エピソード24(脚本)
〇渓谷
ニルは以前ギラノスを刈ったときに、アイリが実践していた方法を試すことにした。
近くにいたラウルをさくっと狩り、その死骸を川辺に配置したあと、近くの茂みに身を隠す。
あとはギラノスがおびきよせられて来るのを待つだけだ。
ここからは長期戦となる。
痺(しび)れを切らして茂みから出たら、警戒されてしまうだろう。
ニルはキラキラとした水面を見ながら、獲物がかかるのを待った。
〇渓谷
2時間後。
湖畔に響き渡るのは凄まじい轟音だ。
茂みから覗くと、巨体を揺らしながら近づいて来るギラノスの姿があった。
ニルはギラノスがラウルに食らいつくのを待たず、さっと茂みから出た。
ニルに気付いたギラノスは、雄叫(おたけ)びを上げて突進してくる。
ニルは、駄目になったフリューゲラスのコアの代わりに、間に合わせのものがはめ込まれたヴェラグニスを見下ろす。
そしてギラノスを睨みつけると、素早く剣を構え、柄をぐっと捻(ひね)った。
刀身にオレンジの脈が入る。
その間にも、ギラノスの鋭い爪はニルに迫ってきている。
しかしニルは焦ることなく剣を振りかぶり、ギラノスを避けるようにステップして水平方向にその機体を真っ二つにした。
ガシャン、とギラノスが崩れ落ちる。
ニルが剣を振りかぶってから、たった2秒ほどの時間だった。
あっという間にギラノスを討伐したニルは、ゆっくりと横たわる死骸に近づく。
煙を上げる断面のそばに、綺麗にふたつに割れたギラノスのコアがあった。
コアを拾い上げて、ニルは苦笑いをこぼす。
ニル「あちゃー・・・まあいいか」
ニルはライザーに渡された銃に青い弾を込めると、銃口を空に掲げてトリガーを引いた。
バシュン、と弾が打ち上がり、もくもくと青い煙が空高く伸びる。
無事に信号弾が上がったのを確認して、ニルは大きく背伸びをした。
近くの岩に腰掛けて、ライザーたちが来るのを待つ。
それからしばらくぼんやりしていると、木々をかき分けライザーたちが現れた。
ライザー「ああ、ここか」
ライザーと数人のギルド職員がニルのもとへ近づく。
そして、ニルの倒したギラノスを見て言葉を失った。
ライザーは「あー」と声をこぼし、ため息を吐いてニルを見る。
ライザー「・・・さすがだな」
ニル「一度倒したことがあったので」
ライザー「はは・・・なるほど」
ライザー「おし、パーツはギルドの方で回収する。 あとはベースキャンプで待機だ」
ニル「分かりました」
ニルはギルド職員の後に続き、ベースキャンプへと戻る。
その日は、特に何事もなく時間が過ぎていった。
〇渓谷
試験開始から2日後、事件は起こった。
期限に設定されていた日暮れを過ぎても、エドガーが帰ってこないのだ。
そこで、ライザーを含む数名の捜索隊が編成されることになった。
ニル「待ってください。 僕も行きます」
ベースキャンプで待機していたニルは剣を手にライザーの前に立つ。
ニルの姿を一瞥し、ライザーが口を開いた。
ライザー「・・・いいだろう。ついてこい!」
ニル「はい!」
〇渓谷
しばらく渓谷の中を進んでいると、頭部がないギラノスの死骸が転がっていた。ライザーは死骸に駆け寄る。
ライザー「まだ切り口が新しいな・・・。 おそらく、ブッシュバウムの坊ちゃんがやったんだろう」
ライザー「だがそれなら、なんで・・・」
死骸のそばには、エドガーのポーチが落ちていた。わずかに開いたポーチからは赤と青の信号弾が覗いている。
死骸から伸びるように、地面からわずかな足跡や痕跡が残っていた。
ライザーは頭を掻いて立ち上がる。
ライザー「痕跡を見る限り、どうやらギラノスはもう1匹いるみたいだ」
ライザー「おそらく、ブッシュバウムの坊ちゃんはそいつを追ったんだろう」
ライザー「手分けして探すぞ。 まだそう遠くへは行っていないはずだ」
ライザーの言葉に、その場にいる面々が頷いた。
ライザー「捜索は、俺、ニル、ギルド職員3名に分かれる。残った2名はここに待機だ」
ギルド職員「いいんですか? 受験生をひとりで行かせるなんて・・・」
ライザー「お前らは、こいつが切ったギラノスを見てなにも感じなかったのか?」
ギルド職員「そ、それは・・・そうですが」
ライザー「本来ならこいつがこんなとこで上級試験を受けてるなんて、ちゃんちゃらおかしな話なんだよ」
ギルド職員は黙った。
ライザーはニルに視線を向ける。
ライザー「そうだろ? “名滅”のニル」
ニル「・・・・・・」
ライザーの問いかけにニルは苦笑いを返す。
ギルド職員「め、名滅・・・!?」
ライザー「これで分かっただろ。 さあ、早くブッシュバウムの坊ちゃんを探すぞ」
〇渓谷
それからニルたちは3手に分かれてエドガーを探し始めた。
ニルは、エドガーの名前を呼びながら渓谷の中を歩き回る。
すると遠くから微(かす)かに、金属のこすれ合う音が聞こえることに気づいた。
ニル「っ、エドガー!」
エドガー「!? なんで君がここに・・・」
そこには、ギラノスと刃を交えるエドガーがいた。
しかも、ただのギラノスではない。
今までニルが見たことのない、頭部がふたつある個体だった。
双頭のギラノスは、エドガーに敵意をむき出しにしている。
エドガーは毅然とギラノスと対峙していたが、その身体はすでにボロボロだった。
ニルは助太刀に入ろうと剣を抜く。
エドガー「手を出すな! これは俺の獲物だ」
ニル「でも・・・」
エドガーの剣は片方のギラノスの目に刺さっている。しかし彼が手にしているのは短剣だけだ。
苦戦しているのは明らかである。
しかし——
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