〇住宅地の坂道
ハイジ「ア♪アン♪アオーン!! アアン、アンッ♡♡」
三澤梨々花「ぜえ、はあ・・・ま、待ってぇ～💦」
三澤梨々花「楽しそうで何よりだけど・・・ こっちのことも考えて走ってよーっ！」
ハイジ「ーーアオ？」
ハイジ「フンッ!!!」
三澤梨々花「くぅーー！　わざとやってるでしょ！ ほんっとに生意気ー!!」

〇平屋の一戸建て
緑川「梨々花さん、ハイジ　 おかえりなさい」
三澤梨々花「緑川さん、いらしてたんで・・・」
ハイジ「アオゥン!!　アオーーーンッ♡♡」
緑川「ははは、ハイジ元気だね」
三澤梨々花（つ、突き飛ばされた・・・！　 なんてパワー！）
三澤梨々花「お、お疲れ様です。緑川さん 原稿の進捗確認ですか？」
緑川「いえ、原稿は今朝データで頂きました 予定通りに」
緑川「なので労いに夕食でも、と思いまして 先生を迎えに」
三澤梨々花「ああ、それで今日はハイジの散歩だけでいいって・・・」
　　ーーガラッ（玄関が開く音）
緑川「先生、お疲れ様です」
三澤梨々花（わ・・・！　いつもと雰囲気違う・・・！ ヒゲもない、髪も整ってる！）
落合はるか「・・・なんだよ、ジロジロと」
緑川「やはり先生はカッコいいなと思いまして 普段はコケが生えてきそうな有様ですけど」
落合はるか「お前がポイポイ仕事ぶち込むからだろーが」
緑川「だって先生 きっちりこなしてくれるんですもん 信頼の証ですよ♡」
三澤梨々花（す、すごい・・・！ あんな凶悪な目つきで睨まれても 緑川さん動じない！　さすが担当！）
緑川「あ、梨々花さん、すぐに行けますか？」
三澤梨々花「え？　私もですか？」
緑川「ええ 梨々花さんの歓迎会も兼ねてなので 乃梨子さんの許可は取ってありますよ」
緑川「彼女もお誘いしたんですが 今夜は接待だそうですね なので３人で、ですが」
三澤梨々花「ええっ、いいですよ！　 わざわざ歓迎会なんて」
緑川「ダメです 原稿後に先生がまともでいられたのは 初めてなんですから！」
緑川「梨々花さんの栄養満点な食事のおかげですバイトのない日の分も作り置きしてくれていたでしょう？」
緑川「だからせめてものお礼です おいしいものご馳走しますよ。 ね、先生」
落合はるか「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
三澤梨々花（（面倒くせぇ、って思ってる気配がダダ漏れなんですけど））
三澤梨々花「あ、ありがとうございます でもハイジのブラッシングがまだ・・・」
落合はるか「・・・いいよ、帰ったらオレがやる」
落合はるか「ケージにも入れとくから ・・・荷物とってきたら」
三澤梨々花「は、はい！ すぐ行ってきます」
緑川「・・・・・・クス」
落合はるか「・・・何笑ってんだよ」
緑川「いえ・・・先生なんで今回 嫌がらなかったのかなぁと思って 他人と食事するの苦手でしょう？」
緑川「僕だって誘っても滅多にOKもらえないのに・・・・・・ 梨々花さん、ずるいなぁ」
落合はるか「敬意を払えだの、丁寧に接しろだの しつこく言ってきたのはお前だろ」
緑川「それでも、受け入れるのが早いと思いますけど・・・」
緑川「・・・キリエさんの時より、早いのでは？」
落合はるか「キリエは関係ねえだろ ・・・まあ食えるメシを作れるやつが貴重だってのは認める」
緑川「素直じゃないなぁ」
緑川「先生、好きなものはね ちゃんと好きって言わないと、誰かにとられちゃいますよ・・・また」
緑川「あなた、恋愛小説家のくせに 不器用ですよねえ」
緑川「じゃあ僕、車に行ってるので 梨々花さん連れてきてくださいね」
落合はるか「・・・・・・はあ」

