2話 愛と裏切り(脚本)
〇レトロ喫茶
神山琉生「これが約束の紹介料です」
神山琉生「僕の講義が拙いせいで安田さんに損をさせてしまい、本当に──」
安田千佳「もう取りつくろわなくていいわよ。 あなた、詐欺師なんでしょ?」
神山琉生「おや、そんなことを言っていいんですか?」
神山琉生「もし僕が詐欺師だとしたら、あなたも立派な共犯ですよ」
安田千佳「ッ──」
神山琉生「僕は善良な株式投資セミナーの講師です」
神山琉生「そしてあなたは、善意で早苗さんに僕を紹介した」
安田千佳「・・・この、ペテン師」
神山琉生「何とでも言ってください」
安田千佳「あんた、早苗に何をするつもり? もし、早苗に何かあったら──」
神山琉生「どうするんですか? 僕を告訴したら、安田さんの家庭は壊れてしまいますよ」
安田千佳「くっ・・・」
神山琉生「親友を金で売ったこと、今さら後悔しているんですか?」
安田千佳「それは、早苗が──」
神山琉生「お金があることを無自覚にひけらかしてきて、腹が立ったから?」
安田千佳「そうよ。本当に無神経なんだから!」
神山琉生「気持ちはわかりますが、ただの妬みですよね」
安田千佳「うっ・・・ 悪かったと思ってるわよ」
神山琉生「でしたら、早苗さんのメンタルケアはしっかりお願いしますよ」
安田千佳「メンタルケア?」
神山琉生「彼女には、きっとあなたのような友人が必要です」
安田千佳「どういうこと・・・?」
神山琉生「では、僕はこれで」
安田千佳「──あんた!」
神山琉生「まだ何か?」
安田千佳「いつか、地獄に落ちるわよ!」
神山琉生「そのときは、あなたも一緒です」
〇数字
〇高級マンションの一室
木村早苗「もう、いやぁぁ」
木村早苗「なんで? 私の何がいけなかったの?」
神山琉生「・・・早苗?」
木村早苗「もうダメ。何も考えたくない・・・」
神山琉生「そっか。じゃあ、ご飯は俺が作るね」
木村早苗「えっ、そんな。居候してるんだから、私が──」
神山琉生「早苗は今まで家事で忙しかったんでしょ」
神山琉生「今日はゆっくり休んでて」
〇システムキッチン
〇高級マンションの一室
木村早苗「わぁ、上手! それに、すごくヘルシー!」
神山琉生「もっとがっつりした料理がよかった?」
神山琉生「実は俺、病気で肝臓が悪くて、あまり脂っこいものを食べられないんだ」
木村早苗「そうだったの」
木村早苗「じゃあ私も健康にいいお料理を覚えなきゃね」
木村早苗「んんー! おいしい!」
神山琉生「早苗に褒められると、すごく嬉しいよ」
木村早苗「ごめんね、琉生。 株がうまくいってなくて・・・」
木村早苗「いつも焦って取引に失敗しちゃうの」
神山琉生「それは──」
神山琉生「もしかしたら元手が少なすぎるのかもしれないね」
木村早苗「少ない? 100万円もあるのに?」
神山琉生「100万円じゃ、色々な企業の株を同時に買うことはできないよね」
神山琉生「もっと資金があれば、投資先を分散してリスクを減らすことができるんだ」
神山琉生「それに、資金があるほど精神的な余裕も生まれる」
神山琉生「電話でも話したように、実家からお金を借りてみるのはどう?」
木村早苗「・・・でも、私が投資をやりたいなんて言って、貸してくれるかな?」
神山琉生「目的まで正直に話すことはないよ」
木村早苗「えっ」
神山琉生「だって、ご両親に心配かけるでしょ」
神山琉生「借りたお金を倍にしてから打ち明けた方が、きっと喜んでもらえるよ」
木村早苗「──たしかに、そうね」
〇開けた高速道路
木村早苗(お金── お金が欲しい!)
神山琉生(・・・)
〇屋敷の門
神山琉生「行っておいで。俺は近くで待ってるから」
〇古風な和室(小物無し)
〇屋敷の門
神山琉生「どうだった? ──って、聞くまでもなさそうだね」
木村早苗「お金、貸してくれた」
木村早苗「1000万」
神山琉生「早苗の家って、お金持ちなんだね」
木村早苗「そんなことないよ。お父さんとお母さんがこつこつ貯めてくれてて・・・」
――本当にこれでよかったのだろうか?
