第9章 血(脚本)
〇雪山
「穢れたガキを殺せ!」
いやだ・・・
「ただの人間が・・・ これほどの魔力を持つはずがない!」
ちがう・・・
「堕天使の穢れた血から生み出された悪魔だ!」
ぼくは・・・
人間だ!
〇テントの中
ミモザ・クラリティ「ん・・・」
ミモザ・クラリティ(まだ夜ね・・・)
ミモザ・クラリティ「・・・?」
ミモザ・クラリティ(なにかが外で動いた・・・?)
〇山中の川
ノエル・エンジェライト「・・・・・・」
ノエル・エンジェライト「!」
ミモザ・クラリティ「ノエル様・・・?」
ノエル・エンジェライト「・・・貴方でしたか」
ノエル・エンジェライト「・・・起こしてしまったでしょうか」
ミモザ・クラリティ「いえ・・・」
ノエル・エンジェライト「少し・・・眠れなくて」
「・・・・・・」
「あの・・・」
ノエル・エンジェライト「・・・お先にどうぞ」
ミモザ・クラリティ「は、はい」
ミモザ・クラリティ「・・・・・・」
ミモザ・クラリティ(さっきはデアネイ様のことで頭がいっぱいだったけれど・・・)
ミモザ・クラリティ(こうしてふたりきりでいると・・・ なんだか落ち着かない・・・)
ノエル・エンジェライト「・・・ミモザさん?」
ミモザ・クラリティ「はっ、はい!」
ミモザ・クラリティ「・・・・・・ ノエル・・・さん」
ノエル・エンジェライト「・・・!」
ミモザ・クラリティ「あなたが勇気をくださったから・・・ 少しだけ前へ進むことができました」
ノエル・エンジェライト「・・・・・・ それは・・・貴方が踏み出したからです ぼくの功績では・・・」
ミモザ・クラリティ「でも、ああ言ってくれて・・・ わたし、うれしかったのです」
ノエル・エンジェライト「・・・やめてください ぼくは・・・」
ミモザ・クラリティ「ありがとう、ノエルさん あなたは優しい人ですね」
ノエル・エンジェライト「・・・ぼくはっ・・・ そんな人間じゃない!」
ミモザ・クラリティ「!」
ノエル・エンジェライト「あっ・・・ ・・・すみません」
ノエル・エンジェライト「ですが・・・ ぼくは優しくなどない」
ノエル・エンジェライト「この身体は・・・ おびただしい血を浴びているのですから」
ミモザ・クラリティ「血・・・? それはいったい・・・」
「!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「ノエル、ここにいたのか」
シグバート・フォン・ブラッドショット「・・・と 後ろにいるのはミモザか?」
ミモザ・クラリティ「シグバート様・・・」
〇テントの中
シグバート・フォン・ブラッドショット「ふと目覚めたらノエルがいなかったのでな」
〇山中の川
ノエル・エンジェライト「・・・すみません もう戻ります」
ミモザ・クラリティ「あ、ノエルさ・・・」
シグバート・フォン・ブラッドショット「ノエルとなにか話していたのか?」
ミモザ・クラリティ「いえ・・・ たいしたことでは・・・ないのですが」
シグバート・フォン・ブラッドショット「そうか? では戻ろう」
ミモザ・クラリティ「ええ・・・」
〇雪山
・・・声が聞こえる
地吹雪の唸り・・・
人々の呻き・・・
ぼくは・・・
どこへ行けばいい・・・
〇テントの中
ミモザ・クラリティ「・・・・・・」
ヴィオラ・コーディエ「・・・ミモザ」
ミモザ・クラリティ「ヴィオラさん・・・! 起きていたのですか?」
ヴィオラ・コーディエ「ミモザが外に行ったのは気づいたけど デアネイを置いてくわけにもいかないし」
ヴィオラ・コーディエ「それに 話し声が聞こえたからだいじょうぶかなって思ってさ」
ミモザ・クラリティ「ごめんなさい・・・」
ヴィオラ・コーディエ「ノエルと一緒にいたんだろ? 普通に話せた?」
ミモザ・クラリティ「え、ええ・・・ でもどうしてそんなことを?」
ヴィオラ・コーディエ「あいつさ さっきミモザのこと・・・」
ヴィオラ・コーディエ「えーっと、なんだっけな・・・」
ヴィオラ・コーディエ「そうそう すげー意識してるとか言ってたからさ」
ミモザ・クラリティ「えっ!? い、意識って!?」
ヴィオラ・コーディエ「おいおい デアネイが起きちゃうだろ」
ミモザ・クラリティ「ご、ごめんなさい」
ヴィオラ・コーディエ「ま、普通に話せたんならよかったよ」
ヴィオラ・コーディエ「じゃ、おやすみ」
ミモザ・クラリティ「え、ええ おやすみなさい・・・」
ミモザ・クラリティ(・・・意識? 意識って・・・どういうこと・・・!?)
