トランクの人

銀次郎

この世と言う名の小箱(脚本)

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銀次郎

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〇雑踏
  夢を見た‥
  苛立ちと傲慢さが込められた不快な視線で
  誰かが見ている‥
  心の奥に澱のような、嫌な気持ちが残る
  そんな夢を‥

〇古いアパートの一室
若宮はづき「うわ‥ なんだろ、この夢‥」
若宮はづき「汗でぐっしょり‥ まだ10時前だし、シャワー浴びよっと」

〇黒背景

〇アパートの玄関前
  ピンポーン♪
配達員「どうも。お届け物です」
若宮はづき「あっ、はい じゃあ、これ昨日のトランクです」
配達員「はい、回収します あっ、そうだ‥今回の取り扱い注意なんで」
若宮はづき「取り扱い注意‥?」
配達員「絶対開けないのと、あんまり乱暴に扱わないで下さいって言われてますんで」
若宮はづき「はぁ‥はい」
配達員「とにかく伝えましたから それじゃ」
若宮はづき「そんなことしないけどな‥ 信用されてないのかな?」

〇古いアパートの一室
若宮はづき「とりあえず、トランクの中身を確認と‥」
若宮はづき「箱‥か」
  カサカサ‥
  カサカサ‥
若宮はづき「音がする‥ えっ? 生き物‥?」
若宮はづき「うーん、これは初めてだな‥ どうしたら‥ あっ、メモの確認と‥」
若宮はづき「15時 反町中央1-2-1 千寿ビル28階 受け取り人 女性 (注意)取り扱い注意!」
若宮はづき「取り扱い注意か‥ まあ、とにかく行きますかね!」
  プルルルルー📞
  プルルルルー📞
瑠璃沢(るりさわ)「電話に出ませんか‥ もう出発してしまったようですね‥」
瑠璃沢(るりさわ)「事前に伝えておくべきでした、中身を渡したらすぐ帰るようにと‥」
瑠璃沢(るりさわ)「何事も無ければよいのですが‥‥」

〇高層ビル
若宮はづき「ここか、千寿ビル‥高いなー! 28階ってどのあたりなんだろ?」
若宮はづき「受付で聞けばわかるかな‥」

〇高層ビルのエントランス
若宮はづき「えーっと‥ 誰に聞けば‥」
宇津木「失礼しますが、何かご用件でしょうか?」
若宮はづき「あっ! はい、あの、 15時にここに来るようにと」
宇津木「15時‥」
若宮はづき「はい、15時に、ここの28階に来るようにと言われているんですが‥」
宇津木「28階‥なるほど、あなたでしたか 失礼しました、ご案内いたします」
若宮はづき「ありがとうございます」

〇エレベーターの前
宇津木「どうぞ、こちらのエレベーターをお使いください」
若宮はづき「ありがとうございます‥あれ?」
宇津木「どうかいたしましたか?」
若宮はづき「あの、28階のボタンが無いんですけど?」
宇津木「28階にいける方は限られていますので、その階のボタンをつけていないんです」
若宮はづき「じゃあ、どうやって行けばいいんですか?」
宇津木「こちらで設定してありますので、乗って頂ければ自動で28階に向かいます」
若宮はづき「へー‥ あっ、じゃあ、行ってきます」
宇津木「はい、いってらっしゃいませ」

〇エレベーターの中
若宮はづき「自動でって、変なの じゃあ、降りるときもボタンを押さないでいいのかな‥」
若宮はづき「中は普通のエレベーターなのになぁ‥」
  ピンポーン♪
  『28階です』
若宮はづき「着いた‥ここか」

〇洋館の廊下
若宮はづき「これ‥なに?」
若宮はづき「何か洋館みたいな‥ こんな風にビルの中も作れるんだ‥ あっ、奥に扉がある」
若宮はづき「扉はあれしかないしな‥ とりあえず、いくしかないか」
若宮はづき「えーと、ノックでいいんだよね‥」
  その時、ふいに扉が開いた
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あら、あなたね」
若宮はづき「うわ! あっ、あの‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「どうぞ、中に入って」
若宮はづき「はっ、はい」

