Episode 1.12月24日(脚本)
〇水中
それはとても素敵な日になると信じて疑わなかった私の誕生日
プレゼントをたくさん抱えて、大切な人が笑顔で帰ってくるはずだった夜
〇黒
???「かはっ!」
???「──」
???「娘が・・・待ってるんだよ」
???「こんなところで──」
覆面の男「セラヴィ」
???「ノエル・・・!」
〇洋館のバルコニー
ノエル「そろそろお父様が帰ってくる頃かしら」
リズ「お嬢様、そんなにはしゃいではお体に障りますよ」
ノエル「だって、だって! お父様が帰ってくると思うとじっとしてられないの」
ノエル「きっと素敵なプレゼントをたくさん抱えてくるのよ」
ノエル「ノエルにプレゼントしたいものを選んでいたら、あれもこれもよさそうだったから、つい全部買ってしまった」
ノエル「そう言って申し訳なさそうな顔をするのよ」
リズ「毎年のことですものね。困ったものです」
ノエル「今年こそ、きっとジュエリーを買ってきてくれると思うわ」
ノエル「私だっていつまでも子供じゃないんだからね」
リズ「いえ、おそらくはくまのぬいぐるみじゃないでしょうか? この前買い物にいったとき、ずっと目で追ってましたし」
ノエル「あ、あれは、その・・・。 わ、私はもうぬいぐるみは卒業する年頃よ? そんなことするわけないじゃない」
リズ「じゃあいらないのですか?」
ノエル「それはダメ! んっ、お父様のプレゼントよ? 何を貰っても嬉しいの!」
リズ「まだまだ淑女にはなれそうにないですね」
ノエル「待ち遠しいわね。バルコニーから少し外を見ててもいいかしら?」
リズ「ダメです。雪が降っているんですよ、風邪をひいたらどうするんですか」
ノエル「むぅ、じゃあ窓の近くまででいいわ」
リズ「仕方ないですね」
リズはなんだかんだいいつつも車椅子を窓際まで押してくれた
窓の外でははらはらと雪が舞い、雲の隙間からは月明りが差し込んでいる。どこか幻想的な光景だ
ノエル「早く帰ってこないかなぁ」
リズ「固定電話にかかってくるとは珍しいですね」
リズ「はい。 アルフレッド様でしたか。旦那様はまだ・・・ え?」
ノエル「リズ?」
ノエル(声が震えてる?)
ノエル(何だろう、これ。嫌な感じがする・・・)
リズ「お嬢様、落ち着いて聞いてください」
リズ「旦那様が事故に遭われました」
ノエル「・・・え?」
リズ「おそらくは・・・助からないだろうと」
たくさんの幸せが溢れるはずだった一日はそうして終わりを告げました
これからも続くと思っていた日々までも飲み込んで──
〇教会内
参列者「ひどい事故だったらしい」
参列者「ご遺体は損傷が酷くて最後の面会もできないとか」
参列者「遺産はお嬢様が受け継ぐのか」
参列者「相手は子供さ、周りが根こそぎとっていくだろ」
参列者たちは悲しむ様子もなく、それぞれ好き勝手なことを話していた
故人を思う言葉は一つもない
リズ「お嬢様、少しお休みになられますか?」
ノエル「もう少しだけここにいさせて」
ノエル「お父様が寂しくならないように」
リズ「わかりました」
ノエル(誰も悲しんでくれないなら、私が傍にいないと)
今、心に溢れるのは辛いよりも悲しいよりも、ただ寂しいという気持ち。もっと一緒にいたかったでした
ノエル(お父様・・・)
???「リズ!」
リズ「・・・?」
リズ「どちら様でしょうか」
九条「これを見ればわかるだろう」
リズ「それは!?」
九条「色々と聞きたいのは俺も同じだ。少しだけ話せるか?」
リズ「・・・」
リズ「わかりました」
リズ「お嬢様、少しだけ席を外します」
ノエル「うん。私は大丈夫だよ」
九条「すまない。すぐ戻るから」
リズとそのおじさんは人のいない片隅へ行くと何かを話し始めた
ノエル(あの人、誰だろう。お父様の知り合いかな?)
???「・・・」
???「お届け物でーす」
ノエル「え?」
不意に見知らぬ人が封筒と紙を放り投げた
ノエル「誰・・・?」
???「静かにしな」
その人は笑いながら懐からナイフを取り出す
ノエル「ひっ!」
???「周りを囲め。見えないようにしろ」
ノエル(囲まれた。車椅子も掴まれて動けない)
ノエル「だ、誰か・・・!」
???「ちゃんと口塞げよ」
ノエル「むぐっ!」
ノエル「だ、誰か・・・!」
ノエル「助けて・・・!」
ノエル(ダメ、何もできない・・・)
ノエル「リズ! お父様!」
???「いい服着てるじゃねぇか。相当な遺産がありそうだな」
???「そのためにも親子そろって消えてくれないと困るんだってよ」
ノエル(遺産? 親子そろって?)
???「すぐパパのところに送ってやるからよ」
ノエル(殺される? 違う、殺された?!)
ノエル「むぐっ!」
???「おい、大人しく──」
???「痛っ!」
ノエル「親子そろってってどういうこと! お父様は事故じゃ──」
ノエル「きゃっ!」
車椅子を倒され、私はそのまま地面へ転げ落ちる
???「おい、音をたてるな」
???「このクソガキが!」
ノエル「答えて! お父様はあなたたちが殺したの?!」
???「知るかよ! 天国でパパに聞いてみるんだな!」
ノエル(逃げられない! 殺される! でも、でも!)
