もう一つの◯◯(脚本)
〇病院の診察室
氷見 怜士「お邪魔しまーす」
謎の医師「まぁ適当に座んな」
氷見 怜士「どうも・・・」
謎の医師「飲む?」
氷見 怜士「や、さすがにそれは・・・」
謎の医師「ふぅん? 真面目なんだ」
氷見 怜士「真面目っていうかモラルの問題じゃ・・・」
謎の医師「はは、モラルか。 あたしに一番縁遠い言葉だわ」
謎の医師「で、お兄さん誰の身内?」
氷見 怜士「・・・・・・」
謎の医師「言えない?」
氷見 怜士「・・・すんません」
謎の医師「いいよ、別に」
氷見 怜士「あ、ありが──」
謎の医師「西園寺家の人間なら追い出してたけど」
氷見 怜士「えっ・・・」
謎の医師「ま、ちょっとした私怨があんのよ。 あの財閥に」
氷見 怜士「私怨って・・・」
謎の医師「ちょうどそこの孫娘が入院しててさ。 もしかしてアンタも関係者かなって」
氷見 怜士「・・・西園寺家の人間ではないです」
謎の医師「だろうね。 っぽくないし」
氷見 怜士「でも・・・その孫娘とは・・・ 兄妹です」
謎の医師「えっ?」
氷見 怜士「って言っても、血は繋がってなくて・・・ ただ俺が、天音の亡くなった父親と約束した だけですけど」
謎の医師「父親って西園寺慎の?」
氷見 怜士「ええ・・・よくご存じですね」
謎の医師「・・・不思議なこともあんのね」
氷見 怜士「え?」
謎の医師「ううん、なんでもない。 ほら、財界で有名だったから知ってただけ」
氷見 怜士「はぁ・・・」
謎の医師「とにかく、アンタは孫娘を守ってやんな」
謎の医師「・・・可哀想な子だからさ」
氷見 怜士「・・・?」
謎の医師「返事は?」
氷見 怜士「へっ? あ、はい」
謎の医師「何それ、頼りないなぁ」
氷見 怜士「いや、急に振るから・・・」
謎の医師「はいはい。 それじゃ、さっさと連れていきな」
氷見 怜士「えっ?」
謎の医師「守るんだろ? じゃあこんなとこにいちゃダメだ」
謎の医師「天音を連れて、病院を出な」
氷見 怜士「えっ──」
謎の医師「そんでさっさと家族になっちまえ」
氷見 怜士「ええっ!?」
謎の医師「今の日本の法律じゃ方法は限られてるけど。 親の戸籍に入れて兄妹にするか、 自分の戸籍に入れて娘にするか──」
氷見 怜士「・・・・・・」
謎の医師「って、どっちも違ぇ顔だな」
氷見 怜士「いや、そんなことは・・・」
謎の医師「はいはい、んじゃさっさと行った行った」
氷見 怜士「・・・ありがとうございます」
謎の医師「・・・・・・」
謎の医師「不思議なこともあるもんだ・・・ もしかして慎兄さんが呼び寄せたのか? なんて──」
看護師の声「先生、急患です!!!! VIPですのでお早く!!!!」
謎の医師「・・・VIP?」
〇海岸線の道路
〇朝日
氷見 怜士「・・・・・・」
西園寺 天音「・・・海?」
氷見 怜士「ああ」
西園寺 天音「だよね。 匂いと、波の音・・・ 見えないから余計に感じる」
氷見 怜士「そうか」
西園寺 天音「でも、何で海?」
氷見 怜士「まぁ、なんとなく?」
西園寺 天音「ふぅん・・・?」
氷見 怜士「・・・あのさ」
西園寺 天音「? うん」
氷見 怜士(家族になろうって言うだけなのに・・・ なんでこんな緊張するんだ?)