〇貴族の応接間
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「どうぞ、適当に座って」
若宮はづき「うわー‥‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あら? どうかした?」
若宮はづき「あの‥ここって、ビルの中ですよね?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あー‥ ふふ、珍しい? まあ、私の趣味だからね 気にしないで」
若宮はづき「趣味‥ ここでお仕事されてるんですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「違うわ、ここは特別な部屋よ 部屋と言うか、この階がね ここに来られるの限られた人だけ」
若宮はづき「そう言えば、案内してくれた方も そんなこと言ってました」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「私が仕事をするの別の階の社長室 ここは限られた人だけしか招かない場所よ」
若宮はづき「社長さん‥なんですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あら自己紹介してなかったわね 私は千寿千穂呂というの」
若宮はづき「千寿‥このビルと同じ名前なんですね」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ええ、ここは私の会社よ あなた、『千の導き』って知ってる?」
若宮はづき「『千の導き』って、確か占いの何かですよね?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう。日本全国にある占い館『千の導き』 それを私が代表の会社、千寿グループが運営しているの ここはその本社ビルね」
若宮はづき「そうだったんですか‥ 社長さんだから、こんな風に‥その、 何て言うか‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「好き勝手な部屋を作れるってこと? まあ、その通りね」
若宮はづき「凄いですね」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふふふ、ありがと ところで、荷物は?」
若宮はづき「あっ、はい これです!」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ありがとう ようやくね‥」
若宮はづき「あの‥それ」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「えっ?」
若宮はづき「取り扱い注意だって言われてますので 気をつけて下さい」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ああ‥まあ、そうね でも‥ふふふ」
若宮はづき「えっ? どうかしましたか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「だって、あなた、ふふふ 今日で何回目? この中身を渡す仕事?」
若宮はづき「あの5回目です‥けど」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「じゃあ、もう気がついてるんでしょ? 中身を渡した相手‥その後にどうなるのか?」
若宮はづき「それは‥‥はい」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「それなのに気遣うって‥面白いわね」
若宮はづき「すいません‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あら、ごめんなさい 別に責めてるわけじゃないのよ 落ち込ませちゃったかしら?」
若宮はづき「いえ‥大丈夫です」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふふふ、ごめんなさい せっかくの彼のお気に入りに 嫌みな事を言っちゃったわね」
若宮はづき「彼のお気に入り?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「彼よ、瑠璃沢 だってあなた、瑠璃沢に雇われたんでしょ?」
若宮はづき「瑠璃沢さんの事を知ってるんですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「知ってるも何も、以前は一緒にやって仲ですもの」
若宮はづき「一緒にって‥あの、トランクの‥ この仕事をですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「まあ、トランクの件はこの役目の一部だけどね‥ あら?あなた、瑠璃沢からどこまで聞いてるの?」
若宮はづき「いえ‥詳しいことは何も 全て終わったら話してもらう約束ですけど‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふーん‥ じゃあ、私があまり話さないほうがいいのかも知れないわね」
若宮はづき「そうなんでしょうか‥やっぱり」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふふふ (さて、どうしたものか‥)」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ところであなた? これが何かは知らないのよね?」
若宮はづき「これ? この箱の中身ですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「箱の中身もそうだけど、 この箱が何なのかよ」
若宮はづき「詳しいことは何も‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「彼のお気に入りみたいだし、 せっかくだから教えてあげるわ これはね、『蟲毒』と言うの」
若宮はづき「『蟲毒』?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「蟲の毒と書いて『蟲毒』 まあ古くからある呪術の一種よ」
若宮はづき「じゅじゅつ‥呪文とか呪いみたいなモノですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そうね、人を呪って殺めたり貶めたりする方法ね」
若宮はづき「そんなこと、ホントに出来るんですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「まあ、古来の中国ではこれで人を殺めようとした場合、絞首刑って法律があったぐらいだから、あながち嘘でも無いんじゃない?」
若宮はづき「そんなことが‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「日本でもそうよ 確か西暦770年頃かしら?井上内親王が蟲毒を行った罪で処分されてるし、まあ昔から効果はそれなりにね‥」
若宮はづき「あの‥千寿さんはそれで誰かを、その‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「呪うのかって? ふふふ、まあ、それも悪くないわね‥ でも‥」
若宮はづき「でも?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ねえ、あなた お名前は?」
若宮はづき「あっ、若宮はづきといいます」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふーん、はづきさんね ねぇ、はづきさん? この箱の中身、何だかわかる?」
若宮はづき「中身ですか?‥そう言えばカサカサと 音がしていましたけど‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「まあ、まだ生きてるから」
若宮はづき「生きてるって、生き物が入ってるんですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「虫よ」
若宮はづき「虫?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう‥『蟲毒』はね、たくさんの虫を箱の中に入れ、共食いさせ、最後に生き残った一匹を使って行う呪術なの」
若宮はづき「共食い‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「だからこの箱の中にはその最後の一匹が入っているの あなたが聞いた音、それはその虫の出した音よ」
若宮はづき「‥‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ねえ、残酷よね‥ほんと でも、これって同じだと思わない?」
若宮はづき「同じ?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう同じ‥ 私たちが暮らす今の世の中と同じなのよ」

