10,000,000,000 ‐ヴィリヲン‐

在日ミグランス人

第13話 ナノマシン(脚本)

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〇村の広場
黒孩子「・・・・・・」
アメタ「何だよ」
アメタ「支給品の食糧だ」
アメタ「食べた事ないか?」
黒孩子「ない」
アメタ「んじゃ、コレは?」
黒孩子「はじめて見た」
アメタ「やるよ。貰いもんだし」
アメタ「美味いか?」
黒孩子「うん・・・・・・」
  イケナイ事をしてしまった気がする。
  まあ人生経験ってやつだ。
アメタ「ハイヌヴェレ博士について聞きたい」
黒孩子「ハイヌ先生は、いろんな事を教えてくれる人」
黒孩子「火のおこし方とか、飲水の作り方とか」
アメタ「生活の知恵っていうよりは、サバイバル知識だな」
  こんな農村部では実用的だろう。
  しかし博士は何を考えているのか。
アメタ「親はいないのか?」
黒孩子「・・・・・・」
黒孩子「ぼくらは親に捨てられたんだ・・・・・・」
黒孩子「ころされそうになった子もいる・・・・・・」
  大体察しはついていたが、やはり実際に子供の口から聞かされるとショックだった。
  今は世界的な食糧不足だ。
  こんな都市部から離れた田舎では政府の手も行き届かない。
  つまり自活していかなくてはならない。
  しかし誰もが理想の生活を築ける訳じゃない。
  食い扶持を減らす為に、子供を棄てたり、場合によっては殺す事もあるだろう。
  世界の一員として計上されず、親からも見放された子供達。
アメタ「・・・・・・」
  言葉が見つからない。
  僕は大人として、どんな言葉をかけてやれば良いのだろうか。
  虐待されていたとしても、親がいただけ幸せだったのだろう。
  平和な国で、人並みの扱いを当たり前の様に享受する。
  この子等にとって、それは贅沢以外のなにものでもない。
  子供は親を選べない。
  僕の少年時代は、母さんとの闘争に費やされた。
  決して明るいとは言えなかった。
  それでもこの子達に比べれば・・・・・・
  止めよう。幸福なんて他人と比べるもんじゃない。
黒孩子「でもハイヌ先生は、ぼくらを助けてくれた」
黒孩子「あれで土地をきれいにしてるんだって」
  少年が教会の煙突を指差す。
  僕とムルアが捕らえられていた教会だ。
黒孩子「こんな風がふく日は、えんとつが歌うんだよ」
アメタ「歌う?」
アメタ「煙突の首に風が当たって、空洞共鳴でも起こすのか?」
アメタ「・・・・・・」

〇村の広場
アメタ「何だ・・・・・・ これ・・・・・・」
ムルア「音が振ってくる?」
ウリコ「すごい・・・・・・」
  空洞共鳴でこんな音は出ない。
  煙突から何か吐き出されているのか。
  土地を綺麗にする何か。
  ハイヌヴェレ博士の仕事、という事は・・・・・・
アメタ「ナノマシンか!」
  汚染された土壌に生物相を戻す為の分子群。
  穢れた水と、化学物質によって犯された土地を、元の健全な状態に戻す小さな虫達。
  テラフォーミングってやつだ。
  まるで神の様な振舞い。
  進化を忘れた人類は、環境を調整する事で生き長らえてきた。
  酷く傲慢で、おこがましい行いかも知れない。
  しかし子供達が生活出来ているという事は、成果は出ているのだろう。
ウリコ「きれいだね」
アメタ「ああ・・・・・・」

〇村の広場
ウリコ「いってらっしゃい」
アメタ「ああ。いってきます」
ムルア「気をつけてな」
  こんな風に送り出してもらうのは何時以来だろう。
  家族を持つのも、悪くないかも知れない。

〇荒地

〇荒野

〇火山のある島

〇雪山
アメタ「うわぁ・・・・・・」
アメタ「流石にここからは歩きかぁ・・・・・・?」
  スーツを寒冷地仕様に調整。
  更に事前に用意しておいた、荷物運搬用のロボットを車から降ろす。
アメタ「これで良し、と」
アメタ「頼んだぞ。相棒」

