世界最後の日に、ぼくはきみに恋をした

喜多南

#4 最果てのメモリー(脚本)

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喜多南

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〇デパートの屋上
  向き合うエイジとキョウの間に、先ほどまであった和やかな空気はすっかり消え失せていた。
キョウ「歌うなって、なんで・・・?」
エイジ「・・・・・・」
キョウ「ねえ、ずっと疑問には思ってたんだよ。 エイジさん、どうして作曲をやめちゃったの?」
エイジ「・・・きみには、関係ないだろ」
キョウ「関係あるよ! 私ファンだったもん! 毎日毎日、エイジさんの作った曲を聴いてたんだよ!?」
キョウ「あんなにヒット曲連発してたエイジさんが、高校生になったあたりで突然作曲やめちゃって・・・私、ショックだった」
エイジ「それは、世界がこんな風になったから──」
キョウ「ううん違う。こんな風になる前から、エイジさんは音楽をやらなくなった。 活動を追ってたんだからわかるよ」
キョウ「これから世界的に活躍するだろうって言われてたのに、突然消えちゃって。 ネットでも一時期大騒ぎになってたよ」
エイジ「・・・・・・」
キョウ「一緒に音楽を探して仲良くなれば、エイジさんはまた曲を作ってくれるんじゃないかって期待してたけど・・・」
キョウ「どうしてそこまで、音楽を拒むの?」
キョウ「エイジさんのこと、もっと知りたいよ・・・!」
  真剣な眼差しを向けてくるキョウを前に、エイジは深く息を吐きだす。
エイジ「・・・わかったよ。そこまで言うなら教えてやる」
エイジ「中学生になったあたりで打ち込みにはまって、ぼくは作った曲を次々ネットに発表しただろ」
キョウ「・・・うん」
エイジ「想像以上に反響が大きくて、最初は嬉しかった」
エイジ「どんどん話が大きくなって、気づけばメジャーデビューしてた」
エイジ「でも・・・そのことで両親がおかしくなっちまったんだよ」
キョウ「エイジさんの、お父さんとお母さんが・・・?」
エイジ「今までぼくのやることに興味なんて示さなかったのに、金になるって知った途端、事務所との契約とか、権利がどうとか」
エイジ「ぼくのやることにいちいち口出しするようになって・・・」
エイジ「売れる曲を書けって、もっとたくさん作れって言われて──気づけばぼくは、道具みたいに扱われてた」
キョウ「そんな・・・ひどい・・・」
エイジ「ただ楽しくて作ってた頃とは、ぼくの中で何かが変わってしまった」
エイジ「売れる曲を作れ作れ作れ・・・そうやって言われるうちに、何も出てこなくなったんだ」
エイジ「作曲しろって言われると、吐き気すらするようになった」
エイジ「だから僕は音楽をやめた」
エイジ「一年前に、世界が終わるって発表されたのは、ぼくにとって都合が良いとすら思った」
エイジ「もう誰もぼくに曲を作れなんて言わない」
キョウ「私・・・一緒に曲を作ろうなんて・・・ごめんなさい・・・」
キョウ「エイジさんの両親は・・・今、どうしてるの?」
エイジ「さあね。このあたりは被害が少ないし、ぼくの家も残ってる。 まだ生きてるんじゃないか」
エイジ「あの家には、良い思い出がないから、二度と戻りたくない・・・って、世界が終わるまであと二日か」
エイジ「そしたら全部消えてなくなるな」
キョウ「私、気づかない間に、エイジさんをたくさん傷つけてたんだね・・・」
エイジ「・・・きみには申し訳ないけど、ぼくは音楽が嫌いで、こんな世界も嫌いだ」
エイジ「期待されても、作曲はできない。 ぼくの中に、音楽はもうないんだ」
エイジ「これ以上、きみと音楽を探すことはできそうにない」
キョウ「・・・そっか。うん、そうだよね・・・わかった」
キョウ「教えてくれてありがとう。それと、振り回しちゃって、辛い気持ちにさせちゃって、本当にごめんなさい」
キョウ「私はひとりでも大丈夫だから」
  キョウが笑顔を向けてくる。見ているのが辛くなって、エイジはその場から逃げるように立ち去った。

〇廃墟の倉庫
  翌日。エイジは避難所に足を運び、食糧の配給列に並んでいた。
  こんな世界にもまだボランティアや自衛隊は機能していて、ギリギリで助け合っている。
エイジ(デパートに置いてきちゃったけど、キョウのやつ、どうしてるかな)
エイジ(・・・まだ音楽を探してるのかな)
エイジ(ああくそ、もう忘れろ・・・! ぼくには関係ない)
男A「あー、ぜんぜん列うごかねーな・・・」
男B「生き残ってるやつ、けっこういるからな。普段どこに隠れてるんだか」
  前に並ぶ男たちが雑談をしていて、エイジは何気なく耳を傾けてしまう。
男A「やばい奴らが集団になって暴れまわってるんだ。みんな必死に隠れてる」
男B「はは、どうせもうすぐ死ぬのにな」
男A「誰も自分が死ぬなんて思っちゃいないさ。なんか奇跡が起きて自分だけが生き残れるって思ってる。お前だってそうだろ」
男B「そうだなぁ。死ぬって言われても実感わかねえ」
エイジ(呑気なやつらだな・・・)
男A「ああそうそう、夜明けのあれ、聞いたかお前」
男B「夜明けのあれってなんだよ」
男A「鐘だよ鐘。朝早くにゴーンゴーンって、何度も鐘が鳴ってた」
エイジ(寺の鐘・・・? まさかキョウが・・・?)
男B「へえ、誰がそんなバカなことしてんだろね。暴徒のいいターゲットじゃねえか」
エイジ(もう僕には関係ない・・・もう僕には・・・)

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