第一章 「Encounter」(脚本)
〇法廷
裁判長「・・・」
裁判長「被告人」
裁判長「最後に言っておきたいことはありますか?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「夫は」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「太陽は」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「私に愛を教えてくれた人でした」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「そして・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「抗えないほどの強い憎しみがこの世にあることも教えてくれました」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「私は太陽を殺したことを」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「微塵の後悔もしておりません」
裁判長「・・・わかりました」
裁判長「判決を言い渡します」
裁判長「主文、被告人を・・・」
裁判長「懲役15年の刑に処する!!」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「・・・」
これより判決理由を読み上げます。此度の犯罪は計画性を伴い────────
〇黒
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(ようやく)
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(解放されたのね)
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)(あの”檻”から)
〇オフィスのフロア
15年後──
新人記者 相良「あれ!?」
新人記者 相良「今日って先輩不在でしたっけ!?」
週刊アンブ編集長 吉岡「相良・・・オメェよぉ・・・」
週刊アンブ編集長 吉岡「エダのやつは、『飯田孔雀』が釈放されるから刑務所に行ってんだよ」
週刊アンブ編集長 吉岡「昨日ミーティングで言っただろ!!」
新人記者 相良「あ、そうでしたね・・・」
週刊アンブ編集長 吉岡「ったくよぉ」
新人記者 相良「飯田孔雀・・・」
新人記者 相良「僕、当時は子供だったんで、全然知らないんですけど」
新人記者 相良「たしか夫殺しをした主婦ですよね?」
週刊アンブ編集長 吉岡「ああ」
週刊アンブ編集長 吉岡「被害者であり、夫であった飯田太陽は」
週刊アンブ編集長 吉岡「トリカブトを服用させられ、包丁による数十箇所の刺し傷があった」
週刊アンブ編集長 吉岡「そりゃセンセーショナルな事件でな・・・」
週刊アンブ編集長 吉岡「その記事を扱った週刊アンブは飛ぶように売れたワケよ」
週刊アンブ編集長 吉岡「これがバックナンバーだ」
商社マンの夫、美人の妻、誰もが羨む家庭に一体何が!?
悲しい事故が孔雀の心を壊した!?
新人記者 相良「・・・で、いよいよ釈放されると」
週刊アンブ編集長 吉岡「ああ、結局孔雀は犯行の動機については明確に語らず」
週刊アンブ編集長 吉岡「控訴もせず一審の判決を受け入れてる」
週刊アンブ編集長 吉岡「だから今回エダのやつがとりつけた飯田孔雀が事件について書いた手記っつうネタは」
週刊アンブ編集長 吉岡「とんでもなく注目度が高いんだ」
新人記者 相良「なるほど・・・」
週刊アンブ編集長 吉岡「エダのやつは、話題性のために獄中出版にしろって俺の命令は一切聞かずに」
週刊アンブ編集長 吉岡「頑なに出所してからってのを譲らなかったから、まだ誰も内容を知らねぇ」
〇車内
週刊アンブ編集長 吉岡「一体・・・どんなこと書いてあるんだろうなぁ」
江田 晃(えだ あきら)(いよいよね)
〇刑務所
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「日差しが眩しいわね」
刑務所守衛「今のうちに出ていくんだ」
刑務所守衛「表門はマスコミが大勢押し寄せている。 早くしないと勘付かれるぞ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「そうね、ありがとう」
刑務所守衛「うっ」
刑務所守衛(もう50歳だというのになんて魅力的な女性なんだ)
刑務所守衛(こんな素敵な女性がどうして・・・)
江田 晃(えだ あきら)「孔雀さん!!」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「あら江田さん」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「約束通り迎えに来てくれたのね」
江田 晃(えだ あきら)「もちろんです。 さぁ、早速向かいましょう」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ええ、お願いするわ」
刑務所守衛(あの人は・・・)
刑務所守衛(ここで何度も見かけた・・・ たしか週刊アンブの記者・・・)
〇車内
江田 晃(えだ あきら)「孔雀さん 体調は問題ありませんか!?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ええ、問題ないわ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「約束の件はこの後すぐでも大丈夫よ」
江田 晃(えだ あきら)「わかりました、ありがとうございます」
江田 晃(えだ あきら)「もう少しで私の自宅なので」
江田 晃(えだ あきら)「そこでお話をお聞かせください」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ええ」
〇綺麗なダイニング
江田 晃(えだ あきら)「どうぞ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ありがとう」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「あら、おいしいカモミールティーね」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「江田さん、こういうのお好きなの?」
江田 晃(えだ あきら)「ええ、昔母がよく振舞ってくれて・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「そうなの!? 私もカモミールティー大好きなのよ」
江田 晃(えだ あきら)「・・・孔雀さん ところで・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ええ、持ってきているわ」
