世界最後の日に、ぼくはきみに恋をした

喜多南

#5 世界最後のハピネス(脚本)

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喜多南

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〇荒廃した街
  最後の日を拒むように、街中が息を殺し、ひっそりとしている。
  その中をエイジとキョウは全速力で駆け抜けていた。
キョウ「ね、ねぇ・・・っ、エイジさん・・・っ、一体どこに行く気なの!?」
キョウ「説明してくれないと、わかんないよ・・・っ」
エイジ「行けばわかる・・・っ」
エイジ「隕石がいつ到達して、世界がどんな状態になるのかもわからないし」
エイジ「急ごう・・・っ!」

〇大きな一軒家
  エイジがキョウの手を引き、連れてきたのは──なんの変哲もない一軒家だった。
キョウ「エイジさん・・・あの、ここって」
エイジ「ぼくの家」
キョウ「えっ・・・なんで・・・」
  バリケードにしているのか、積み上げられた家具の向こうから、やつれた男と女が出てきた。
  手には武器を持ち、険しい表情だ。
エイジの父「だれだ・・・っ!」
エイジの母「ここには何もないわよ! 出て行かなきゃ殺すわよ!」
エイジ「・・・ぼくだよ」
エイジの母「・・・エイジ?」
エイジ「ああ。そっちもまだ生きてたんだな」
エイジの父「お前・・・今更何しに・・・悪いが食糧はないぞ」
エイジの母「何よ、私たちに復讐でもしに来たっていうの!?」
エイジ「そんなんじゃないよ。忘れ物を取りにきただけだ」
エイジ「行こう、キョウ。二階にぼくの部屋がある」
キョウ「う、うん」
エイジの母「エイジ・・・ッ」
エイジ「・・・最後に、顔を見れて良かったよ」
エイジ「もう会うことはないと思う。さよなら」
  エイジの言葉に、父はうつむき、母は泣き崩れた。
  二階へ上がっていくエイジに、キョウもついてくる。
キョウ「エイジさん、良かったの?」
エイジ「何が?」
キョウ「その・・・一発殴るとか、辛かった気持ちを伝えるとか・・・そういうことをしに来たのかなって思ったから」
エイジ「違うよ」
キョウ「じゃあなんでここに・・・?」
エイジ「ぼくは両親に傷つけられて、音楽が作れなくなったことを恨んでた」
エイジ「それで、この家をずっと避けてた」
エイジ「でも、そんなこともうどうでもよくなった」
エイジ「もっと早くこの気持ちに気づくべきだったんだ」
エイジ「そうしたら、すぐにこの家に来たのにな」
  二階にたどりつき、エイジは一室のドアを開き、中へと踏み込んでいく。
エイジ「──良かった。まだちゃんと残ってた」
キョウ「これって・・・!」
  エイジが指し示す先には、壁に立てかけられたクラシックギターがあった。
キョウ「エイジさん、ギター持ってたんだね・・・」
エイジ「黙っててごめん」
エイジ「作曲する時、たまに使ってたんだ。正直あんまりうまくはなかった」
エイジ「まぁ使ってなかった分、痛みは少ないと思う」
エイジ「さすがにピッチはずれてるだろうけど・・・」
エイジ「キョウのギターを壊しちゃった時に思い当たったんだけど、でも、この家に戻るのが嫌だったから、言い出せなかった」
キョウ「これ・・・もしかして・・・私のために?」
エイジ「うん。きみにこのギターをあげたくて、連れてきたんだ」
キョウ「そんな、いいの?」
エイジ「言っただろ。自分の気持ちにようやく気づいた」
エイジ「ぼくは、きみが好きだ」
キョウ「え・・・?」
エイジ「その、だからさ・・・きみにギターを弾いて、笑っててほしい」
キョウ「・・・っ」
エイジ「やっときみに楽器を渡せ──ッ」
  エイジがギターを持ち、キョウに差し出した瞬間、地鳴りと共に大きな地震が起こった。
キョウ「エイジさん・・・!」
エイジ「大きいな・・・! いったんここを出よう!」
キョウ「う、うんっ」

〇荒廃した街
  大きな地震に人々がパニックを起こし、逃げ惑っている。悲鳴、怒号、土煙、灰。
  火の手が上がり、建物が次々倒壊していく。
キョウ「何が起きてる、のかな・・・っ」
エイジ「さあね・・・情報ももうないし。生き残ってるやつらも、何もわからず逃げてるだけだと思う」
キョウ「ど、どうしよう・・・私たちどこに行けば・・・」
エイジ「とりあえず、ぼくの拠点に戻ろう」

〇荒れた倉庫
  楽器屋に戻ってくると、悲鳴や地鳴りの音が遠くなった。
  走り抜けてきた二人は、その場にへたりこむ。
キョウ「つ、疲れたぁ」
エイジ「安全な場所なんて、もうどこにもないだろうな・・・」
エイジ「でも、幸いここは静かだ」
キョウ「うん・・・」
エイジ「怖い?」
キョウ「・・・怖くないって言ったら、嘘になる。でも、それよりも・・・色々あってパニクってて・・・ちょっと落ち着かせて」
  キョウは深呼吸を繰り返し、ようやく落ち着いてきたのか、かしこまってエイジに向き直った。
キョウ「ねぇ、エイジさん、さっき私のこと好きって言った・・・?」
エイジ「・・・言った」
キョウ「本当に?」
エイジ「なんでそこで嘘つく必要があるんだよ」
エイジ「好きにならなきゃ、世界最後の日に、戻りたくないとこにわざわざ行くかよ」
エイジ「きみといると、ぼくの中から音楽が聞こえてくるんだ」
キョウ「音楽が・・・?」
エイジ「変だよな。ずっと何も出てこなかったのに」

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