西園寺 天音「氷見さん?」
氷見 怜士「あ! えーっと・・・」
西園寺 天音「・・・私、もう西園寺家には戻れない」
氷見 怜士「え・・・」
西園寺 天音「“鍵”としての価値がない私は、 西園寺家には必要ないから」
氷見 怜士「いや、お前の目は──」
西園寺 天音「私、氷見さんと家族になりたい」
氷見 怜士「・・・え?」
西園寺 天音「勝手に飛び出して、離れて・・・ 自分でも都合良いこと言ってると思ってる」
西園寺 天音「でも・・・ 出来ればこの先、氷見さんと── お兄ちゃんと暮らしたい」
氷見 怜士「・・・天音・・・」
西園寺 天音「目がどこまで回復するか分からないけど、 家事もちゃんとするし」
西園寺 天音「でも・・・ 妹だって思えないなら、諦める」
氷見 怜士「・・・妹なんて思えない」
西園寺 天音「・・・っ・・・」
西園寺 天音「・・・そうだよね。 今さら・・・勝手すぎるよね」
氷見 怜士「そうじゃない」
氷見はそっと天音の手を握り、
自分の胸元へ引き寄せた。
西園寺 天音「・・・っ!?」
氷見 怜士「妹とかじゃなくて・・・ 俺と家族になってほしい」
西園寺 天音「それってプロポーズ?」
氷見 怜士「まぁ、そう・・・なるよな」
西園寺 天音「ええっ!? でも、私たち兄妹なのに・・・」
氷見 怜士「そういや、ちゃんと話してなかったな」
西園寺 天音「え?」
〇警察署の入口
警察官A「おい聞いたか? 西園寺家の」
警察官B「ああ・・・ 息子が当主に手をかけたんだろ?」
警察官A「命に別状はないらしいけど・・・ 息子は逮捕されちまったし」
警察官B「どうなるんだろうな」
篠野 大助「・・・・・・」
〇ジャズバー
廣瀬 ルイ「・・・で、なんでウチなわけ?」
氷見 怜士「天音の着替えとか分かんねぇから、 手伝ってほしくて」
廣瀬 ルイ「怜士くんさぁ、あたしのこと殺しかけといて よく来れたわよね」
氷見 怜士「いや、俺だって殺されるかけたし・・・ 別の意味で」
氷見 怜士「だいたい、あれは気絶させただけだから!」
廣瀬 ルイ「はぁ!? むちゃくちゃ痛かったんですけど!?」
氷見 怜士「ご、ごめんて・・・」
天音の声「あ、あのー」
西園寺 天音「お洋服、これで合ってます?」
廣瀬 ルイ「あら、素敵じゃな〜い」
氷見 怜士「なっ・・・!!」
廣瀬 ルイ「ちょっと傷が痛々しいけれど、 目が開けられる様になって良かったわね」
西園寺 天音「は、はい」
氷見 怜士「なんつー服着せてんだよ!」
廣瀬 ルイ「ええー? 似合うと思ったのに。 あたしのショーの衣装」
氷見 怜士「他にもっとあんだろ・・・」
廣瀬 ルイ「天音ちゃん、ほんとにこんなのが彼氏で いいの?」
西園寺 天音「えっ・・・」
廣瀬 ルイ「付き合ったら面倒くさいタイプだと思うけど」
西園寺 天音「付き合うっていうか・・・ もう・・・」
廣瀬 ルイ「もう?」
西園寺 天音「結婚・・・するので」
廣瀬 ルイ「ええっ!?」
天音は恥ずかしそうにバックヤードへ
駆け込んだ。
廣瀬 ルイ「・・・マジ?」
氷見 怜士「・・・ああ」
廣瀬 ルイ「この短期間で何があったの?」
氷見 怜士「まぁ・・・色々とな」
廣瀬 ルイ「ふぅん? ま、興味ないしいいけどね」
氷見 怜士「なんだよそれ」
西園寺 天音「これなら大丈夫かも」
氷見 怜士「おー、懐かしいな。 それってルイが男──」
廣瀬 ルイ「コラ!!」
氷見 怜士「いててて・・・ なんでバッド持ってんだよ」
廣瀬 ルイ「元高校球児ですから?」
氷見 怜士「なんだよその理由」
西園寺 天音「ぷっ・・・ あはは、二人とも仲良しなのね」
廣瀬 ルイ「どこがよ・・・」
氷見 怜士(・・・ちょっとは元気になったみたいだな)
〇警察署の廊下
西園寺 密「・・・・・・」
篠野 大助「よう」
西園寺 密「・・・? どちらさまですか」
篠野 大助「ま、名乗るほどでもねぇけど・・・ ちょっと前まで西園寺家の“犬”だった者だ」
西園寺 密「・・・そうですか」
篠野 大助「なぁ、西園寺家の次の当主はあんただったんだろ?」
西園寺 密「父を刺すまではそうだったでしょうね」
篠野 大助「じゃあ、その次は? あんた兄弟いねぇし、親戚っつっても──」
西園寺 密「放っておいてくれませんか! ・・・だいたい、アンタに話すことじゃない」
篠野 大助「ま、そりゃごもっとも・・・」
篠野 大助「だけどよ」
篠野 大助「ここで西園寺天音が当主になるって可能性が グッと高まったわけだ」
西園寺 密「アンタ、何かたくらんでんのか? だいたい天音はもう目の傷が──」
篠野 大助「オレだったらあのお嬢ちゃんだけに 背負わせねぇな」
西園寺 密「・・・は?」
篠野 大助「“合鍵” あると思わねぇか?」
西園寺 密「合鍵って──」
〇ジャズバー
例えば、天音に一番遠くて近い人間・・・
絶対に天音を裏切らないという確信がある、
そんな奴がいれば──
“合鍵”に相応しいと思わないか?