嘘吐き達のグラン・ギニョール

資源三世

Episode 2.決死(脚本)

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〇教会
  殺される――
  そう感じた瞬間、車椅子が突き出された
  振り返れば、そこには私を庇って腕を切り付けられたリズの姿があった。いつも私を支えてくれた腕から鮮血がほとばしる──
ノエル「リズ!」
  思わず手を伸ばしたために車椅子はバランスを崩して倒れ、私の体は地面へと放り出されてしまう
リズ「お嬢様! お怪我は? すみません、緊急とはいえ突き飛ばしたために」
  打ち付けたところに痛みが走るが構うことなくリズへ手を伸ばす
ノエル「私じゃない! リズが・・・リズが怪我してるじゃない! たくさん血がでてる!」
リズ「落ち着いてください。この程度、大したことありませんよ」
ノエル「大したことある、たくさん血が出てる! リズが笑ってる!」
リズ「私が笑ったら重症なんですか?」
ノエル「リズが笑顔を見せるのは悪いこと考えてるときか、何かを誤魔化すときだもの! 大丈夫じゃないって分かるよ!」
リズ「くっ!」
  休む間もなく覆面はリズへと襲い掛かる。直撃こそ避けているけどいつまでも持ちそうもない
リズ「逃げてノエル! 教会で助けてくれた人を探して! あなたの声ならきっと届くから」
ノエル「でも、リズが――!」
リズ「流石に少しまずいでしょうか・・・。でもあなたが逃げる時間位はきっと──」
ノエル「逃げ・・・」
ノエル(リズが傷ついているのに、殺されそうなのに逃げるの?)
ノエル(逃げて、助けを求めて助かってもそこにリズがいなかったら? そんなの──)
ノエル「リズを残して逃げられるわけない!」
ノエル「違う、逃げたくない! これ以上、大切な人を奪われたくなんてない!」
  恐怖に踏みつぶされていた怒りが再び頭をもたげる
ノエル(陶器みたいな無機質な白を塗りたくったような気持ち悪い雰囲気の人・・・)
ノエル(向き合うとやっぱり怖い)
ノエル(ならどうする? 助けてと命乞いをする? 違う! 言うとおりにするから助けてと願う? 違う!)
ノエル(乞うな! 願うな! 主導権を渡すな! 生きる意志を、怒りで奮い立たせろ!)
ノエル(恐怖に負けるな! もう大切な人を失いたくなんてないんだ!)
ノエル「っぁぁぁぁああああああああ!!」
  怒りも恐怖も悲しさも、とにかく湧き上がる感情をないまぜにして叫んだ。無理したせいで最後はむせてしまった
ノエル(声を出したおかげで少し落ち着いた気がする)
  突然の叫びに二人とも驚いたようで動きを止めて私に目を向ける
ノエル(私は戦えないけど話すことはできる。なら会話のテーブルへ引きずり込め。生き残るための、次へ繋げる一言を絞り出せ!)

〇黒
  私たちの勝利条件はなに?
ノエル「覆面を倒すこと? ノン。私たちには無理だ」
ノエル「二人で生き残ること? ノン。これは願望で解決策じゃない」
ノエル「私たちの立場で考えても無意味な選択肢が多すぎてまとまらない。私たちで考えちゃダメだ、覆面の選択肢を考えるんだ」
  覆面の勝利条件は?
ノエル「私たちを殺すこと? ちょっと違うか、殺すのは遺産を手に入れるための手段だもの」
ノエル「手段というならまだ可能性がある。目的達成の道筋はたくさんあるんだから」
ノエル「つまり私たちを殺さないで遺産を手に入れる方法を提示する? ノン。遺産は渡せない」
ノエル「今この場だけでいい。私たちを殺さない手段を選ばざるを得ない・・・何か!」
ノエル「そう、私たちを殺しちゃいけない状況に持ち込めば私たちの勝ちだ」
  勝利条件:ノエル、リズを殺せない状況に持ち込むこと
  敗北条件:ノエル、またはリズの死亡
  殺せない状況とは?
ノエル「覆面の言うとおりに遺産を放棄すると嘘をつく? ノン。一度断ったんだ、信用されない」
ノエル「助けを呼ぶ? 教会には神父様や警備員さん、あと悪い人たちが捕まってるけど・・・」
ノエル「ダメだ、皆殺しにされそう。流石にそんな目立つことしないだろうけど」
ノエル「待って。私たちが殺されたって目立つじゃない。私は多額の遺産を相続するんだもの、遺産狙いの犯行だって大騒ぎになるわ」
ノエル「遺産を受け取る人なんて限られているから、犯人が捕まるのは時間の問題よ。これは望まない展開よ」
ノエル「そうか、ただ殺すだけじゃダメなんだ。自分と関係ない事件や事故で死んだことにしないと」
ノエル「なら、ここで私たちが死んでも不自然じゃないように覆面は偽装できるということ?」
ノエル「ウイ! 私は既に殺されかけてる。悪い人たちは捕まったけど、その仲間がやったように見せかければ辻褄はあう・・・と思う」
ノエル「ならここから出来るだけ離れる? ノン。無理だ。ちょっとやそっとじゃ逃げている間に殺されたくらいにしか思われない」
ノエル「でも少しだけ生き残るための道が見えてきた」

