第3話 ミステリ脳はどうかしてる(脚本)
〇駅前広場
神崎イチゴ(栄くんの考えたデートプランかあ・・・。 一体どこに連れて行かれちゃうんだろ)
神崎イチゴ(人生初のデートなのに、栄くんが相手だと思うと、テンション上がらないなあ・・・)
その時、場の空気が一瞬どよめき、黄色い声があちこちから上がる。
神崎イチゴ(え、急に何?)
イチゴが不思議に思っていると・・・
東雲栄「イチゴ、待たせたな」
現れた私服姿の栄は、まるでモデルのようで、イチゴは思わず息をのむ。
神崎イチゴ(か、かっこいい~~~!!)
そして、イチゴは気づいた。
周囲の女性たちの視線は、全て栄に注がれているということに。
女性A「あの男の子、すっごくカッコいい~」
女性B 「あの子、あんなイケメンの彼氏がいるなんて、羨ましい~!」
神崎イチゴ(こ、このシチュエーション、恋愛漫画で何度も見てきた王道シーンっ!!)
神崎イチゴ(まさか自分が体験するなんて・・・こ、これはテンションあがっちゃう~☆)
東雲栄「・・・どうした? 早く行くぞ」
神崎イチゴ「あ、うん!」
〇電車の中
東雲栄「ふむ・・・この時刻なら乗り換えは・・・」
神崎イチゴ(さっきからずっと時刻表見てる・・・。 乗り換えが難しい場所なのかな?)
東雲栄「ふむ・・・これではダメだな」
神崎イチゴ「え、何がダメなの?」
東雲栄「どうしてもいい乗り換えがなくてな・・・このままではトリックが崩れてしまう」
神崎イチゴ「・・・トリック?」
東雲栄「ああ、ミステリの王道だろ、時刻表トリック・・・って、はっ!?」
イチゴのジト目に、栄は我に返る。
神崎イチゴ「今日のデートって、恋愛小説のためだよね?」
東雲栄「す、すまん・・・もう時刻表は仕舞うから」
神崎イチゴ「もう・・・ミステリはともかく、電車の中で細かい字を見てたら、酔っちゃうよ?」
東雲栄「・・・電車酔いか。酔い止めの薬を持ってるから、念のためにイチゴにも渡しておこう」
神崎イチゴ「え、いいの?」
神崎イチゴ(心配してくれるなんて、優しいな)
東雲栄「ほら、持っておけ」
神崎イチゴ「うん。ありがとう栄くん」
東雲栄「・・・もしこれが毒だったらどうする?」
神崎イチゴ「え?」
東雲栄「薬のはずが毒で、知らぬうちに毒殺を・・・」
東雲栄「しかし、電車の中ではその後の処理が大変だな。遅効性の毒が一番だが・・・」
神崎イチゴ「ストーップ! 栄くん、またミステリのこと考えちゃってる!」
東雲栄「え・・・? こ、これもダメなのか!?」
神崎イチゴ「当たり前でしょ!」
神崎イチゴ「もう・・・まさか酔い止めの薬からミステリの話になるとは思ってなかったよ」
神崎イチゴ「どうせ酔い止めの話するなら、甘ーい恋で酔っ払っちゃった☆ とかさあ・・・」
東雲栄「・・・恋で人は殺せるのか?」
神崎イチゴ「だから、なんでもかんでもミステリに繋げないで」
東雲栄「す、すまん・・・」
神崎イチゴ「・・・でもね、殺せなくても人生が狂っちゃうほどの熱烈な恋には憧れるよ」
神崎イチゴ「恋愛漫画だと、教師と生徒、アイドルと一般人、敵同士の恋愛も素敵よね!」
東雲栄「・・・ハイリスクすぎないか?」
神崎イチゴ「だから良いんだよ! ハードルが高ければ高いほど、二人の愛は燃え上がり、読者もワクワクするの!」
東雲栄「読者も、ワクワク・・・!?」
神崎イチゴ「そうだよ! 栄くんだって、ミステリ小説であっさり犯人やトリックが分かったらつまらないでしょ?」
東雲栄「た、たしかに! しかし・・・俺にそんな恋愛小説が書けるだろうか」
神崎イチゴ「アタシも協力するから、頑張ろ!」
神崎イチゴ(そして、早くアタシの漫画を返して!)
東雲栄「ああ! ありがとう、イチゴ!」
東雲栄「俺は、読者の心臓をトキメキで壊すくらいの、情熱的な恋愛小説を書くっ!」
神崎イチゴ「そうだよ、栄くん! その意気だよ!」
神崎イチゴ(心臓を壊すのはやりすぎだけど・・・)
〇海辺
降りた駅から少し歩き、ふたりは海へと辿り着いた。
神崎イチゴ「わあ・・・! 海だあ~☆」
神崎イチゴ「海岸デートなんて、まさに王道だね!」
東雲栄「ああ・・・そうだな」
神崎イチゴ(波打ち際を歩く二人。砂浜に『好き』って書いたり、夕陽を眺めたり・・・)
神崎イチゴ(そして重なる二人の影・・・きゃああ~!! まさに王道中の王道っ・・・!)
東雲栄「イチゴ、何をしてるんだ? こっちだぞ」
神崎イチゴ「え、波打ち際は歩かないの?」
東雲栄「さすがに、今の時期の入水はキツイだろ」
神崎イチゴ「ぶ、物騒な言い方しないで!」
〇断崖絶壁
栄に連れられてイチゴが来たのは、見晴らしのいい崖だった。
神崎イチゴ(あれ・・・? 恋愛漫画に、崖のシーンなんてあったかしら・・・)
神崎イチゴ(あるとしたら・・・)
東雲栄「ふむ・・・いい絶壁だ。ここからならきっと犯人もいい具合に消えることが・・・」
神崎イチゴ「や、やっぱりミステリーじゃないっ!」
東雲栄「はっ!? し、しまった!」
神崎イチゴ「これのどこが本格的なデートなの!? 胸がキュンとするどころか、心臓がヒュンってなっちゃうよっ!」
東雲栄「だ、だが海は綺麗だろう? 海はミステリーだけでなく、恋愛漫画の王道のはず!」
神崎イチゴ「ここ、崖だけどね・・・」
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