〇高層ビル
調整人・綴木(つづるぎ)「ここか‥間に合えばいいが‥」

〇高層ビルのエントランス
調整人・綴木(つづるぎ)「さて‥どこから行くかな」
宇津木「失礼します 何かご用件でしょうか?」
調整人・綴木(つづるぎ)「15時ごろに女性が訪ねてきたはずだが?28階に用事あると言って その女性はどこにいる?」
宇津木「‥申し訳ありませんが、そう言った事にはお答えできません お引き取り下さい」
調整人・綴木(つづるぎ)「すまないがあまり時間が無いんだ 答えを貰えないなら勝手に行かせてもらう」
宇津木「困りますな、警備の者を呼びますよ」
調整人・綴木(つづるぎ)「なるほど、面倒をかけるなということかな? だとしたらしょうがない」
  調整人はそう言うと、宇津木の肩に軽く手を置いた
宇津木「申し訳無いがやめてもらえるか! すぐに警備を‥‥」
宇津木「うわっ‥ぐっ‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「一時的な事だ、時間が経てば収まるよ それより28階にはどう行けばいい?」
宇津木「エレ‥ベーター‥で‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「あれに乗ればいいのか?」
宇津木「だ‥こちらで操作しないと‥行け‥な」
調整人・綴木(つづるぎ)「では操作を頼む、急いでるんだ」
宇津木「‥しかし‥これは‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「今より酷い気分になりたくないだろ? 早くやってくれ」
宇津木「‥‥わかっ‥た」

