みますねェ色んな要素!SF系の知識の説明が凄く難しいですしそういう話書きたいんですけど、自分が取り扱ったら破綻しないか心配しちゃいます…在ミグさんすげえ😇

  • 話難しいな、と思ったところでアメタが適度にツッコんでくれるので、説明もストレスがなかったです😊
    動物壁紙の使い方にテンションあがりました。こんな効果的に使う!?😆退屈させず世界に入り込ませる手腕がさすがです。
    二組のただいまとおかえりにじ~んとなりました✨️

  • なるほど、分かったぜ!
    黒幕は赤ちゃんプレイをするのが好きな特殊層だ!(白眼)

    そして次はイタリア、ローマ編!
    よっしゃ、ピッツァを用意して待っているぜ!

    ……オイオイ、次は総集編だと……?

    オヤジ! ピッツァを2枚追加だッ!!!!

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