江田 晃(えだ あきら)「これが・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ええ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「事件について私がまとめた手記──」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「『E・Dark・Dark』の原稿よ」
江田 晃(えだ あきら)「タイトル・・・そのようにしたのですね」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「昔、物書きの真似事をしていた時に」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「未完で終わった作品のタイトルを少し改変したの」
江田 晃(えだ あきら)「そうですか」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「・・・こうして改めて完成した手記を見てると」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「あなたと初めて会った日を思い出すわ」
〇刑務所の面会室
江田 晃(えだ あきら)「はじめまして飯田孔雀さん」
江田 晃(えだ あきら)「週刊アンブの記者、江田晃と申します」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「江田さんね・・・よろしく」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「あなたも記者でしたら・・・ご存知ない?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「私がこの10年以上、事件に関する取材は断っていることを」
江田 晃(えだ あきら)「・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「マスコミの皆様もお仕事だって事は理解しているけど」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「私にとってあの出来事は軽々しく触れてほしくないものなの」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「お引き取り願えるかしら」
江田 晃(えだ あきら)「飯田孔雀さん・・・」
江田 晃(えだ あきら)「手記を出版しましょう」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「手記!?」
江田 晃(えだ あきら)「ええ、マスコミに伝えるのではなく」
江田 晃(えだ あきら)「100%あなたの言葉で」
江田 晃(えだ あきら)「真実を記すんです!!」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「あなたはどうしてそんな提案を・・・?」
江田 晃(えだ あきら)「私は・・・あなたが巷で言われているような」
江田 晃(えだ あきら)「精神に異常をきたして殺人を犯したとは思えません」
江田 晃(えだ あきら)「私はあの事件の真実を」
江田 晃(えだ あきら)「当事者のあなたから伺いたいのです」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「そう・・・手記・・・ね」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「前向きに考えておくわ」
江田 晃(えだ あきら)「本当ですか!?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「ええ、それによかったらまた面会に来てくださる?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「私の話し相手になってくれないかしら?」
江田 晃(えだ あきら)「ええ、喜んで」
〇綺麗なダイニング
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「約束通り」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「この手記には真実をまとめたわ」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「あの人、太陽との出会いから」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「私がこの手で彼を殺すところまで・・・」
江田 晃(えだ あきら)「・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「怖くなった?」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「殺人犯の手記ですもの、無理もないわ」
江田 晃(えだ あきら)「・・・いえ、これは武者震いのようなものです」
江田 晃(えだ あきら)「・・・では、拝見します」
〇山間の田舎道
第一章
『Encounter』
私、飯田孔雀(当時28歳)は、都内で医療事務勤務をしている普通の独身女性でした。
あの日、私は病院の同僚に押し切られるように勧められて買ったクロスバイクに乗り
初めてのサイクリングに出かけていました。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「はぁ、本当についてないな・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「こんな田舎道でパンクなんて・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「修理キットも言われるがままに買っちゃったけど、使い方もわからないし・・・」
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「街まで何キロあるんだろう・・・」
当時無趣味でインドア派だった私には一人でのサイクリングは無謀でした。
泣きながら自転車を押していた私の前に現れたのが──
飯田 太陽(いいだ たいよう)「だ、大丈夫ですか!?」
彼、飯田太陽(当時29歳)でした。
太陽は真っ赤なロードバイクに乗っており
服装はカジュアルでしたが、自転車に精通している事は一目でわかる佇まいでした。
飯田 孔雀(いいだ くじゃく)「い、いえ、実は自転車がパンクしてしまいまして」
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手記という切り口が面白いです!
どうして、このような結果になってしまったのか、すごく気になります!
手記で振り返っていく形式…この穏やかそうに話す人がどう変わっていくのか、どう変わってしまったのか…少し怖さもありますがとても興味深いです。
振り返りから始まるストーリーは難易度が高いと思うのですが、よくここからスタートしたなあと驚いてました。
次も読ませていただきます。