〇エレベーターの中
調整人・綴木(つづるぎ)「問題はここからか‥」

〇貴族の応接間
若宮はづき「今の世の中と同じ‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「この箱はね、今の世の象徴なのよ 考えてみて、人は多くの競争に晒され、 生き残り、今がある」
若宮はづき「それは‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そして今の世もそう、たくさんの人々が競い合い、成功し、栄華を勝ち取る まるで蟲毒と同じ」
若宮はづき「そうかもしれませんが‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「蟲毒と同じ事を自分達で繰り返しているの‥呪いの儀式で哀れな虫達に強いた事を、何千年も前から繰り返している哀れな人類」
若宮はづき「そんな‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「さて、ではその人類と言う壮大な『蟲毒』 そこで生まれた呪いは‥どこに向かうのかしらね?」
若宮はづき「えっ!?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「だって、人は生き残る、競争するという『蟲毒』をずっと行っているんだから だとしたら、そこに呪いが生まれて当然じゃない?」
若宮はづき「でも、もし仮にそうだとしても、 世の中の人は、誰かを呪うために競争しているわけじゃ‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「『蟲毒』の虫たちもそうよ 誰かを呪うために共食いしているわけじゃないでしょ? ただ生き残りたいため、それだけよ」
若宮はづき「それは‥そうですけど‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「それにね‥呪いはかける相手がいなければ、己に返ってくるのよ」
若宮はづき「己にって‥自分たちにってことですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ええ、私たちは古くから、気づかぬうちに己を使って『蟲毒』を行い そこで生まれた呪いを全て受けることになるの」
若宮はづき「それって、どういうことですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「滅びるのよ」
若宮はづき「滅びる‥?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そんなに遠くない時期に、滅びるのよ、 人は‥みんなね 小さな不快感と傲慢さの群れ、 それが滅びの兆し」
若宮はづき「きざし‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あら、気がつかなかった? あなたなら気がついてたんじゃないの?」
若宮はづき「それは‥でも、そんな‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そんなって‥ふふふ だってあなた、その手伝いをしてるじゃない?」
若宮はづき「えっ!?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「穏やかに滅びる事を受け入れ、穏やかに青へ導く‥瑠璃沢たちがやっているのはそれ」
若宮はづき「青?青って、青い光のことですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ええ、あの光は兆しであり、信号よ 用意の出来た人々のね」
若宮はづき「そういうことだったのか‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「光が見える、光を発する、それが始まり それと‥別の力もね」
若宮はづき「別の力?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふふふ、まあそれは彼に聞いて それにね、彼のやっていることも嫌いじゃないの」
若宮はづき「中身を渡すことですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「それも含めて、例えるなら最後の晩餐に何を食べたいか?みたいな穏やかな滅び方 そちらを選びたい人も多いかもね? でも‥」
若宮はづき「でも?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「でもね、それ以外の道もある」
若宮はづき「それ以外?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「私たちが目指しているのはそっち 瑠璃沢とは違う、生き残りの道よ」
若宮はづき「生き残り‥ 滅びないってことですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう‥ 多くの人々が滅びるのは防げない でもね、すべてがそうなるわけじゃない」
若宮はづき「‥‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「競争の結果、淘汰されて生き残り そこに新たな価値を見つけ出す 世界の終わりへ向かう道筋へは従わず、 呪いに抗う選択をする」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「私はね、それを選んだから瑠璃沢とは離れたの」
若宮はづき「生き残る‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ねえ? あなたも手伝わない?」
若宮はづき「えっ!?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「穏やかな滅びなんて言ってるけど、ようはみんな死んじゃうって事よ あなた達のやってるのは、結局は誰かが死ぬための手伝い」
若宮はづき「それは‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「でも私たちは違う わかるでしょ?」
若宮はづき「‥‥あの」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「なあに?」
若宮はづき「競争に負けた人はどうなるんですか?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「淘汰は淘汰よ、全てが生き残れるわけではないわ‥それだけの呪いだから でも、全て等しく滅びるよりはまし そう思わない?」
若宮はづき「でも、でも‥何か他に‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「少なくとも私たちの選択に希望はあるわ それは彼らとは違うの」
若宮はづき「‥‥あの、なんで私なんですか? 私はただ、中身を届けてるだけの‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そんな役目だけに瑠璃沢があなたを見つけたと思う? あなたには別のものがあるのよ」
若宮はづき「別のもの‥?」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「そう、他の人にはない、特別なもの 私たちの元にくれば、それを全て教えて‥」
  その時、扉を叩く大きな音が部屋に響いた
  ドンドンドン!!
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「‥誰も来られないはずなのに どういうことかしら?」
  扉を開けると、黒いスーツの男が部屋の中に入ってきた
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「いったい、どなたかしら?」
調整人・綴木(つづるぎ)「彼女の用事は済んだはずだ 帰らせてもらう」
若宮はづき「あの‥どなたでしょうか?」
調整人・綴木(つづるぎ)「瑠璃沢に指示を受けてな あんたを迎えに来た」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「瑠璃沢に‥ふーん‥ あー、なるほど‥その青、調整ね」
若宮はづき「調整?」
調整人・綴木(つづるぎ)「迎えに来ただけだ 揉め事を起こすつもりはない 邪魔をしないでくれれば‥だが」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あらあら、怖い怖い ふふふ‥まあ、いいわ、今日のところは はづきさん、素敵な王子様が迎えに来てくれて良かったわね」
若宮はづき「えっ? あの‥でも‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「今日のところはお帰りなさい でも、いつでもいいのよ あなたの考えが変わったらいつでも ここに来てちょうだい」
調整人・綴木(つづるぎ)「では帰らせてもらう ‥いくぞ」
若宮はづき「あの‥でも‥」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「ふふふ‥必ずまた会えるわ その時を楽しみにしてるわね」
調整人・綴木(つづるぎ)「いくぞ」

