DAY3:ありえない理由(脚本)
〇狭い畳部屋
三澤梨々花「はぁ~ 労働した後のお茶っておいしい♪」
緑川「梨々花さん、ちょっといいですか?」
三澤梨々花「あ、はい 用事済んだんですか?」
緑川「ええ ハイジは先生のところでお昼寝中です はしゃいで疲れたみたいで」
三澤梨々花「そうですか じゃあ緑川さん一休みしていきませんか? お茶淹れるので」
三澤梨々花「お茶も買い置きしておいてくれて ありがとうございます! おいしいほうじ茶です」
緑川「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
三澤梨々花「どうかしましたか?」
緑川「いえ、若いのによく気がつく方だなと さすが乃梨子さんの自慢の、しっかり者の妹さんですね」
三澤梨々花「そうですか? はい!お茶どうぞ」
緑川「ありがとうございます いただきます」
三澤梨々花「あの、さっきの自慢の・・・って お姉ちゃん・・・私の姉が?」
緑川「ええ 忙しい自分に代わって家事を引き受けてくれてるって いつも褒めてますよ」
三澤梨々花(『忙しい自分の代わりに』? 家ではビール片手にゴロゴロしてる人が!?)
三澤梨々花(お姉ちゃんが家事スキル・ゼロだから 私ががんばってるんでしょーが!!)
三澤梨々花「えっと、気になっていたんですけど 緑川さんと姉はどういう・・・・・・?」
緑川「もともと同じ店の常連なんですよ 色々な職種の人が集まるダイニングバーで」
緑川「先生ともよくそこで打ち合わせをするので 3人で飲むこともあります」
緑川「僕は乃梨子さんの一つ上で年も近いので 気が合って、仲良くさせて頂いてます」
三澤梨々花(お姉ちゃんの一つ上っていうと、緑川さんは25歳かあ)
緑川「今回は急に無理を言ってすみませんでした 勉強も部活もあるのに、ご負担をかけてしまって」
三澤梨々花「いえ、週2回くらいなら大丈夫です 学校から2駅だし、家も同じ路線で帰れるので」
三澤梨々花「土曜日は部活があるけど 午前中だけだからそのまま寄れますし」
三澤梨々花(時給もいいし!)
緑川「そうですか こちらとしては引き受けて下さって とても助かります」
緑川「僕がつきっきりでお世話ができればいいんですが、他に担当作家も抱えているので そうもいかなくて」
緑川「ちょっと口は悪いですけど 悪人ではないので よろしくお願いしますね」
三澤梨々花「はい・・・・・・あの」
三澤梨々花「落合さんて 人気のある恋愛小説家なんですね 私じつは友達に聞くまで知らなくて」
緑川「・・・・・・落合はるかを知らなかった?」
三澤梨々花「すみません💦 私、恋愛ものって苦手で読まないので・・・」
緑川「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
緑川「それは・・・ゆゆしき事態です」
緑川「デビュー作は連続ドラマ化され 女性視聴者からの圧倒的な支持を得て 平均視聴率は18%でしたが まさかご覧になっていない?」
緑川「昨年は楽多川賞も受賞したのですが 本当にご存じなかったと!?」
三澤梨々花「ごごごごごめんなさい!!!」
三澤梨々花(きゅ、急に目が怖くなったよ~!)