〇渋谷のスクランブル交差点

〇寂れた雑居ビル

〇シックなバー
紅「いらっしゃい 待ってたわよ、千里ちゃん♪」
緑川「こんばんは、紅（ホン）さん あれ？お化粧変えました？ 素敵ですね」
紅「やっだ～わかる?? さっすが千里ちゃん、よく気がつく～♡」
紅「今日はイロ男二人が来るっていうから いつもより張り切っちゃったのよ～♡」
落合はるか「・・・全然わからん いつも通りの厚化粧だろ」
紅「まっ（＃°言°） 顔以外はホントにかわいくない子！」
紅「少しは千里ちゃんを見習って レディに気を遣いなさいよっ」
落合はるか「レディって・・・紅さんはオカ」
紅「ヤボなこと言うんじゃないわヨ！ 見なさい、この美貌を✨ そんじょそこらの小娘には負けない 美貌を!!!!」
紅「それに確かにカラダは男の子だけどね レディのハートもちゃんと・・・・・・ん？」
三澤梨々花「こ・・・こんばんは・・・」
緑川「紅さん、紹介しますね 先生のハウスキーパーをお願いしている 梨々花さんです」
緑川「乃梨子さんの妹さんです」
緑川「梨々花さん、こちらは ダイニングバー『Scarlet（スカーレット）』のオーナー、紅さんです」
三澤梨々花「は、はじめまして💦」
紅「あら♡」
紅「あらあらっ♡♡ ま～この子がノリティの妹さん！ はじめまして、紅星華（ホンシンホワ）よ」
三澤梨々花（（ノ、ノリティ？））
紅「パパが台湾人、ママが大和撫子のハーフなの。よろしくね♡♡」
三澤梨々花「三澤梨々花です いつも姉がお世話になってます」
紅「まっ、礼儀正しい！ ガサツなノリティの血縁とは思えないわね しかも食べちゃいたいくらい かわいいわ～～♡♡」
落合はるか「気をつけろよ その人、男も女も大好物なバイだから」
三澤梨々花「えっ!?　あ、あの💦」
紅「冗談よぉ♡ 常連客の大事な妹に 手を出すわけないじゃないの」
紅「梨々花ちゃんなら、『リリー』ね♡ ごめんなさいね、立ち話しちゃって さ、二階へどうぞ」