ミモザ・クラリティ(ヴィオラさんのことだから、変な意味はないのでしょうけど・・・)
ミモザ・クラリティ(うう・・・ 眠れないかもしれないわ・・・)
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・・・・」
〇森の中
デアネイ・フォン・スペサルト「みんな、昨日はごめんなさい」
デアネイ・フォン・スペサルト「ボク、王都に戻るよ」
ミモザ・クラリティ「・・・・・・」
デアネイ・フォン・スペサルト「義兄上の言うとおり・・・ 父上を殺して王になったボクに、民はついてこないよね」
デアネイ・フォン・スペサルト「父上はだらしない下半身をお持ちだけど 圧政を敷いているわけじゃないし」
ヴィオラ・コーディエ「下半身・・・?」
シグバート・フォン・ブラッドショット「・・・ああ 気に入らない相手を暴力でねじ伏せるのは容易だが、それは思考停止だ」
ヴィオラ・コーディエ(なんか耳が痛いような・・・)
ミモザ・クラリティ「でも、よかった デアネイ様が考え直してくださって」
デアネイ・フォン・スペサルト「あ・・・そうだよね ミモザさんにとっても父上は父上だし・・・」
ミモザ・クラリティ「・・・いいえ」
ミモザ・クラリティ「デアネイ・・・ ・・・妹が父殺しの罪を背負わなくてよかった」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「ここからスペサルタイトまではおよそ5日だな」
シグバート・フォン・ブラッドショット「ひとまずプレーンとスペサルトの国境の町・・・エピドートを目指すぞ」
ヴィオラ・コーディエ「よーし! デアネイ、あたしたちと一緒に行こう!」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・うん!」
〇原っぱ
ヴィオラ・コーディエ「ご機嫌だね、デアネイ」
デアネイ・フォン・スペサルト「だって! 姉上がボクのこと妹って言ってくれたんだよ!」
デアネイ・フォン・スペサルト「ボク、うれしくて・・・」
ヴィオラ・コーディエ「ミモザ、今までずっと遠慮してたんだろうな」
ヴィオラ・コーディエ「ノエルのおかげだな!」
デアネイ・フォン・スペサルト「ノエルさんって・・・ あの水色の髪の、無口な人?」
ヴィオラ・コーディエ「うん この前ノエルと話して、なんつーの? 肩の力が抜けたみたいだよ」
ヴィオラ・コーディエ「ま、なにをしゃべってたかは知らないんだけどさ」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・・・・ そうなんだ・・・」
ヴィオラ・コーディエ「デアネイのしゃべり方って、ちょっと変わってるよな」
デアネイ・フォン・スペサルト「そう?」
ヴィオラ・コーディエ「王女様って、ミモザかレオナみたいな感じだと思ってたけど」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・死んだ母上がね 王になるためにこうしろって」
デアネイ・フォン・スペサルト「姉上は庶子だけど・・・ 父上の長子であることに変わりはないし」
デアネイ・フォン・スペサルト「ボクは魔法も得意じゃないし ボクが男の子なら少しは優位になるかもって、母上が」
ヴィオラ・コーディエ「ふーん・・・ 王族って大変だな」
デアネイ・フォン・スペサルト「うん、でも・・・」
シグバート・フォン・ブラッドショット「おまえたち おしゃべりはそこまでだ」
ヴィオラ・コーディエ「魔物か!」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・・・・ ボ、ボクもたたか・・・」
ミモザ・クラリティ「デアネイ ここはわたしたちにまかせて、あなたは下がって」
デアネイ・フォン・スペサルト「でも姉上・・・」
ミモザ・クラリティ「心配しないで あなたのことはわたしが守るわ」
デアネイ・フォン・スペサルト「う、うん・・・!」
ヴィオラ・コーディエ「行くぞ!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「燃えろ!」
ミモザ・クラリティ「光よ!」
ゴブリン「ギャアア!」
ノエル・エンジェライト「・・・・・・」
ヴィオラ・コーディエ「やっ!」
ウォーロック「イカズチヨ!」
ヴィオラ・コーディエ「うわったった!」
ノエル・エンジェライト「・・・・・・」
シグバート・フォン・ブラッドショット「ノエル! ヴィオラの援護を・・・ノエル!?」
ノエル・エンジェライト「!」
ノエル・エンジェライト「・・・凍てつけ!」
ウォーロック「キャエエェ!」
ミモザ・クラリティ「ふう・・・ 敵は全滅しましたね」
ヴィオラ・コーディエ「ノエル、どうしたんだ? いつもだったらもっと・・・」
ノエル・エンジェライト「・・・すみませんでした」
ヴィオラ・コーディエ「寝不足かもよ? 昨日、ミモザと遅くまで話してたもんね」
シグバート・フォン・ブラッドショット「・・・仕方がない 今日はオレとミモザとヴィオラ中心に戦うぞ」