〇エレベーターの中
若宮はづき「あの‥ありがとうございました‥ 迎えに来てくれたんでしょうか?」
調整人・綴木(つづるぎ)「俺は瑠璃沢に頼まれた事をやっただけだ」
若宮はづき「そうですか‥ そう言えば、お名前、あの、 ちょうせいさんですか?」
調整人・綴木(つづるぎ)「ちょうせいさん? ‥ああ、いや違う‥ 名前は、綴木だ」
若宮はづき「つづるぎさん‥ 初めまして、若宮はづきと言います」
調整人・綴木(つづるぎ)「ああ、初めましてだな」
  ピンポーン♪
  『1階です』
調整人・綴木(つづるぎ)「着いたか‥ よし、出るぞ」
若宮はづき「はい」

〇高層ビルのエントランス
調整人・綴木(つづるぎ)「とっととここを離れよう」
若宮はづき「あっ、ちょっと待って下さい!」
調整人・綴木(つづるぎ)「あっ!ちょっと待て! おい!」
若宮はづき「大丈夫ですか? 具合悪いんですか?」
宇津木「ううっ‥あなたは‥」
若宮はづき「どなたか呼んだほうが‥ それとも救急車でも」
調整人・綴木(つづるぎ)「しばらくすれば直るから、 気にしなくていい いくぞ!」
宇津木「ううっ‥‥」
若宮はづき「でも、熱でもあるのかも ちょっと額さわりますね‥」
宇津木「ううっ‥う‥ あっ、あ‥あれ?」
調整人・綴木(つづるぎ)「これは‥」
若宮はづき「熱はないみたい それに顔色も良くなってきましたね」
宇津木「あっ、ありがとうございます 何やら急に気分の悪さが収まりました」
調整人・綴木(つづるぎ)「(この女‥そういうことか‥)」
若宮はづき「良かったです! あっ、28階に行って、ちゃんと荷物も渡せましたので」
宇津木「そうですか‥ とにかくご無事にお帰りになれるようで 何よりです」
若宮はづき「無事に?」
宇津木「いえ、何でもございません お気をつけてお帰り下さい」
若宮はづき「はい!」
調整人・綴木(つづるぎ)「いくぞ」

〇高層ビル
調整人・綴木(つづるぎ)「じゃあ、俺はここで」
若宮はづき「あっ、はい! 何かわざわざ迎えに来てもらって、 ありがとうございました」
調整人・綴木(つづるぎ)「‥‥彼女がよろしくと言っていた」
若宮はづき「彼女?」
調整人・綴木(つづるぎ)「白崎‥白崎文月だ」
若宮はづき「文月さん!? 文月さんに会ったんですか!? 文月さん、今どこに!」
調整人・綴木(つづるぎ)「‥‥」
若宮はづき「あっ‥‥そうですよね‥」
調整人・綴木(つづるぎ)「‥それじゃ」
若宮はづき「はい‥」
若宮はづき「そうだよ‥ね‥」