〇おしゃれなレストラン
紅「飲み物はどうする？」
緑川「僕たちはいつもので。 梨々花さんにはノンアルコールのカクテルか何かを」
紅「了解 フードはお任せでいいわよね じゃあ持ってくるわね♪」
三澤梨々花（紅さん・・・インパクトある人だなぁ お姉ちゃんの交友関係って、謎・・・💦）
緑川「梨々花さん、びっくりしちゃいましたか？ なかなかインパクト強い人でしょう」
緑川「でも紅さん あれでも元イタリアンのシェフで バーテンダーでもあるんですよ」
緑川「紅さんのチャイニーズ・イタリアンは絶品なので、楽しみにしていてください 偏食な人気作家の胃袋も鷲掴みにしたくらいなので」
落合はるか「・・・オレは好き嫌いがあるわけじゃねえ 添加物とか加工品が苦手なだけだ 食おうと思えば、何でも食える」
三澤梨々花「中華風イタリアンてことですか!? すごーい！楽しみです！」
三澤梨々花「でも加工品、添加物がダメって 先生は今までゴハンはどうしてたんですか？」
落合はるか「食ったり食わなかったり・・・ まあテキトー」
落合はるか「でも執筆中は頭が回らねえから 仕方なく栄養補助食品とかドリンク剤を胃に流し込んで」
緑川「ね、こういう人なんですよ！ 自分の体を全然大事にしない！」
緑川「なので時々、紅さんに先生の好みそうな料理をお弁当にしてもらって 差し入れしていたんです」
三澤梨々花（（年上で・・・大人なのに・・・ 手のかかる人だなあ・・・））
落合はるか「・・・おい 今「コイツどうしようもねえ」って思っただろ」
三澤梨々花「えっ、そんなことないデス 大変だなあと思っただけデス」
紅「ハァーイ、おまたせ♡」
紅「千里ちゃんはコロナ ユウはスケアクロウ そしてリリーにはベリーズビューティ♡ アタシオリジナルの、ノンアルカクテルよ♪」
三澤梨々花「ありがとうございます♪ わ～キレイな色！夜明けの空みたい」
三澤梨々花「あの、今「ユウ」って呼んだのは 先生のことですか？ ニックネームですか？」
紅「そ♪ この子の名前ね、漢字で悠久の「悠」と「河」と書いて「はるか」だから」
紅「中国語と日本語の「悠」の発音は同じなの だからそっちのほうが呼びやすくてね♪」
三澤梨々花「先生の名前って本名なんだ」
紅「名字は違うわよね この子実はけっこうなおぼっちゃまなのよ 代々、弁護士とか警察官僚の家系で 確かお父様も・・・」
落合はるか「紅さん、その話はカンベン ・・・ちょっと外でタバコ吸ってくる」
紅「あらやだ、まだ確執中なの？ アタシ、やっちゃった？」
緑川「・・・ええ、まだお父様とは絶縁状態みたいで」
三澤梨々花（絶縁!?）
紅「そうなの キャリアの父親を持つっていうのも大変ね じゃあ実家にも、出て以来一度もまだ帰ってないわけね」
緑川「ええ 実家にいる弟さんとは 定期的に会っているみたいですが」
紅「サミーね！ 笑顔がかわいい、いい子よねぇ♡ かわいげのないユウとは大違いよ」
紅「まあでも、ユウの文才だけは 非凡なものよね あの仏頂面の下によく隠し持ってたわよ」
三澤梨々花「落合先生の小説って そんなにすごいんですね・・・」
紅「あら、リリーまだ未読？ そうね、人を惹きつける力はハンパないわ」
紅「静謐で淡々としてる文体なのに 退屈さが一瞬もない グッとハートを掴んで、そのまま物語の世界へ引きずり込んでく引力があるの」
紅「一度読んだら中毒になる感じ あんな生意気なボーヤが恋愛小説なんて書くとは思わなかったけど、作品は最高」
緑川「当然です 僕が惚れ込んだ方ですから♡」
三澤梨々花「先生は、どうして恋愛小説を？ その・・・失礼ですけど、本人と結びつかないというか」
緑川「ふふ、そうですよね 先生は「得体がしれないものだから、書く」と仰ってましたよ」
三澤梨々花「得体の知れない・・・・・・？」
緑川「「恋」とか「愛」って誰でもよくわからないものじゃないですか」
緑川「答えもないしカタチもない 訪れるタイミングもわからない 欲しくても手に入らないし、手放したくても消えてくれない」
緑川「恋愛は幸福に直結する感情ではない 落合はるかが描くのは、その「理不尽さ」です ひねくれているでしょう？」
三澤梨々花「・・・理不尽さ 私には・・・よくわからないです」
緑川「ふふ、百聞は一見に如かずといいますし よかったら読んでみますか？」
緑川「『カーディナル（情熱）』の第１巻です 差し上げますよ 先生を理解するには、作品を読んで頂くのが一番なので」
三澤梨々花「ありがとうございます ・・・そうですね、読んでみます」
三澤梨々花（恋愛小説苦手なんて言ったけど・・・ でも、バイトするって決めた以上 雇い主のことはちゃんと知らないとだよね）
三澤梨々花（（これを読めば、先生のこと少しはわかるようになるかな・・・））
紅「じゃあアタシは下に戻るわね お料理も運ばなきゃだし」
紅「・・・あら、あの子・・・」
キリエ「はるか!!」