〇岩山
  酸素が薄い。
  行けども行けども変わらない景色。
  極地に慣れていない身体はすぐに悲鳴を上げる。
  こんな環境では命は生きられない。
  人は勿論、動物も昆虫も、たぶん細菌やウイルスさえも。
  命の存在を否定する場所。
  まるで地獄。
  神々が住まうとは良く言ったもんだ。
アメタ「ふう・・・・・・」
  移動し、休憩をはさみ、また移動する。
  中々厳しい仕事だ。
  食糧は子供達と食べてしまったので、人工肉しかない。
  相変わらず素晴らしい味だ。
  感動のあまり涙が出てくる。
アメタ「お前も食べるか?」
アメタ「だよな・・・・・・」
  幼児退行のリスクは何とも言えない。
  まだ確たる情報は何もない。
  何より僕が倒れたら、すべておしまいなのだ。

〇森の中の小屋
アメタ「これは・・・・・・」
  突然、雪山には不釣り合いな小屋が姿を現した。
アメタ「魔女でも住んでるのか?」
  恐らく例のテラフォーミング・ナノマシンのお陰なのだろう。
「おやおや・・・・・・」
ハイヌヴェレ「お客さんとは珍しいやぁねぇ・・・・・・」
  間違いない。
  端末で確認した顔だ。
  LLPAWMの開発者。
  ハイヌヴェレ博士だ。
アメタ「突然の訪問で申し訳ありません」
アメタ「食糧監察官のアメタ・オオゲツと申します」
アメタ「ハイヌヴェレ博士で間違いありませんね?」
ハイヌヴェレ「如何にも。どんな用向きかな?」
アメタ「現在、世界規模で起きている幼児退行化現象をご存知ですか?」
ハイヌヴェレ「一応」
アメタ「貴女の開発したナノマシンについて、お話を伺いに来ました」
ハイヌヴェレ「LLPAWMが幼児化に関与していると?」
アメタ「わかりません」
アメタ「兎に角、情報が欲しい」
アメタ「それから・・・・・・」
ハイヌヴェレ「うん?」
アメタ「服、着て下さい・・・・・・」
ハイヌヴェレ「ああ、済まないね」
ハイヌヴェレ「長らく人と会っていないもんだから・・・・・・」

〇木造のガレージ

〇怪しいロッジ
アメタ「しかし凄い所ですね」
ハイヌヴェレ「技術が進歩すると、どこにいても仕事が出来るからね」
アメタ「不便じゃありませんか?」
ハイヌヴェレ「ああ、物凄く不便だよ」
ハイヌヴェレ「でも利便性を求めるとキリがないからね」
ハイヌヴェレ「究極的に人間は何もしなくなる」
  悟った様な口ぶりだったが、実際そうなのだろう。
  誰だって働きたくはないし、出来れば快楽に溺れていたい。
  意思決定は他人に任せ、自分では難しい事は考えたくない。
  その一方で自由を求め、責任は誰かに押し付けてしまうのが一番楽ちんだ。
アメタ「どうしてこんな生活を?」
ハイヌヴェレ「人間が嫌になった。それだけさ」
ハイヌヴェレ「口に合えば良いのだが」
ハイヌヴェレ「ヤギのミルクだ」
アメタ「天然物ですか? 素晴らしい」
ハイヌヴェレ「腹を壊しても恨まないでくれ給えよ」
ハイヌヴェレ「殺菌なんてしてないからね」
アメタ「頂きます」
  凄まじい美味しさだった。
  官能的といっても良い。
  濃厚な甘みが口いっぱいに広がるが、まったく後を引かない。
  柔らかな香りが鼻を抜ける度に穏やかな気分にさせてくれる。
  興奮と安堵が同居した様な、
  油断すれば絶頂に達してしまいそうな味だった。
ハイヌヴェレ「どうだい?」
アメタ「ア、アへぇ・・・・・・」
ハイヌヴェレ「あへ?」
ハイヌヴェレ「阿片など入っていないが・・・・・・」
ハイヌヴェレ「大丈夫か? 君・・・・・・」

次のエピソード:第14話 LLPAWM

コメント

  • 今、生まれて初めてヤギのミルクが飲みたくなってます・・・

  • 山羊ミルクといえばハイジを思い出します…ミルクも飲んでみたいし、チーズも1度食ってみたい…とろとろの奴…🤤
    ナノマシンでテラフォーミングして環境調整って、中々に神がかった技術力ですね。また楽しませていただきます!!

  • 山羊は匂いが強いですよね。好きな人は癖になるそうですが。ギリ臭み少なめの山羊チーズは食べられました。
    人を選ぶ食べ物ですが、この食糧難の世界ではクセすら堪らないんだろうなと想像できました。
    アメタくんみたいな変態には特に(笑)

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