???「金持ちの家に生まれたんだ。死んでため込んだ金を俺らに還元してくれよな」
ノエル「し、死んでたまるもんか!」
???「あん?」
ノエル「私たちの大切な人を奪った相手に、遺してくれたものまで差し出せというの?」
ノエル「あ、あなたたちに思い出も誇りも差し出して生き残ることなんてしたくない」
???「騒ぐんじゃねぇ! ガキがいきりやがって!」
???「楽に死ねると思うな!」
ノエル「ひっ・・・!」
ノエル(ダメ! 怖くても、戦えなくても、心が負けたら殺される!)
ノエル「し、死んでたまるかー!」
???「ぐはっ!」
九条「よく叫んだ」
ノエル「あなたはさっきの」
???「なんだ、てめぇ?!」
九条「なあ、俺を雇わないか?」
ノエル「え? 雇うって」
九条「俺は元傭兵でね。要人警護なんかもしたことある。お嬢はたくさんの金を相続するんだろ?」
ノエル「あなたもお父様の遺産を狙ってるの?」
九条「あぁ。丁度、墓前に供える花を一輪、買う金が欲しかったんだ」
ノエル「それだけ?」
九条「悪いがお釣りはないぜ? 帰りの電車賃もなくて困ってるからな」
???「無視して──」
九条「さあ、どうする? 戦うか、諦めるか。お嬢が決めな」
ノエル「・・・わかった、あなたを雇う!」
ノエル「花一輪に電車代もつけてあげる。だから、その人たちからお父様のことを聞き出して!」
九条「契約成立だ。と、いうわけでここからの見せ場は譲ってもらうぜ」
ノエル「人が集まってる?」
リズ「お嬢様、遅くなり申し訳ありません」
ノエル「さっきまで囲まれてたはずじゃ」
リズ「誰もいませんでしたよ?」
???「ぐっ! この野郎──」
???「があぁぁ!」
ノエル「キックで人が吹き飛んだ!?」
リズ「あまりご覧にならないように。教育上、よろしくないので」
???「おい、壁はどうした?!」
???「わ、わりぃ、全滅だ」
???「て、てめぇ!」
九条「主犯格はお前か」
???「てめぇ、ぶっ殺──」
???「へ?」
男は躊躇いなく暴漢の膝を踏み砕く
ノエル「きゃっ!」
リズ「しばらく目と耳を塞いでいてください」
???「あぐっ、膝が・・・!」
???「ひ、肘が折れ、砕け・・・!」
九条「次は顎を砕く。その前に答えろ。誰の指図だ?」
???「し、知らねぇ! 教会で車椅子のガキに手紙を渡せって闇サイトで雇われただけだ!」
九条「殺しは?」
???「きょ、脅迫状だったからガキを殺せば、ボーナスがつくと思って」
九条「そうか。何の情報もなしか」
暴漢の顔面スレスレを男は踏み抜いた
???「へあ・・・」
九条「気絶したか」
リズ「何、目立っているんですか」
九条「あ、すまん。つい」
リズ「ついじゃありませんよ、まったく。そもそもあなたは昔から」
九条「あー、わかった、わかった! お前のお小言は堪えるんだよ」
警備員「何事だ!」
九条「警備員か。丁度いい、こいつらを」
警備員「教会で喧嘩か?! なんて野郎共だ、まとめて警察に突き出してやる」
九条「って、なんで俺を真っ先に捕まえるんだよ」
警備員「ぶごっ!」
リズ「警備員倒してどうするんですか」
九条「気にするな。ともかく──」
ノエル「・・・」
九条「すまないが後は頼む」
リズ「言われなくとも」
九条「あと電車賃を貰えないか?」
リズ「警察が来る前にさっさと帰ってください」
ノエル「リズ、あの人は?」
リズ「警察がくると面倒だからと逃げていきましたよ」
ノエル「電車賃、渡し損ねちゃった」
リズ「歩いて帰るから必要ありませんよ」
リズ「それより私たちもこの場から離れましょう。その手紙のことも気になりますので」
ノエル「え? あ、うん」
ノエル(リズ、嬉しそう?)
〇教会
リズ「手紙は『遺産を放棄しなければ殺す』といった内容でした。旦那様については何も」
ノエル「でもお父様がただの事故だと思えない。何かがひっかかるの」
リズ「私も知り合いを通じて情報を集めてみます」
ノエル「ありがとう。一緒に事故の真実を突き止めて、犯人を捕まえましょう!」
「ヤメテオケ」
ノエル「だ、誰?」
???「振リ向クナ」
ノエル(何、この感覚・・・ さっきより静かなのにずっと怖い)
???「父親ハ事故デ死ンダ」
???「遺産ヲ放棄スル。 選択ヲ誤ルナ、ワカッタナ?」
ノエル(それは・・・!)
ノエル「・・・」
ノエル「・・・ない!」
リズ「ノエル!」
ノエル(喉がかすれて言葉がでない。でも、それでも言わなくちゃ)
ノエル「そんなこと出来ない!」
???「ソウカ」
???「残念ダ」
私は幼い頃、誕生日の前日に父を事故で亡くした経験があるので、彼女の気持ちに強く共感できました。彼女の場合、殺されたということなら尚更、その傷は深く、どんなエネルギーに変異していくのか見守りたいです。