ノエル・エンジェライト「・・・すみません」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・・・・」
〇噴水広場
プレーン王国
エピドートの町
ヴィオラ・コーディエ「とうちゃーく!」
ミモザ・クラリティ「夜になる前に到着してよかったです」
シグバート・フォン・ブラッドショット「宿へ行く前に買い出しをするぞ」
ヴィオラ・コーディエ「えー? 明日でもよくない?」
シグバート・フォン・ブラッドショット「デアネイがいるんだ 明朝すぐ発てるようにすべきだろう」
ヴィオラ・コーディエ「それもそっか」
シグバート・フォン・ブラッドショット「では、オレとノエル ミモザ、ヴィオラ、デアネイに分かれて・・・」
デアネイ・フォン・スペサルト「ま、待って!」
デアネイ・フォン・スペサルト「ボク、義兄上とヴィオラさんと一緒がいい!」
「!」
ヴィオラ・コーディエ「別にいいけど・・・ なんで?」
デアネイ・フォン・スペサルト「え、えっと・・・」
ノエル・エンジェライト「・・・ぼくはかまいません」
シグバート・フォン・ブラッドショット(そういえば・・・ ミモザとノエルは昨夜なにか話していたな)
シグバート・フォン・ブラッドショット(オレが来たことで話を中断させてしまったかもしれない)
シグバート・フォン・ブラッドショット「わかった ではオレとヴィオラとデアネイ、ミモザとノエルに分かれて行動するぞ」
ミモザ・クラリティ「シグバート様・・・!」
デアネイ・フォン・スペサルト「ありがとう、義兄上!」
ミモザ・クラリティ「ヴィオラさん、あの・・・」
ヴィオラ・コーディエ「よーし 店が閉まる前に行こうぜ!」
ノエル・エンジェライト「・・・・・・」
ミモザ・クラリティ「うう・・・」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・・・・」
〇市場
ヴィオラ・コーディエ「干し肉の塩漬けが安く売ってて助かったな!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「保存期限が近かったからだ 早めに食べなければな」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・・・・」
デアネイ・フォン・スペサルト「・・・義兄上! ボク、あの肉饅頭食べたい!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「もうすぐ夕飯だぞ 我慢しろ」
デアネイ・フォン・スペサルト「だって城に戻ったら買い食いなんかできないもん」
デアネイ・フォン・スペサルト「お願い、義兄上!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「・・・・・・ 仕方がないな」
デアネイ・フォン・スペサルト「義兄上、ありがとう!」
ヴィオラ・コーディエ「いいなー あたしも買おっかな」
シグバート・フォン・ブラッドショット「おまえは我慢しろ」
ヴィオラ・コーディエ「ちぇっ わかったよ」
デアネイ・フォン・スペサルト「ボク、ここでヴィオラさんと待ってるね はい、お金」
シグバート・フォン・ブラッドショット「・・・なぜオレが買いに行かされるんだ?」
デアネイ・フォン・スペサルト「ね、ヴィオラさん・・・」
デアネイ・フォン・スペサルト「あの人・・・ ・・・ノエルさんって 姉上のこと好きなの?」
ヴィオラ・コーディエ「え?」
デアネイ・フォン・スペサルト「だって、意識してるって・・・」
ヴィオラ・コーディエ「ああ 昨日の話、聞いてたのか?」
ヴィオラ・コーディエ「そんなんじゃないと思うけど・・・ あたし、そういうのよくわかんないからなぁ」
デアネイ・フォン・スペサルト(・・・そうだろうな)
デアネイ・フォン・スペサルト(国のための婚約だけど・・・ 義兄上に不満はないように見える)
デアネイ・フォン・スペサルト(けど・・・ 姉上はどうなんだろう・・・)
シグバート・フォン・ブラッドショット「待たせたな」
ヴィオラ・コーディエ「あ、シグバート!」
ヴィオラ・コーディエ「今デアネイと話してたんだけどさ ノエルってミモザの・・・」
デアネイ・フォン・スペサルト「わーっ! ちょっとヴィオラさんっ!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「どうした? 急に大声を出して」
デアネイ・フォン・スペサルト「なんでもないのっ!」
デアネイ・フォン・スペサルト「義兄上に言っちゃダメじゃない! 姉上の婚約者なんだから!」
ヴィオラ・コーディエ「あ、そっか ごめんごめん!」
シグバート・フォン・ブラッドショット「・・・?」
デアネイ・フォン・スペサルト「女同士の内緒話だよ 義兄上には秘密!」
デアネイ・フォン・スペサルト(・・・後で姉上に訊いてみよう)
デアネイ・フォン・スペサルト(もし・・・ 姉上が義兄上との結婚を望まないなら ・・・ボクは・・・)