緑川「『カーディナル(情熱)』シリーズは発売日になると書店以外の場所から人が消えると言われるほどの人気で全巻即重版!!」
緑川「映像化、舞台化の話も次々と舞い込んで」
三澤梨々花「すすすすすすみません! お怒りはごもっともですー!!」
三澤梨々花「でも学校でも大人気で! みんな知ってて! 知らない私はおかしいって―― し、知らなくて反省してます!!!」
緑川「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
三澤梨々花「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・
緑川「・・・失礼 あまりのことに取り乱しました」
緑川「人の嗜好はそれぞれですからね 仕方のないことです」
緑川「いや・・・ まだ我々のマーケティングも甘いということですね・・・ ふむふむ、勉強させていただきました」
三澤梨々花「よ、よかった、静まった・・・」
三澤梨々花「でも、緑川さん、先生LOVEすぎてちょっとヤバい・・・」
緑川「僕は女性誌やファッション誌にも 先生を売り込みたいんですよ 愛想がないのが難点ですが、あのビジュアルでしょ?」
緑川「もったいないと思いませんか! でも顔出しはNGだと本人が言うので メディア取材はすべてお断り・・・」
緑川「僕は先生の魅力を 全方向に発信したいだけなのに!! 「興味ない。無理」で一蹴ですよ!」
(緑川さん、ほんとにあの人のこと 好きなんだな・・・・・・)
緑川「それに人気というのは水物ですから 勢いがあるうちに各方面に売っておかないと」
緑川「まあ僕の情熱を拒否する分代償として 先生にはかなりハードスケジュールで 原稿あげてもらってますけどね」
緑川「仕事はボランティアでではありませんから♪」
三澤梨々花(あ、たしかにオニだ・・・)
三澤梨々花「そういえば、姉から 先生が倒れかけたって聞きましたけど もしかして、その無理なスケジュールで・・・?」
緑川「いえ、先生は筆早いので 〆切自体はさほど問題ではないのですが・・・」
緑川「執筆中は自己管理がまったく出来ないひとなんです 食事も睡眠も忘れがちで・・・」
緑川「そこで 先生の管理をお願いできる方を探していた次第です」
三澤梨々花「私で大丈夫なのか、正直自信ないですけど・・・」
緑川「あはは、第一印象最悪ですもんね! でもわかりにくいだけで 本当はとてもやさしい方なんですよ」
緑川「クレームは僕が受付けますので 遠慮なく言ってください」
緑川「とくに食事面が大変だと思うので 先生、少々味覚が敏感なので なかなか口に合うものがないんです 僕も差し入れは苦労してて」
三澤梨々花「えっでも、お夕飯のリクエストしてくれましたよ!」
緑川「先生がですか?」
三澤梨々花「はい 前回作った料理の味が悪くなかったって 今日も作ることになりました」
緑川「・・・先生が なかなかやりますね・・・梨々花さん」
緑川「食事面は心配なさそうで安心しました 一番危惧していた部分なので」
三澤梨々花「だといいんですけど・・・ でも、どうしてハウスキーパーを雇うんですか?」
三澤梨々花「ご家族とか・・・恋人とかのほうがいいんじゃ」
緑川「それに関してはノーコメントで♪ いろいろありまして」
三澤梨々花「・・・わかりました とりあえず頑張ってみます・・・」
落合はるか「・・・おい、バイト 後で──」
落合はるか「・・・って何してんだ、お前ら」
緑川「ブリーフィングがてらお茶を」
緑川「アルバイトを引き受けてくれたお礼と 色々と申し送りを」
緑川「て、先生なんですか『バイト』って! そんな呼び方は彼女に失礼です 梨々花さんという素敵な名前があるんですから──」
緑川「それに梨々花さんはご厚意で引き受けて下さったのですから 失礼な態度や悪言は控えて下さいよ」
落合はるか「・・・厚意ねえ 乃梨子さんはお前に恩着せて 印象づけたいだけだろ ベタ惚れだしな、お前に」
落合はるか「あんたも色ボケした姉さんに いいように使われて大変だな」
三澤梨々花「えっ?」
緑川「乃梨子さんに失礼ですよ 親切心で僕の相談に乗ってくれたんですから」
緑川「ともかく、梨々花さんに失礼のないように」
緑川「あ、雇用契約書は僕が作りますので もちろん彼女に有利な条件で いざという時に梨々花さんの身を守る盾に なりますから🎵」
緑川「では梨々花さん、僕は社に戻りますので これで失礼します 先生も原稿よろしくお願いします」
落合はるか「チッ・・・ あのキツネめ」
三澤梨々花「あ、あのっ さっきの話ってどういうことですか? お姉ちゃんの・・・」
落合はるか「なんだ、何も聞いてないのか」
落合はるか「あんたの姉さん 緑川に片思いしてんだよ だからバイトの話、身内に振ったんだろ」
落合はるか「緑川のヤツ、案外ガードが堅いからな 会う口実が欲しかったんだろ」
三澤梨々花「は、はぁ~~~!?」
〇綺麗な部屋
ーーその夜
三澤乃梨子「たっだいまー あーおなかへった 梨々花~今夜のごはん何~?」
三澤梨々花「お姉ちゃん」
三澤梨々花「話があるから座って」
三澤乃梨子「な、何よ 怖い顔しちゃって・・・」
三澤乃梨子「あっ、サカノのフルーツゼリー 最後の一個食べたのバレた!? だってあれおいしくて──」
三澤梨々花「えっ! 食べたの!? あれ私のなのに~・・・って とりあえずそれは置いておいて」
三澤梨々花「今日、落合先生の家で 緑川さんに会ったんだけど」
三澤乃梨子「えっ、緑川くん!?」
三澤乃梨子「いい男でしょ!? とくにあの笑顔が最高! 微笑まれるとなんでもしたくなっちゃうっていうか~♡♡」
三澤梨々花(有罪・・・・・・確定!)