〇古いアパートの一室
若宮はづき「何か‥疲れた‥」
  プルルルルー📞
若宮はづき「電話か‥」
瑠璃沢(るりさわ)「お疲れ様です 瑠璃沢です」
若宮はづき「はい、若宮です」
瑠璃沢(るりさわ)「ご無事でしたでしょうか?」
若宮はづき「あっ、はい 大丈夫です‥あの‥」
瑠璃沢(るりさわ)「なんでしょう?」
若宮はづき「今日、中身をお渡しした方、 千寿さんと言って‥ 以前は瑠璃沢さんと一緒に‥その‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥そうですか 彼女から色々とお聞きになったんですね」
若宮はづき「はい‥ だから聞きたいことが、 すごくたくさんあって‥」
瑠璃沢(るりさわ)「お気持ちは理解できます ですが‥もう少し待っていただけますでしょうか?」
若宮はづき「‥はい 全て終わったら教えていただけるって 約束なので、それまで待つつもりです‥ でも‥」
瑠璃沢(るりさわ)「でも?」
若宮はづき「ひとつだけ教えてください ‥‥私たちって滅びるんですか?」
瑠璃沢(るりさわ)「‥はい、滅びます」
若宮はづき「そんな‥」
瑠璃沢(るりさわ)「そう遠くない未来‥ 5~6年以内と言ったところでしょうか」
若宮はづき「何だか信じられない‥ 実感がわかなくて‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥無理もないかと思います」
若宮はづき「でも、あの方‥千寿さんは 生き残る道もあるって」
瑠璃沢(るりさわ)「‥彼女はそう判断したんでしょう でも、それで本当に生き残れるのかはわかりません、それに‥」
若宮はづき「それに?」
瑠璃沢(るりさわ)「おそらく‥ほとんどの方は助からないかと」
若宮はづき「あの‥何て言うか‥ 希望みたいなものって‥ありますか?」
瑠璃沢(るりさわ)「希望?」
若宮はづき「はい‥希望です」
瑠璃沢(るりさわ)「それは‥どんな道を選ぶかによって 希望の形も違うものになるかと」
若宮はづき「‥‥」
瑠璃沢(るりさわ)「いまお話しできるのはこのぐらいです ご理解ください」
若宮はづき「そう‥ですか ‥あっ、あの」
瑠璃沢(るりさわ)「はい?」
若宮はづき「あの、黒いスーツの方 確か綴木さんと言われてたんでけど、 あの方は?」
瑠璃沢(るりさわ)「彼は私たちの仲間です 少し特殊な役目をお願いしています 今回のような事は例外的ですが」
若宮はづき「迎えに来てくれたみたいで‥ 瑠璃沢さんに頼まれたと言ってました その‥ありがとうございます」
瑠璃沢(るりさわ)「あっ‥いえ‥」
若宮はづき「綴木さんて、何か不思議と言うか 青い色も独特だし‥」
瑠璃沢(るりさわ)「‥‥そうですか そうそう、若宮さん」
若宮はづき「あっ、はい?」
瑠璃沢(るりさわ)「明日と明後日はお休みになります 久しぶりにゆっくりなさって下さい」
若宮はづき「休み‥そうか」
瑠璃沢(るりさわ)「ええ、ここまで大変な5日間だったと 思います 少しリラックスされてください」
若宮はづき「はい、ありがとうございます」
瑠璃沢(るりさわ)「それでは、次の月曜日の夜に またご連絡します 本日はお疲れ様でした」
若宮はづき「はい、お疲れ様でした」
若宮はづき「休みか‥何しよう‥」
若宮はづき「希望って‥ないのかな‥」

〇貴族の応接間
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「あの子‥どうするかしらね ふふふ あっ、そうそうこれ」
千寿千穂呂(せんじゅちほろ)「何に使うか‥ふふふふ」
  続く

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