神山琉生「・・・」
〇レストランの個室
神山琉生「・・・じゃあ、成功して、立派になって、ご両親に恩返ししないとね」
木村早苗「・・・うん!」
神山琉生「ご主人のことは、大丈夫そう?」
木村早苗「うちの両親はまだ知らないみたい」
木村早苗「あの人、世間体を気にするタイプだから、妻に逃げられたとは言えないんだと思う」
神山琉生「そうか。とりあえず、今そのことは考えないでおこう」
神山琉生「精神的なストレスは、投資家としての心理にも悪影響を与えるからね」
木村早苗「そうね。でも、今さらだけど、怖くなってきちゃった」
木村早苗「光浩さん、きっとすごく怒ってる・・・」
神山琉生「大丈夫だよ。 もし何かあったら、俺が早苗を守るから」
神山琉生「早苗に悲しい思いはさせない。 俺だけは、何があっても早苗の味方だよ」
神山琉生「だから、安心して」
木村早苗「琉生・・・」
木村早苗「夫はそんなこと、一度も言ってくれなかった」
木村早苗「琉生、ありがとう!」
木村早苗「私もがんばらなきゃ。 さっそくこのお金を証券会社の口座に──」
神山琉生「待って」
神山琉生「今は慎重になった方がいい。早苗は大きな金額を運用するのが初めてなんだから」
神山琉生「まずは少額の取引を続けながら、イメージトレーニングから入るんだ」
神山琉生「お金はうちの空いている金庫に入れるといい。暗証番号も早苗が決められるから」
木村早苗「じゃあ、そうしようかな。株については、これから勉強することがたくさん・・・」
神山琉生「少しずつ上達していこう。 俺が全力でサポートするよ」
木村早苗「ありがとう。何から何まで・・・」
神山琉生「いいんだ。早苗、愛してる」
木村早苗「私もよ、琉生。愛してる」
〇一人部屋
〇黒
〇一人部屋
木村早苗「あれ、琉生・・・?」
〇高級マンションの一室
〇部屋の前
木村早苗「琉生、いないの!?」
まさか──
〇一人部屋
木村早苗「ない・・・!」
木村早苗「私のお金がないッ!」
まさか、まさか、まさか──
木村早苗「琉生!?」
〇シックな玄関
作業着の人「お邪魔します」
木村早苗「あの、どちら様ですか?」
作業着の人「こちらのお宅の清掃と家具の処分を依頼された者ですが」
木村早苗「そ、そんなはずありませんっ!」
作業着の人「と、言われましても・・・」
木村早苗「そんな──」
木村早苗「嘘よ、私・・・」
〇手
騙された!!
〇マンション前の大通り
木村早苗「──・・・」
安田千佳「早苗!」
木村早苗「ちかぁ・・・」
安田千佳「大丈夫。大丈夫だからね」
安田千佳「どこかお店に入ろう」
木村早苗「ううっ・・・」
〇レトロ喫茶
安田千佳「ほら、あったかいうちに飲んで」
木村早苗「ううっ、琉生・・・。ひどいよ・・・」
安田千佳「もう警察には相談したの?」
木村早苗「ううん。まだ・・・」
安田千佳「そうだよね。まだ気持ちの整理も付かないよね」
木村早苗「どうしよう。私もう、家に帰れない。実家にも帰れないよぉ・・・」
安田千佳「早苗、ごめんね──」
木村早苗「え?」
安田千佳「あ、ううん。私が、そんな人だと知らずに紹介したせいで──」
木村早苗「千佳のせいじゃ、ないよ・・・」
木村早苗「だって、千佳は不倫なんてしなかったでしょ・・・」
安田千佳「――う、うん」
木村早苗「私だけが騙された・・・。バカみたいに・・・」
安田千佳「・・・メンタルケアって、こういうことだったのね」
安田千佳「つらいよね。苦しいよね」
安田千佳「今はたくさん泣きな。 全部、私が受け止めるから」
木村早苗「うん・・・。ありがとう、千佳」
木村早苗「千佳がいてくれて、ほんとによかった」
安田千佳「ッ──」
安田千佳「・・・忘れなよ。あんな男のことは」
木村早苗「・・・」
忘れられるわけがない
琉生──
木村早苗(信じていたのに、どうして裏切ったの?)
〇レストランの個室
神山琉生「早苗、愛してる」
裏切るなら、どうしてあんなに優しくしたの?
私はそれが、何よりも許せない
〇レトロ喫茶
木村早苗「結局、私に残ったのは株の才能だけ・・・」
安田千佳「あー・・・」
安田千佳「それも、嘘だと思うよ」
木村早苗「嘘って?」
安田千佳「私、気づいちゃったんだ」
安田千佳「株価って、上がるか下がるかの2択でしょ」
安田千佳「だから10人が適当に株を買ったら、半分の5人は儲かっちゃう」
安田千佳「その5人の中で1番儲かった人が、神山先生のターゲットだったんじゃないかな」
安田千佳「才能があるっておだてれば、元手になるお金をたくさん用意するでしょ」
木村早苗「な・・・」
安田千佳「それが、神山先生の言う『天才』の正体だと思う」
木村早苗「そんな・・・。じゃあ、私が株で成功したのは、ただの偶然・・・?」
安田千佳「安定して利益を出せていないなら、たぶん・・・」
〇手
神山琉生「天才だ!」
ああ、琉生
もう一度会えたら──
〇レトロ喫茶
安田千佳「さ、早苗・・・?」
木村早苗「ふふっ」
木村早苗「千佳。協力して」
安田千佳「協力って?」
木村早苗「琉生を探すの」
安田千佳「探すったって、あてはないんでしょ?」
木村早苗「ないけど・・・」
木村早苗「あ! 指紋よ! 琉生の部屋に指紋が残ってるはず!」
木村早苗「清掃業者を止めなきゃ!」
安田千佳「ちょっと、早苗!?」
〇マンションのエントランス
〇エレベーターの中
〇マンションの共用廊下
〇玄関の外
木村早苗「あ、すみません・・・」
???「失礼」
???「あなた、琉生の知り合い!?」
木村早苗「そうですけど・・・あなたは!?」
???「私は高橋加奈子」
???「琉生の元婚約者よ!」
友達が腹に抱えたものが思ったより浅くてほっとしましたが、それでもエグいですね。1000万……!😱
あとがきまで目が離せないです。
おぉ……先生😰何て酷いことを💦1,000万円は大金ですよ、それも心と体まで⁉️これは完全な愛と憎しみですね。
そしてとーがさんの実体験が👀‼️
やけにリアルなのはそれですね😰
人が愚かにも罠にハマる様、どうしてこんな楽しく読めてしまうんでしょう。面白かったです!
しかし琉生の囁く愛も100%が嘘とも思えない雰囲気があるんですよね…騙されるのも無理ないというか…