〇教会
  私は車椅子を支えにして立ち上がる。力の入らない足はぷるぷると震え、とても不格好だ。だけど無理やり平然を装う
ノエル「あなたの狙いはお父様の遺産なんでしょう? なら交渉の時間よ」
ノエル「欲しいものが手に入らないで終わってしまうのが嫌ならね」
???「デマカセデ乗リ切ルツモリカ?」
ノエル(本当に嘘だと思うなら無視すればいいのに言葉を返した。多分まだ無意識に反応しただけ)
ノエル(そりゃあそうだよね。さっきまで泣いてた子供がいきなり話をしようって言ってるんだもの)
ノエル(でも嘘でも『手に入らない』なんて言われたら確認せずにはいられない)
ノエル(遺産を失う可能性は絶対に回避したいんだ。まして私なんていつでも殺せる余裕がある。リスクをとる必要なんてない)
ノエル「今ここで私を殺しても遺産は手に入らないわ。一度、命を狙われてるのよ。子供だって最悪の可能性を考えてるのよ」
ノエル(心臓が痛い。今にも吐きそう。だけど平静を演じろ! 私が弱気を見せれば覆面の心に芽生えた『もしかして』が死んでしまう!)
ノエル「私にとっての最悪は何? 殺されること? ノン! 私の最悪は殺されて遺産も奪われること!」
ノエル「なら殺されたとしても遺産が誰の手にも渡らないようにするのが私の最後の悪あがき」
ノエル「私の遺産は全て寄付するようにしてもらったわ」
???「・・・」
ノエル(命を狙われたことが『もしかして』と思わせてる。信じなくてもいい、今は殺せないと判断させるんだ!)
ノエル(嘘を繋げて組み立てるんだ! 今、この時を切り抜けるだけの嘘を!)
ノエル「なんで最初からそう言わなかった? とでも考えてるの?」
ノエル「これは捨て身の切り札よ! 知られたら遺書を処分されてしまうもの。だけど遺書の場所はリズしか知らないの」
リズ「・・・えぇ、先ほど弁護士の先生に依頼しておきました。映像記録も送ったので公的な効力を保障して頂いてます」
ノエル(さすがはリズ。とっさの嘘に上手くあわせてくれる)
ノエル(次の言葉を慎重に選べ! 焦らず、相手に不安を重ねてゆくんだ!)
ノエル「私たちは今ここで死ぬわけにはいかない! あなたは遺産を失いたくない! だから交渉よ」
ノエル「私たちを見逃しなさい。代わりにあなたには遺書を探す時間をあげるわ」
ノエル(遺書が適用されるから私は殺せない。 遺書の場所を知るリズを殺すわけにもいかない)
ノエル(お願い、嘘を信じて!)
???「小娘ニシテハヨク頑張ッタ」
???「オ礼ニ私ノ交渉ヲ見セヨウ」
ノエル「何をするつもり」
  対話を想定したのに彼はリズへ襲い掛かり、そのまま組み伏せる
リズ「痛っ! 交渉・・・じゃないんですか?」
???「交渉ニ必要ナノハ知恵デモ技術でもない。暴力トイウコトダ」
ノエル「何・・・言ってるの?」
???「遺書ノ在リカヲ吐クマデ、コノ女ノ目、耳、指ヲ切リ落トス」
ノエル「そ、そんなの嘘よ。だってそんな異常なことすれば事件・・・ 事件として警察が動くわ」
???「燃ヤセバ多少ノ損傷ナド残ラナイ」
ノエル(燃やす? そんなので本当に警察を欺けるの? わからない、嘘か本当か確かめようがない)
ノエル(でも・・・きっと脅しなんかじゃない。本気だって感じさせる)
???「マズ目玉ヲ抉ロウ」
ノエル「やめて!」
ノエル(全て嘘だという? ダメ、嘘がバレたら殺されるだけ! 考えて、リズを助けるための選択肢を!)
???「セラヴィ・・・」
ノエル(何も思いつかない! できない! 私じゃ助けられない!)
ノエル「誰か、リズを助けて!」
九条「二人ともよく持ちこたえた!」
ノエル「あ・・・ あぁ!」
九条「子供を泣かせたんだ。落とし前はつけさせてもらうぜ」

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