三澤梨々花「お姉ちゃん!!」
三澤梨々花「聞いたよ! 緑川さんに近づく口実作りに 私にバイト押しつけたって!!」
三澤乃梨子「はっ!? そそそそんなわけないじゃない 何言ってるの!?💦」
三澤梨々花「トボけてもムダ! ネタは上がってんだからっ!」
三澤乃梨子「えぇっ! ちょっ、誰に聞い・・・ あっ、はるかね! アイツ~~!」
三澤梨々花「誰でもいいでしょっ! ひどいじゃない、嘘つくなんて! 少しでも家計の足しになればと思って 引き受けたのに──」
三澤乃梨子「り、利用するつもりじゃなかったのよ~ 梨々花しかいない、って純粋に思ったし」
三澤乃梨子「・・・まったく下心がなかったと言えば ウソになるけど・・・」
三澤梨々花「だったら最初からそう言えばよかったのに ダマすようなことしないで!」
三澤乃梨子「・・・ごめん だって恥ずかしいじゃない💦 あたしの片思いだし・・・」
三澤梨々花「そうなの?」
三澤乃梨子「そうなの! これでもかってアピールしても全然ダメ 笑顔スルーよ」
三澤乃梨子「緑川くん、はるかLOVEすぎてさ 自分が初めてデビューに導いた作家だから 特別かわいいんでしょうね~」
三澤乃梨子「アイツを屍にでもしない限り あたしには可能性はないわ・・・」
三澤梨々花「ええっ! 物騒なこと言わないでよ💦」
三澤乃梨子「冗談よ♪ ま、とにかく、接点はあっても なかなか距離が縮まらなくてさ~」
三澤乃梨子「でもあんたを巻き込むなんてどうかしてるわね・・・ごめん 嫌だったらやめていいわよ」
三澤梨々花「・・・・・・ううん、続けてみるよ」
三澤乃梨子「えっ、いいの? はるかのヤツ、かなり面倒くさいでしょ 無理しなくても・・・」
三澤梨々花「うん、性格はサイアク でもルール守れば文句言わないし ご飯もきれいに食べてくれるし 今のところ許容範囲かなって」
三澤梨々花「あ、犬とは仲良くやれそうにない」
三澤乃梨子「ああ、ハイジね! イケメンにしか懐かかないらしーわよ」
三澤乃梨子「でもあの偏屈王子が文句言わないって すごいじゃない! 食べるものにもうるさいらしいしーー 意外と相性いいんじゃない♪」
三澤乃梨子「ま、梨々花の料理は姉の欲目なしにおいしいもの、気に入られて当然よ」
三澤乃梨子「あーよかった 本当のことも言えたし、スッキリした! ーーで、今夜のゴハンなに?♪」
三澤梨々花「もう、調子いいんだから・・・」
ピロロン♪
三澤乃梨子「・・・・・・メール? 誰から?」
三澤梨々花「・・・うん 大丈夫、修兄からの定期連絡 変わりはないかって」
三澤乃梨子「そう ならいいけど」
三澤梨々花「大丈夫! 後で返信しとく じゃ、すぐごはん用意するから 着替えてきてね」
三澤乃梨子「・・・ま、大丈夫か」
三澤乃梨子「ここへ来て二年、何もないものね」
唯一の良識人っぽかった緑川さんも、かなりのヤバさを見せてくれましたね。そして乃梨子お姉ちゃんの傍若無人っぷりも。どんどん登場人物の個性が際立ってきていますねw
登場人物が増えて、ますます関係が複雑になってきそうですね...イケメン編集者さんとの三角関係、はじまるかも!?😆