異世界アパート

金村リロ

第3話 管理人とその契約(脚本)

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〇アパートの前
アン=マリー「管理人様、おはようございます」
テツヤ「お、おはよう。えっと、マリーは今からどこに?」
アン=マリー「アルバイトです。近くの弁当屋でお世話になっておりまして」
テツヤ(異世界人が弁当屋でバイト・・・)
テツヤ「とりあえず、いってらっしゃい」
アン=マリー「はい。行って参ります」
  マリーに挨拶をしてから、俺はアパート周りの清掃を始めた。
テツヤ(職と家につられて管理人になるって言ったけど、本当にこれでよかったのか?)
  一夜明けて冷静になった俺の中に、そんな疑問が湧き上がってくる。
シロ「テツヤ殿! おはようございます!!」
テツヤ「ああ、シロさん。おはよう」
シロ「さっそくお仕事ですか? お手伝いいたしますよ!!」
テツヤ(これは俺の仕事だからと断るべきなんだろうけれど)
シロ「さあさあ! 何からいたしましょう!!」
テツヤ(本人はやる気満々みたいだなしなあ)
  尻尾をブンブン振って俺に迫ってくる感じが、今は亡き愛犬シロにちょっと似ている。
テツヤ「よしよし。それじゃ、掃除の手伝いしてもらうかな」
シロ「て、テツヤ殿! 頭を撫でるのはちょっと・・・!」
テツヤ「うわっ!? わ、悪い! 昔飼ってた犬のこと思い出して、つい」
シロ「犬・・・? 私は狼の血を引く、誉れ高き獣人の一族です! 犬と一緒にしないでいただきたい!!」
テツヤ「わ、悪かった。次からは気をつけるよ」
シロ「はい。是非ともそうしてくだ──ハッ!?」
テツヤ「シロさん?」
シロ「この気配・・・近くに侵入者がいます」
テツヤ「えっ!?」
シロ「あちらから微かに足音が・・・何よりこのにおい・・・曲者め、正体見たり!!」
  犬のように素早く地面を蹴り、シロさんが飛びかかった先にいたのは。
猫「シャーーーーッ!!」
  シャッ!!
シロ「ぬっ! 素早い前肢の動き! 我々の世界の猫より小さいですが、素早さは同等かそれ以上・・・!」
シロ「油断すればこちらがやられる! 安全のためテツヤ殿は下がっていてください!!」
テツヤ「いや、猫なんて適当に追い払えば──」
シロ「ウワォーーーーン!」
猫「ニャーーーーッ!?」
シロ「ふふふ、狼の鳴き声はさぞかし恐ろしいでしょう! さあ、そのまま逃げ去るのです!!」
テツヤ(猫を追い払うためにその背中を追うのはいいのだけれど)
テツヤ「シロさん、ストップ! 集めたゴミ踏まないでくれ!!」
シロ「え?」
テツヤ(掃除する前より汚れちまったな・・・)
シロ「あぁああっ! も、申し訳ありませんテツヤ様!! 外敵を追い払うことに夢中になるあまり、とんだ失態を!!」
テツヤ「もう一回掃除し直せばいいだけだし、別にいいって」
シロ「ですが私、昨日からテツヤ殿にはご迷惑ばかりおかけしています!」
シロ「助けていただいたご恩があるのに、半ば無理矢理管理人にもなっていただいて・・・!」
テツヤ「そのことなら気にしなくていいから。 職と家が見かったのはありがたいし」
テツヤ(もちろんこんな場所で働いてて大丈夫なのかって不安はある)
テツヤ(けど管理人になるって決めたのは俺で、シロさんに責任があるわけじゃない)
シロ「テツヤ殿・・・!」
テツヤ「泣くな泣くな」
  無意識のうちにシロさんの頭に手を伸ばしかけたその瞬間。
リリム「ちょっと、そこの管理人。こっちに来なさい」

〇古いアパートの居間
  アパートの中にある共同リビングに呼び出された俺の前に座るのは、微妙に不機嫌そうな様子のリリム。
リリム「なんであんたまで付いてくるのよ」
シロ「テツヤ殿をお守りするためです!」
リリム「あたしがこいつに何かするって言いたいわけ?」
シロ「え、えっと、その、そういうわけではないですが・・・」
テツヤ(シロさんのほうが大きいのに、完全に勢いで押し負けている)
リリム「まあいいわ。管理人、とりあえずこれにサインしなさい」
  目の前に差し出されたのは、見たことのない文字が書かれている紙だった。
テツヤ「これ、なんだ?」
リリム「雇用契約書よ。あんたを管理人として雇うって書いてるの」
テツヤ「俺、何書いてるか分からない契約書にサインするほど人生捨ててはないんだけど・・・」
リリム「いいからサインしなさい! これに同意しないなら今すぐ10年分の記憶消してここから追い出すわよ!」
テツヤ「完全に脅しじゃねえか!!」
テツヤ(とはいえ他の選択肢は存在していないも同然だ)
  渋々サインを書くと、紙がわずかに発光した。

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